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小説「償い」矢口敦子著の感想

2008年01月17日 | 読書
高齢者、障害者、ホームレスなどの社会的弱者ばかりを狙った連続殺人事件。
そして、犯人は15歳の少年かもしれない…。
『償い』という重い題名。
このミステリーの中に「救い」なんてあるのか?と思いながらも、数週間前の新聞広告に引き寄せられて読み始めました。

妻子を亡くし、自分自身もなくして「男」という普通名詞になりホームレスになった男。
お金も食べる物も寝る所もなく、袋叩きに遭い、2度も留置場に入れられて、地べたを這いずりまわりながら真相を求めていく。
その姿は、探偵といえるようなカッコイイものではありません。
しかし、彼は私が知っているどの探偵よりもカッコイイです。
自分自身をなくそうとしたはずなのに、いや、すべてを亡くしたからこそ、彼は心を見つめ直すことができたのでしょう。
心は心でしか救えない。
悲しみは悲しみでしか救えないのでしょう。

「人の肉体を殺したら罰せられるのに、
 人の心を殺しても罰せられないのか?」

この命題が何度も心に突き刺されます。
的確な言葉と短い文章の切れ味は、まさにナイフのように鋭くて冷たいのですが、何故か読んでいて心地いいです。

読後に残るこの余韻をどう表現したらいいのかわかりませんが、読んでよかったと思いました。


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