中国語学習者のブログ

これって中国語でどう言うの?様々な中国語表現を紹介します。読者の皆さんと一緒に勉強しましょう。

紅楼夢 第一回 (その4)

2009年11月01日 | 紅楼夢

さて、前回、街できちがい坊主に出会った士隠でしたが、目の中に入れても痛くない娘の英蓮が不幸を運んでくると言われ、また僧侶の口から、今後の不幸を暗示することばが念じられます。

 士隠聴得明白,心下猶豫,意欲問他們来歴.只聴道人説道:“你我不必同行,就此分手,各干営生去罷.三劫后,我在北邙山等你,会斉了同往太虚幻境銷号。”那僧道:“最妙,最妙!”説畢,二人一去,再不見個踪影了.士隠心中此時自忖:這両個人必有来歴,該試一問,如今悔却晩也.

[訳]士隠は聞いてその内容は理解したが、心ではためらいがあり、彼らの来歴を聞きたいと思った。ただ道士のこう言うのだけが聞こえた。「我々はいっしょに行く必要はない。ここで分かれて、それぞれ仕事をしに行こう。三劫の後、私は北邙山であなたを待つので、会えたらいっしょに太虚幻境に行って登録を取り消そう。」僧侶は言った。「妙なるかな、妙なるかな。」言い終わると、ふたりは立ち去り、再びその姿を見ることはなかった。士隠は心の中でこの時思った。このふたりにはいわれがあるに違いなく、聞いてみないといけなかったのだが、今となっては残念ながら手遅れだ。

● 猶豫 you2yu4 ためらう
● 営生 ying2sheng1 仕事
● 銷号 xiao1hao4 登録を取り消す
● 踪影 zong1ying3 跡形。捜索の対象を指す。否定の形で使うことが多い
● 自忖 zi4cun3 推し量る。思う

 這士隠正痴想,忽見隔壁葫芦廟内寄居的一个窮儒-姓賈名化,表字時飛,別号雨村者走了出来.這賈雨村原系湖州人氏,也是詩書仕宦之族,因他生于末世,父母祖宗根基已尽,人口衰喪,只剩得他一身一口,在家郷無益,因進京求取功名,再整基業.自前歳来此,又淹蹇住了,暫寄廟中安身,毎日売字作文為生,故士隠常与他交接.当下雨村見了士隠,忙施礼陪笑道:“老先生倚門佇望,敢是街市上有甚新聞否?”士隠笑道:“非也.適因小女啼哭,引他出来作耍,正是无聊之甚,兄来得正妙,請入小斎一談,彼此皆可消此永昼。”説着,便令人送女儿進去,自与雨村携手来至書房中.小童献茶.方談得三五句話,忽家人飛報:“厳老爺来拜。”士隠慌的忙起身謝罪道:“恕誑駕之罪,略坐,弟即来陪。”雨村忙起身亦譲道:“老先生請便.晚生乃常造之客,稍候何妨。”説着,士隠已出前庁去了.
 
 [訳]士隠がちょうど妄想にふけっていると、ふと隣のひょうたん廟に寄宿している貧しい儒者、姓は賈、名は化、字は時飛、号を雨村という者が出てくるのが見えた。この賈雨村というのは元々湖州の人で、読書人で役人の家柄であったが、末世に生まれたので、父母の祖先の財産は尽き果て、家族は衰え無くなり、ただ彼一人が残り、故郷にいても意味がなく、都に出て官職を得ようと、家屋敷を処分して、前年にここにやって来たものの、うまくいかず、しばらくは廟の中に身を寄せ、普段は揮毫や代筆をして暮らしていたが、士隠とはいつも付き合いがあった。雨村は士隠を見かけると、急いでお辞儀をして愛想笑いをして言った。「先生は門にもたれてしばらく街の方を見ておられましたが、おそらく街で何かあったのでございましょう?」士隠は笑って答えた。「そうではなく、ちょうど娘がぐずりましたので、連れてきて遊ばせておりまして、退屈をしていたところです。貴兄が来られてちょうどよい、中に入ってお話をし、お互いにこの昼をやり過ごしませんか。」そう言うと、人に娘を連れて行かせ、自分は雨村といっしょに書斎に入って行った。小僧が茶を淹れた。ちょうど二言三言話をしたところで、急に家の者が駆けつけて言うには、「厳の旦那様がお越しでございます。」士隠はあわてて体を起こし、謝った。「わざわざお越しいただいたのをだますことになったのをお許しください。しばらく座っていてください。しばらくしたら戻ってお相手しますので。」雨村は急いで体を起こし譲って言った。「先生、どうぞご随意に。私はいつも来ていますから、しばらくお待ちするのはなんでもありませんから。」そう言うと、士隠は入口の間の方に行った。

