「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和二年(2020)3月27日(金曜日)
通巻6420号
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中国基軸のサプライチェーンから世界は脱却できるか?
チャイナ・プラス・ワンの掛け声は一時的に高らかだったが。
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「世界の工場」がいつしか中国基軸のサプライチェーンとなって、韓国、台湾は半導体を、日本は中枢部品やエンジンを供給し、中国で組み立てた品物が米国へ輸出され、ほくほく顔で儲けていた中国は、その利益の大半を軍事拡大に投じた。
米国トランプ政権は、この構造に抜本的変化をもたらせようと、まずは高関税付与の貿易戦争を始めた。
ついで知財を守るためにハイテク防衛のELリスト、ファーウェイを排除し、スパイを摘発し、たとえば日本も、この事実上の「新ココム」に抵触するために中国へのハイテク輸出の一部が困難となった。
台湾は中国での生産を縮小し、米国へ工場を移転する方向へ転換した。ひとり遅れた日本は、ひたすら友好拡大、「日中新時代」の譫言を並べて右往左往してきた。
中国は三年以内に半導体を自製すると宣言し、米国は「中国製造 2025」を明確に標的とし、当該技術をもつ西側企業を監視する。
こうした状況の変化に狼狽した日本は、数年前から「チャイナ・プラス・ワン」という方針を選択したはずだったが、やはり企業の多くが中国依存度の泥沼から抜け切れなかった。それでも幾つかの企業はリスク分散で、ASEAN諸国に製造拠点を移してきた。
中国基軸のサプライチェーンから世界は脱却できるか? そして、それは何時?
おそらく三年から五年の歳月が必要だろう。自動車生産は、中国工場をいきなり閉鎖出来ず、サプライチェーンの組み替えには国内新工場などが必要、あるいはアジアの拠点を再構築する必要がある。
結局、チャイナ・アズ・ワンノブゼム(中国生産の選択肢の一つ)というサプライチェーンの根本的な大変革は五年ほどの時間が必要である。それもアメリカが強引に主導し、日本企業が付いていくかたちで初めて達成されるだろう。
西側のアキレス腱の一つが製薬にある。
マスクが払底した。依然として「マスク売り切れ」の表示が薬局や医薬チェーンにある。じつは日本はマスクを中国に依存していたのだ。
死者が鰻登りのイタリアでも人工呼吸器が決定的に不足している。イタリアのメーカーは組み立てに必要な部品を中国から輸入してきた。
▼医薬品も習近平の「中国製造 2025」の目標だ
いつの間にか中国が製薬、医薬品の大国としてのし上がっていた。
第一は欧米勢の中国への投資と開発援助。第二に中国政府の補助育成、巨額予算の投入。そして第三に欧米の医療関係、医学、生命工学の大学やラボに留学していた中国人およそ25万名が帰国したことがあげられる。
米国は「抗生物質の80-90%、鎮痛・解熱剤の70%、血栓症防止薬としてのヘパリンの40%などを中国に依存していた」(桜井よしこ「日本ルネッサンス」、『週刊新潮』、4月2日号)ことが判明した。
医薬品といえば米国、ドイツ、スイス、しそして日本ではなかったのか、それが生産コストの安さから、中国に生産拠点を移管してしまった。
ジェネリックはインドが本場と思いきや、じつは中国の製薬業が西側向け輸出で大きなシェアを誇り、日本も米国も中国に依存している事実がある。
しかも医薬品が「中国製造2025」の達成目標に加わっている。
ということは「医薬品が『メイド・イン・チャイナ』から『インベンテッド・イン・チャイナ』(中国で発明された医薬品)に変貌する」(英誌『エコノミスト』、2019年9月28日号)。
中国はすでに、この西側のアキレス腱を見抜き、交渉の武器として駆使している。日本にレアアースの禁輸を行って大騒ぎをしたが、中国は抗生物質などの輸出を止めると米国を脅しつつある。
令和二年(2020)3月27日(金曜日)
通巻6420号
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中国基軸のサプライチェーンから世界は脱却できるか?
