「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和五年(2023) 4月19日(水曜日)
通巻第7713号 <前日発行>
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パーレビー元イラン国王の遺児(元皇太子)がイスラエルを初訪問
事実上、米国で亡命生活をおくる長男が政治活動を活発化
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クロシェ・レザ・パーレビー(パファヴィーとも表記)は元国王の長男(44歳)。事実上の亡命先である米国では保守系シンクタンクの「ハドソン研究所」で講演をおこなうなど「政治活動」を展開している。国際会議にも出席しており、様々な舞台では「イラン元皇太子」と呼ばれている。
この長男は、潜在的には海外亡命仲の「イラン国王」であり、ホメイニ体制下のイラン宗教独裁政権にとっては「邪魔」な存在である。
ホメイニ革命以前の20年ほどはイスラエルとイランは良好な関係だったし、バーレビー時代のイランは街中を女性がビキニで歩いていても誰も咎めなかった。
2023年4月17日、パーレビー国王の遺児クロシェ・レビ夫妻はイスラエルを初めて訪問した。イランと敵対するネタニヤフ政権にとっては実質的に歓迎だろう。ベングリオン空港には情報大臣のガムリエルが出迎えた。イスラエル情報省の招待だからである。到着後、パーレビー夫妻はしき式典に出席した。イスラエルの「ホロコースト追悼日」だったので、ネタニヤフ首相、ヘルツォグ大統領とも会場で面談した。
米国亡命中の「国王」のもとには旧王政の眷属があつまり、かなり高度なイラン情報がもたらされているとされる。だからイスラエルの情報相が空港へ出迎えるのも、高度な情報の交換が目的である。
空港で開かれた記者会見で「国王」は「『わがくに』が平和であることが可能だ」と発言した。
パーレビー一家を襲った悲劇は、米国外交の失敗と、イラン国内での秘密警察の民主運動弾圧に起因する。
1979年にホメイニ革命が勃発し、国王は自ら操縦するボーイング727で海外へ逃亡、モロッコ、バハマ、メキシコを彷徨った。
その後、米国が亡命を受け入れたことに激怒したイランは、1979年11月4日にテヘランの米国大使館を占拠し、大勢を人質として一年以上拘束した。
ときのカーター政権は救助作戦に失敗して世論の批判を浴び、大統領選挙では共和党のレーガンが圧勝した。パーレビーは米国からエジプトへ移り、1980年にエジプトで逝去していた。
1981年レーガン政権はパーレビー元国王遺族の米国移住を認め、未亡人と子供たちが米国で生活を始めた。
しかし、一家の不幸がつづき2001年に三女のレイラは薬物中毒で死亡(ロンドン)。
2011年には次男のアリがボストンで自殺した。アリは古代ペルシア史の研究をしていた。なお長男のほか長女、次女は健在である。
▲イスラエルで「亡命国王」は何を語らったか?
「イランが核爆弾をもつことになるのは数ヶ月以内だ」(アジアタイムズ、2023年4月12日)「
米バイデン大統領は昨夏の中東歴訪のおりにイスラエルにも立ち寄り、当時のラビト首相らと会談した。
バイデンはBBCとのインタビューで「イランへの武力行使はありえる」と発言、直後の同年8月13日のイスラエルのTV12とのインタビューでも「最後の手段だが、武力行使もありうる」とした。
トランプ前政権はイランとの核合意を廃棄したが、バイデン政権になって、この決定をひっくり返しイランとの協議を継続している。
イランの核開発を脅威視するイスラエルは核施設のコンピュータ・システムにウィルスを仕掛けて開発を遅らせる一方で、イランの核物理学者らを暗殺してきた。
また核施設の一部を爆破するなど、イスラエルのエージェントが複数イランに潜伏しているようである。
イスラエルにとって、もしイランの核弾頭が開発されるとなると、生存をおびやかされる脅威であり、開発を妨害し、完成を断念させる工作がなされてきた。
残された最後の手段が、嘗てイラクのオシラク原子炉を空爆破壊したように、イラン核施設の空爆である。そのためにサウジ、カタール、UAEなどとも「アブラハム合意」によって共存の道を歩んで来た。
イラク上空の制空権はアメリカが抑えているので問題は少ないが、サウジアラビアが変身し、サウジ皇太子とイラン大統領は中国の仲介で国交を回復した。
イランはサウジ国王の招待を発表した。パーレビー元皇太子がテルアビブを訪問した直後にこの発表がなされた。
こうした危機的情報はきわめて酷似しているのが日本と北朝鮮の関係である。
イランと異なり、北は核爆弾を所有した。今後、北朝鮮が小型核をミサイルに装填すると、どうなるかは言うまでも無いだろう。
ところが、日本には先制攻撃で北朝鮮の核基地を空爆破壊する軍備をもたず、まして北の情報はアメリカに依存し、そればかりか空爆して軍事的脅威をとりのぞくという国家の存亡をかけた選択肢の発想さえないのである。
高利貸しの国といわれたイスラエルは尚武の国となり、嘗て尚武精神に燃えた日本は拝金主義の商人の国となった。