● 仕宦 shi4huan4 官職につく
● 根基 gen1ji1 家の財産
● 功名 gong1ming2 科挙に及第して得た資格や官職
● 基業 ji1ye4 事業発展の基礎。ここでは家屋敷などの家財
● 淹蹇 yan1jian3 うまくいかない
● 交接 jiao1jie1 付き合う
● 倚門 yi3men2 門にもたれる
● 佇望 zhu4wang4 しばらくたたずんで見る
● 談得三五句話 tan2desan1wu3ju4hua4 二言三言話をする
● 誑kuang2 だます
● 駕 jia4 〔敬〕相手の出向くことを指す
● 請便 qing3bian4 どうぞご随意に
● 晚生 wan3sheng1 (先輩、または1世代上の人に対し)私
● 常造 chang2zao4 いつも来る

 這里雨村且翻弄書籍解悶.忽聴得窓外有女子嗽声,雨村遂起身往窓外一看,原来是一个丫鬟,在那里擷花,生得儀容不俗,眉目清明,雖無十分姿色,却亦有動人之処.雨村不覚看的呆了.那甄家丫鬟擷了花,方欲走時,猛抬頭見窓内有人,敝巾旧服,雖是貧窘,然生得腰圓背厚,面闊口方,更兼劍眉星眼,直鼻権腮.這丫鬟忙転身回避,心下乃想:“這人生的這様雄壮,却又這様襤褸,想他定是我家主人常説的什麼賈雨村了,毎有意帮助周済,只是没甚机会.我家并無這様貧窘親友,想定是此人無疑了.怪道又説他必非久困之人。”如此想来,不免又回頭両次.雨村見他回了頭,便自為這女子心中有意于他,便狂喜不尽,自為此女子必是个巨眼英雄,風塵中之知己也.一時小童進来,雨村打聴得前面留飯,不可久待,遂従夾道中自便出門去了.士隠待客既散,知雨村自便,也不去再邀

[訳]ここで雨村は書籍の頁をめくって退屈しのぎをしていた。ふと窓の外から女性の咳をする声が聞こえた。雨村が身を起して窓の外を見てみると、一人の女中がそこで花を摘んでいたが、容貌が常ならず、目もとがくっきりして、びっくりするほどの美人ではないが、人を惹きつけるところがあった。雨村は思わず見とれてしまった。その甄家の女中は花を摘んで、行こうとした時に、急いで頭を上げると窓の中に人がいて、破れたぼろの古着を着ており、貧しく困窮しているが、腰に丸みがあり背中に厚みがあり、顔が広く口が四角く、更にりりしい眉、星のような眼、まっすぐ通った鼻、突き出た頬骨をしていた。この女中は背中を向けて逃げて行ったが、心の中で思った。「この方はこんなに逞しいのに、身なりはこんなにみすぼらしい。この方はきっとうちのご主人様がいつも言われている賈雨村とかいわれる方に違いない。いつも援助をしようと思うのだが、機会がないとか。当家にはこんな貧しく困っておられるお友達はおられないから、この方に間違いない。この方はいつまでも困窮されているお方ではないと言われるのも当然だわ。」このように考えると、我慢できず二度振り返って見た。雨村は彼女が振り返って見るのを見て、この子は私に気があると思い、狂わんばかりに喜び、この女は英雄を見分ける鑑識眼を持っている、浮世の知己だと思った。しばらくして小僧が入って来て、雨村は表で食事を用意すると聞いたので、これ以上待ってもと思い、通路を通って勝手口から出て行った。士隠は客が帰った後、雨村が先に帰ったことを知ったが、もう一度呼びに行くようなことはしなかった。

● 嗽声 sou4sheng1 せきをする声
● 擷花 xie2hua1 花を摘む
● 儀容 yi2rong2 容貌
● 敝巾 bi4jin1 破れた布きれ
● 貧窘 pin2jiong3 貧しく困窮している
● 腰圓背厚 yao1yuan2bei4hou4 腰に丸みがあり背中に厚みがある
● 面闊口方 mian4kuo4kou3fang1 顔が広く口が四角い
● 劍眉星眼 jian4mei2xing1yan3 りりしい眉、星のような眼
● 直鼻権腮 zhi2bi2quan2sai1 まっすぐ通った鼻、突き出た頬骨
● 襤褸 lan2lv3 衣服がぼろぼろである
● 周済 zhou1ji4 救済する。物質的な援助をする
● 巨眼 ju4yan3 すぐれた鑑識眼。大した目利き

 一日,早又中秋佳節.士隠家宴已畢,乃又另具一席于書房,却自己歩月至廟中来邀雨村.原来雨村自那日見了甄家之婢曾回顧他両次,自為是個知己,便時刻放在心上.今又正値中秋,不免対月有懐,因而口占五言一律云:
 
 [訳]ある日、早くも中秋の佳節であった。士隠の家の宴は終わり、別に一席を書斎に準備すると、自分で月明かりの下を歩いて廟に雨村を呼びに行った。実は雨村はあの日甄家の女中に出会い、彼女が二度振り返り、あれは自分の知己だと思ってから、いつも気になっていて、今日はまたちょうど中秋に当たっているので、月への想い免れず、それゆえ五言の律詩を口ずさんで言うには:

  未卜三生願,頻添一段愁.
  悶来時斂額,行去几回頭.
  自顧風前影,誰堪月下俦?
  蟾光如有意,先上玉人楼.

