北緯43度

村上きわみの短歌置き場です

「未来」10月号(2012)

2012-11-05 | 未来

藤棚の奥のくらみにゆきたがる人のからだという湿潤は

うねりながらた走る水に親しんで背いてはまた親しんでいる

一日の四隅燃やしてきたようなおみなごの目よ 恋愛は野火

熱のある細い手足が液体のように動いて ただいま、と言う

ひどくあやうい語尾そのままにふりこぼす火の粉(どなたを思っているか)

雨のあとの夏野にむせる準備だけしておけばいい 恋であるなら

首のない男の夢を二夜みて三夜めなれば連れ帰りたい

陸に塩こぼす小さなまじないを教えてあげるからついてきて        ※ルビ「陸」くが

海に刃をあてる あなたがもう二度と死んだりしなくてもいいように

夕暮れの酸味を胸にすりこんで復讐の話をはじめよう