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北緯43度

村上きわみの短歌置き場です

「未来」7月号(2016)

2016-08-03 | 未来

春先のひかりの狂れによろこんで草木のように薄目をあける

残雪の下にわきたつ濡れ土をなだめて歩く年老いた犬

火散布、姉別、厚床たどりたどり根室の海へ きみを訪う

白レバー食みつつなにか言いさして、少し笑って、それきりだった

今はどのあたりを漕いでいるだろうInstagramに海をひろげて

 

 


「未来」6月号(2016)

2016-07-11 | 未来

もの病みのつづまりにいて天井の白きゆがみにはつか親しむ

すみずみを緩めてねむる三月の屋根はまだらに雪を残して

おちこちの軒のしたたり聞きながら頷きながら蕎麦湯をすする

はげしさに触れてのみこむ 濁りたいだけ濁らせて終える一日を

つま先に残んの冬をのせたまま川の余白を読みにいこうか

  


「未来」5月号(2016)

2016-06-04 | 未来

稜線に火をたくわえて立っているつよくて脆い山だあなたは

海鳥があんなに遠い 触れられぬものを数えて逃す二月の

重心を右にうつして書き直すあかるい虚偽をふたつ加えて     

断ち落とすために塗り足す墨ベタの三粍ほどのわかりやすさは

塩壺の底に渇いているような声でゆっくり母になるひと

 

 

※三首目、誌面では「虚偽」が「虚像」になっていますが誤植です。
※4月号は欠詠


「未来」3月号(2016)

2016-04-10 | 未来

かぎ裂きのほつれをひろう針先を見ている 母がまたあらたまる

すみませんね、とだけ言って味噌を溶く小さなひとになってしまった

屋根を圧す雪の重みに家ぬちの声はくぐもりながら底方へ

来し方を語る男が残忍な逸話をふたつみつこぼしゆく

とうとさに喉を焼かれた鳥たちをかくまうように生をつないで

深夜から深夜へ渡すテキストの澱をあつめて真冬を燃やす

そのようにひとりひとりが離りながら爆ぜながらゆく舟となるまで

 

 

 

※2月号は欠詠


「未来」1月号(2016)

2016-04-10 | 未来

安物の箸でくずせば卵黄のあまい嘆きは粘りをおびて 

朝な朝な綻びながら綴じながらただ負けたくてここにいること

分かつまでどれほどの雨 街路樹の枝の傷みにふれることなく

搗色に深まりながら手荷物のツバメノートをひらく男よ

裂け目から鮮やかな香がたつことの、木のかなしみを言わせたいのか

眉尻をあげて遮る一瞬を驟雨のように性はよぎって

白湯で溶く蜜のぬめりのどんなにかくるしいだろう ふゆがはじまる

 


「未来」12月号(2015)

2016-01-01 | 未来

砂浜にあわだつ波の縁かがりどんな弱まりにも適いたい

遠ざかりながら深まる 会うたびにカササギの話をしてくれる

単純なからだを開きあいながら大きく吸って吐いて、殴った

漕ぎながらすすめば濁るさびしさに九月の皮膚は剥がれやすくて

デセールの皿に残った栗色のこころもとない実景にいる

 

 


「未来」11月号(2015)

2015-12-12 | 未来

いたましくはやる緑をくるしんで根方に凝るくちなわの舌

枝先に声の残滓をにじませて鳥のかたちに闌けてゆくのか

こめかみに泥がつまっているような盛夏の底をいざる暮らしは

本意からおおきく逸れて咲きながら錆びながら落下する夏椿

きまじめなゲラの赤字のトルツメに添えば涼しい一文となり

午後深く熟れるにまかせGoogleに確かめているfuenteの綴り

虫癭をいくつも載せたみどり葉に似ているだろう今のわたしは

しずかだ 白桃に刃を入れながら誰の無念を生きているのか

やまなみに覆いかぶさる白濁をこの世の雨の表情として

ずぶ濡れのバスがひらいた横腹に今日の身体をすべりこませる

 


「未来」10月号(2015)

2015-11-08 | 未来

public acceptance七月を覆う皮膜は水をはじいて

気泡まみれの言葉でつなぐ夏だろう いくたびも自分を貶める

拝復 こころはついに乱雑なかがやきの束。お元気ですか。

背後から浅く刺されて川風にたおれるまでを時間と呼べば

殺伐がデフォルトになり鍵束を鳴らせば犬はため息をつく

 


「未来」09月号(2015)

