紅夜叉は利用された

横浜大会翌日、ＬＬＰＷ道場。まだ、神取の姿は無い。
「ねぇ、神取さん来たら・・・どうしようか・・」
「やっぱ北斗の話はしないほうが無難でしょ」
紅と斎藤がヒソヒソと内緒話をしている。
勝利を信じていた神取の敗戦、それはＬＬの若手にとってもショックであった。
そして神取の気持ちを思うと、どう接して良いのかわからない。
重苦しい空気が道場内に漂っている。
「別に・・昨日の帰りは割と普通だったよ、神取さん」
ハーレーが会話に割り込んでくる。しかし内心、気にはなっていた。
「あんた達、変に気を使わなくていいんじゃない？」
見かねた風間が声をかけた。少し困った様な表情で笑っている。
「まだ大阪だってあるんだからさ、神取だって落ち込んでられないよ！」
風間がわざと明るく振舞い、場の雰囲気を変えようとする。
釈然としない表情で、紅がとりあえず頷く。
「神取さん・・今日、来るかな？」
「あれだけの試合の後だしね・・・どうだろう・・」
一向に明るくならない雰囲気に、風間が溜息をつく。
「たぶん午後には来るでしょ。さ、始めるよ！」
「ハァ～イ！」「オォ～！」
風間の声に、若手等が無理に元気な声で返事をする。
「あ、それから一つだけ、みんなにお願いがあるんだけど・・
神取が来たら、絶対に北斗の話はしないでね！」