令和五年(2023) 4月19日(水曜日)
通巻第7713号 <前日発行>
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パーレビー元イラン国王の遺児(元皇太子)がイスラエルを初訪問
事実上、米国で亡命生活をおくる長男が政治活動を活発化
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クロシェ・レザ・パーレビー(パファヴィーとも表記)は元国王の長男(44歳)。事実上の亡命先である米国では保守系シンクタンクの「ハドソン研究所」で講演をおこなうなど「政治活動」を展開している。国際会議にも出席しており、様々な舞台では「イラン元皇太子」と呼ばれている。
この長男は、潜在的には海外亡命仲の「イラン国王」であり、ホメイニ体制下のイラン宗教独裁政権にとっては「邪魔」な存在である。
ホメイニ革命以前の20年ほどはイスラエルとイランは良好な関係だったし、バーレビー時代のイランは街中を女性がビキニで歩いていても誰も咎めなかった。
2023年4月17日、パーレビー国王の遺児クロシェ・レビ夫妻はイスラエルを初めて訪問した。イランと敵対するネタニヤフ政権にとっては実質的に歓迎だろう。ベングリオン空港には情報大臣のガムリエルが出迎えた。イスラエル情報省の招待だからである。到着後、パーレビー夫妻はしき式典に出席した。イスラエルの「ホロコースト追悼日」だったので、ネタニヤフ首相、ヘルツォグ大統領とも会場で面談した。
米国亡命中の「国王」のもとには旧王政の眷属があつまり、かなり高度なイラン情報がもたらされているとされる。だからイスラエルの情報相が空港へ出迎えるのも、高度な情報の交換が目的である。
空港で開かれた記者会見で「国王」は「『わがくに』が平和であることが可能だ」と発言した。
パーレビー一家を襲った悲劇は、米国外交の失敗と、イラン国内での秘密警察の民主運動弾圧に起因する。
1979年にホメイニ革命が勃発し、国王は自ら操縦するボーイング727で海外へ逃亡、モロッコ、バハマ、メキシコを彷徨った。
その後、米国が亡命を受け入れたことに激怒したイランは、1979年11月4日にテヘランの米国大使館を占拠し、大勢を人質として一年以上拘束した。
ときのカーター政権は救助作戦に失敗して世論の批判を浴び、大統領選挙では共和党のレーガンが圧勝した。パーレビーは米国からエジプトへ移り、1980年にエジプトで逝去していた。
1981年レーガン政権はパーレビー元国王遺族の米国移住を認め、未亡人と子供たちが米国で生活を始めた。
しかし、一家の不幸がつづき2001年に三女のレイラは薬物中毒で死亡(ロンドン)。
2011年には次男のアリがボストンで自殺した。アリは古代ペルシア史の研究をしていた。なお長男のほか長女、次女は健在である。
▲イスラエルで「亡命国王」は何を語らったか?
「イランが核爆弾をもつことになるのは数ヶ月以内だ」(アジアタイムズ、2023年4月12日)「
米バイデン大統領は昨夏の中東歴訪のおりにイスラエルにも立ち寄り、当時のラビト首相らと会談した。
バイデンはBBCとのインタビューで「イランへの武力行使はありえる」と発言、直後の同年8月13日のイスラエルのTV12とのインタビューでも「最後の手段だが、武力行使もありうる」とした。
トランプ前政権はイランとの核合意を廃棄したが、バイデン政権になって、この決定をひっくり返しイランとの協議を継続している。
イランの核開発を脅威視するイスラエルは核施設のコンピュータ・システムにウィルスを仕掛けて開発を遅らせる一方で、イランの核物理学者らを暗殺してきた。
また核施設の一部を爆破するなど、イスラエルのエージェントが複数イランに潜伏しているようである。
イスラエルにとって、もしイランの核弾頭が開発されるとなると、生存をおびやかされる脅威であり、開発を妨害し、完成を断念させる工作がなされてきた。
残された最後の手段が、嘗てイラクのオシラク原子炉を空爆破壊したように、イラン核施設の空爆である。そのためにサウジ、カタール、UAEなどとも「アブラハム合意」によって共存の道を歩んで来た。
イラク上空の制空権はアメリカが抑えているので問題は少ないが、サウジアラビアが変身し、サウジ皇太子とイラン大統領は中国の仲介で国交を回復した。
イランはサウジ国王の招待を発表した。パーレビー元皇太子がテルアビブを訪問した直後にこの発表がなされた。
こうした危機的情報はきわめて酷似しているのが日本と北朝鮮の関係である。
イランと異なり、北は核爆弾を所有した。今後、北朝鮮が小型核をミサイルに装填すると、どうなるかは言うまでも無いだろう。
ところが、日本には先制攻撃で北朝鮮の核基地を空爆破壊する軍備をもたず、まして北の情報はアメリカに依存し、そればかりか空爆して軍事的脅威をとりのぞくという国家の存亡をかけた選択肢の発想さえないのである。
高利貸しの国といわれたイスラエルは尚武の国となり、嘗て尚武精神に燃えた日本は拝金主義の商人の国となった。
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