チャイナ・プラス・ワンの掛け声は一時的に高らかだったが。
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「世界の工場」がいつしか中国基軸のサプライチェーンとなって、韓国、台湾は半導体を、日本は中枢部品やエンジンを供給し、中国で組み立てた品物が米国へ輸出され、ほくほく顔で儲けていた中国は、その利益の大半を軍事拡大に投じた。
米国トランプ政権は、この構造に抜本的変化をもたらせようと、まずは高関税付与の貿易戦争を始めた。
ついで知財を守るためにハイテク防衛のELリスト、ファーウェイを排除し、スパイを摘発し、たとえば日本も、この事実上の「新ココム」に抵触するために中国へのハイテク輸出の一部が困難となった。
台湾は中国での生産を縮小し、米国へ工場を移転する方向へ転換した。ひとり遅れた日本は、ひたすら友好拡大、「日中新時代」の譫言を並べて右往左往してきた。
中国は三年以内に半導体を自製すると宣言し、米国は「中国製造 2025」を明確に標的とし、当該技術をもつ西側企業を監視する。
こうした状況の変化に狼狽した日本は、数年前から「チャイナ・プラス・ワン」という方針を選択したはずだったが、やはり企業の多くが中国依存度の泥沼から抜け切れなかった。それでも幾つかの企業はリスク分散で、ASEAN諸国に製造拠点を移してきた。
中国基軸のサプライチェーンから世界は脱却できるか? そして、それは何時?
おそらく三年から五年の歳月が必要だろう。自動車生産は、中国工場をいきなり閉鎖出来ず、サプライチェーンの組み替えには国内新工場などが必要、あるいはアジアの拠点を再構築する必要がある。
結局、チャイナ・アズ・ワンノブゼム(中国生産の選択肢の一つ)というサプライチェーンの根本的な大変革は五年ほどの時間が必要である。それもアメリカが強引に主導し、日本企業が付いていくかたちで初めて達成されるだろう。
西側のアキレス腱の一つが製薬にある。
マスクが払底した。依然として「マスク売り切れ」の表示が薬局や医薬チェーンにある。じつは日本はマスクを中国に依存していたのだ。
死者が鰻登りのイタリアでも人工呼吸器が決定的に不足している。イタリアのメーカーは組み立てに必要な部品を中国から輸入してきた。
▼医薬品も習近平の「中国製造 2025」の目標だ
いつの間にか中国が製薬、医薬品の大国としてのし上がっていた。
第一は欧米勢の中国への投資と開発援助。第二に中国政府の補助育成、巨額予算の投入。そして第三に欧米の医療関係、医学、生命工学の大学やラボに留学していた中国人およそ25万名が帰国したことがあげられる。
米国は「抗生物質の80-90%、鎮痛・解熱剤の70%、血栓症防止薬としてのヘパリンの40%などを中国に依存していた」(桜井よしこ「日本ルネッサンス」、『週刊新潮』、4月2日号)ことが判明した。
医薬品といえば米国、ドイツ、スイス、しそして日本ではなかったのか、それが生産コストの安さから、中国に生産拠点を移管してしまった。
ジェネリックはインドが本場と思いきや、じつは中国の製薬業が西側向け輸出で大きなシェアを誇り、日本も米国も中国に依存している事実がある。
しかも医薬品が「中国製造2025」の達成目標に加わっている。
ということは「医薬品が『メイド・イン・チャイナ』から『インベンテッド・イン・チャイナ』(中国で発明された医薬品)に変貌する」(英誌『エコノミスト』、2019年9月28日号)。
中国はすでに、この西側のアキレス腱を見抜き、交渉の武器として駆使している。日本にレアアースの禁輸を行って大騒ぎをしたが、中国は抗生物質などの輸出を止めると米国を脅しつつある。
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