062:ネクタイ（村上きわみ）

死者生者死者こもごもに並び立つ霜月真昼ネクタイ売り場

061:奴（村上きわみ）

愛い奴、とふざけて呼べばすこやかな尾を持つけもの我に寄り来る

060:漫画（村上きわみ）

雪の日は漫画みたいにじゃれあった感嘆符まみれの恋だった

059:病（村上きわみ）

臆病なさかなと暮らす　雨の日は「よい雨だねえ」とつぶやきながら

058:脳（村上きわみ）

水音にノイズかさなる真夜中は脳内という異域へ降りる

057:台所（村上きわみ）

酢を蜜を棚にならべて台所（キッチン）をただしく乱すおんなともだち

056:枯（村上きわみ）

青枯れの記憶の庭にいっぽんの樹木しずかに眠り続ける

055:アメリカ（村上きわみ）

アメリカを（どのアメリカを？）しゅくふくとじゅそで磨いてひかるシネコン

054:戯（村上きわみ）

降るならば戯れ言めいた雪がいいひとりひとりをゆるく隔てて

053:ぽかん（村上きわみ）

ただぽかんとしているだけの休日に明朝体が沁みてくるねえ

052:婆（村上きわみ）

どこかしら婆娑羅を好む痴れ者に奪われにゆく冬の妹

051:番号（村上きわみ）

つかのまの最後尾ゆえたくひれの番号札にしばし与する

050:虹（村上きわみ）

こいびとのようにあばれる虹鱒をひらいて（とても好いております）

049:袋（村上きわみ）

すずやかに白をきわめる夏足袋を秋の深みに匿っている

048:来世（村上きわみ）

前世は葡萄、来世は鶺鴒をのぞむ少女と月をみている