2015-10-03 | 未来

藤棚にしたたりやまぬ花房をみている今日のきわまりとして

ぎちぎちと房の密度をあげながら気がふれるまで咲きついでいる

じきに死ぬいきものなればむらさきの呼気をかさねる花とわたしと

  I氏の紙ひこうき講座へ
折り方の秘訣を問えば簡潔な「紙にとどめをささないように」

重心をひばり結びで留めながらアルソミトラの翼果を語る

わたくしのつけた折り目の頑迷をなだめるように直すゆびさき

強すぎる線をゆるめて放ちやれば空としたしみながら遠くへ      ※ルビ「空」くう

サーマルをとらえてあそぶ週末はつばさの縁をすこし撓めて

薄紙を折りながら聞く晴明のもとを離れし式神のゆくえ


「未来」08月号(2015)

2015-08-30 | 未来

いっさいを疎むこころが満ちてくる てのひらで遮る海の色

ゆびをさす先に小さな波頭いくつもうまれ きりがなかった

生きている種子を選りわけ晩年の父によく似たひとに手渡す

あまやかに終の母音をにじませてあなたが読みあげる花の名よ 

曇り日の手足をしるく曲げながら土の深みを鋤いているひと

片仮名で事足りる日を水玉のシャツでしのいで、戦前にいる

くどくどと散り敷くまでの結構を見とどけている春の体は

 


※7月号は欠詠。


「未来」06月号(2015)

2015-07-05 | 未来

さんがつの雪をじくじく踏みしめて詫びたいきもちだけがまだある

どなたに(咲くものまたは遠ざかりながら溶けゆくもののすべてに) 

めずらしくいやな光をしたたらせ月がのぼってくる おめでとう

重心がゆれているのでこのひとのからだは恋をしているだろう

もうすこし煽ってという指示のもと言葉を尽くし秋刀魚をほめる

地場産という不可思議なことばにもゴシック体にも慣れて弥生は

情報を粗めに拾ういちにちのからだは寒く保つほかなく

work like a bee  いちめんのゆきはらに罠をいくつもいくつもかけて

春泥のような会話にあらわれる秩序無秩序転移うつくし

圧力をかけて骨までだめにした春の鰊をいただきましょう

 


「未来」05月号(2015)

2015-06-06 | 未来

さらされて泡立つ声のなかほどに濡れはきている(ひどすぎないか)

発熱を下部階層におきながら夜の真水をつぎ足している

渇きからくる混乱のうわごとの、きさらぎぎかいせいみんしゅしゅぎ

うわずみのような暮らしに飽きながら惹句いくつも書き直す日は

説くひとと問うひとがいて遠浅の管理フロアを統べる波音

喫水に濡れるくるぶし こらえてもこらえてもあなたは泣くだろう

暮れやすいからだを深くおりたたみ冬の底方をただいざりゆく

 


「未来」04月号(2015)

2015-05-04 | 未来

週末の緩みの果てのゆきはらを漕いでいる犬は犬の作法で

鼻先を差し入れながらこの冬の雪のできばえ確かめている

いいふゆだいいふゆだ 尾を振りながらお前がほめているこの世界

境界をふいに見せてはふたたびを犬の時間にかえっていった

名を呼んだだけでよろこぶ両耳の尊いかたち もう一度呼ぶ

犬として生まれて老いてこころからわたしのそばに寝そべっている

真冬日に肺の奥まで冷やされてしずかにねむる人もけものも

 

※3月号は欠詠。

 

 

 


「未来」02月号(2015)

2015-03-08 | 未来

両耳を風に咬まれて立っている そうだね、みんな誰かの子ども

あかるみに出るのだろうか海沿いをゆくときバスが少しこわばる

真夜中の薬罐の湯気の奔放を犬と見ていた くるしくはない

曇天のつづく暮らしのなかほどをドリンクバーのみどりで汚す

声ひくくなじりあう一組がいて傘がつくっている水たまり

火が舐める海苔のうらがわ こなごなになるのはとても簡単なこと

よいひとのよい骨格をやわらかい火があたためてくれますように

 


「未来」01月号(2015)

2015-02-09 | 未来

いっさいを疎みつづける夕暮れの家長の椀に粥はつがれて

五分粥の白の濁りをのぞきこみどんな時間にいるかあなたは

褶曲の半島なれば肉体のおちこちに咲く思いがけなさ

四歳と八十歳が入れ替わり立ちあらわれて否と言いつぐ

拒まれて近くなりゆく不可思議に脛をさすれば息吐くばかり

立ち上がるためのちからをかき集め一日ごとの長さを進む

情緒から先にくずれてははそはの(かあさん)と呼ぶ声のすはだか

くやしさの底にねむっているひとのやわらかすぎる目鼻を拭う

釣りにゆく約束をして或る午後はこの世の外の海岸にいる

複雑に複雑に死をたぐりよせ生の庭面に立つ霜柱