 [訳]まだ三世の契を占っていないが、頻りに愁いが増す。
   悩ましい時、額に皺寄せ、行っては何度も振り返る。
   自分は浮世に一人でいるけれども、誰が私の伴侶にふさわしいのだろう?
   月光よ、もしその気があるなら、先に美人の家に上がってその姿を照らしておくれ。

● 三生 san1sheng1 三世。“卜三生願”:結婚を占う
● 斂額 lian3e2 眉の皺を寄せる
● 俦 chou2 仲間。伴侶
● 蟾 chan2 ヒキガエル。“蟾光”:月の光。月にはヒキガエルがいるという伝説から。
● 玉人 yu4ren2 美人。玉のようにあでやかな女性

 雨村吟罷,因又思及平生抱負,苦未逢時,乃又搔首対天長嘆,復高吟一聯曰:
 
 [訳]雨村は吟じ終わると、これまでの抱負に思い及んだので、苦しみがこみ上げて来ぬうちに、首を掻きながら天に向け長歎し、また一つの聯を吟じて言うには:

  玉在匵中求善価,釵于奩内待時飛.

  [訳]玉は箱の中に在りて善価を求め、釵は奩の内にて飛ぶ時を待つ。
   (私も早く役人となり、羽ばたきたいものだ)
● 匵 kui4 =櫃 gui4 箱
● 釵 chai1 かんざし
● 奩 lian2 古代の女性の鏡箱

 恰値士隠走来聴見,笑道:“雨村兄真抱負不浅也!”雨村忙笑道:“不過偶吟前人之句,何敢狂誕至此。”因問:“老先生何興至此?”士隠笑道:“今夜中秋,俗謂‘団円之節’,想尊兄旅寄僧房,不无寂寥之感,故特具小酌,邀兄到敝斎一飲,不知可納芹意否?"雨村聴了,并不推辞,便笑道:“既蒙厚愛,何敢拂此盛情。”説着,便同士隠復過這辺書院中来.須臾茶畢,早已設下杯盤,那美酒佳肴自不必説.二人帰坐,先是款斟漫飲,次漸談至興濃,不覚飛觥献斝起来.当時街坊上家家簫管,戸戸弦歌,当頭一輪明月,飛彩凝輝,二人愈添豪興,酒到杯干.雨村此時已有七八分酒意,狂興不禁,乃対月寓懐,口号一絶云:
 
 [訳]ちょうど士隠が入って来てそれを聞いて、笑って言った。「雨村兄は本当に大きな抱負をお持ちですね。」雨村は慌てて笑って言った。「偶々昔の人の句を吟じたに過ぎず、どうしてこんなでたらめな考えを今まで持っているものですか。」それゆえ「老先生はこれまでどういうことに興味をお持ちですか。」と問うた。士隠は笑って言った。「今晩は中秋、俗に言う「団欒の節句」であり、お兄様は僧坊に寄宿されており、さびしくされているにちがいないので、特に粗宴を用意し、私の書斎にご招待し一献さしあげたいのですが、ご招待をお受けいただけますでしょうか。」雨村はそう聞くと、辞退もせず、笑って言った。「ご厚情を受けた限りは、どうしてそれに背くことができましょう。」そう言うと、士隠と共にまたこちらの書院の中に入って来て、しばらくしてお茶が終わると、早くも杯の盆が置かれ、かの美酒や肴は言うまでもない。二人は再び座ると、先ずは懇ろに酒を注ぎ、ゆっくりと飲みはじめ、次第に話に興が乗ってきて、知らず知らずに差しつ差されつになり、その頃には隣近所の家々の簫や楽器の演奏、一軒一軒、琴の演奏が流れ、頭上には一輪の名月が輝き、二人は益々興に乗って、酒を注がれればすぐ干し、雨村はこの時には七八割方でき上がり、楽しくてたまらず、すなわち月に対する思いを、一絶にして口ずさんで言うには:

● 誕 dan4 でたらめ
● 小酌 xiao3zhuo2 粗宴
● 芹意 qin2yi4 ちょっとした贈り物をする。ご招待
● 拂 fu2 逆らう。背く
● 盛情 sheng4qing2 厚意。厚情
● 須臾 xu1yu2 ちょっとの間。しばし
● 款 kuan3 ねんごろに。いんぎんに
● 斟 zhen1 酒や茶をつぐ、注ぐ
● 觥 gong1 獣の角で作った酒器 
● 斝 jia3 古代の3本足の酒器
● 街坊 jie1fang 隣近所
● 簫管 xiao1guan3 簫や楽器の演奏
● 弦歌 xian2ge1 琴を弾き歌を歌う
● 豪興 hao2xing1 益々興に乗り

  時逢三五便団円,満把晴光護玉欄.
  天上一輪才捧出,人間万姓仰頭看.

 [訳]いつも十五夜になると月はまん丸になる、清々しい月の光が欄干を照らす。
    天上に一輪の満月の月がようやく出て来た、人々は皆それを仰ぎ見る
 

 今回は士隠と雨村のやりとり、また雨村の望みが語られていましたが、次回では、これら登場人物が運命の糸に操られ、舞台が動き出します。それでは続きは次回で。