北緯43度

村上きわみの短歌置き場です

題詠マラソン2003

2003-12-31 | 題詠2003-100首
001:月
きみどりのドロップス舌にのせながら「月にも海があるってほんと?」

002:輪
おわらない輪唱でした かっこうの陰のしずかな森の湖畔の

003:さよなら
「さよなら」の「ら」が鼻声になったのはまだ治らない風邪のせいだよ

004:木曜
木曜の講堂にあつめられている襞スカートの紺色きらい

005:音
音叉から音叉にわたすささやかな震えが今のぼくらのすべて

006:脱ぐ
青年のような顔して太陽を脱いだり着たりするのはよせよ

007:ふと
ふと見れば銀河があってそわそわとキャラメルの包み紙を吐き出す

008:足りる
みなさん鋏は足りていますか電球はイルカは大天使はどうですか

009:休み
ペリカンに襲撃されて全財産失いました(一回休み)

010:浮く
頑丈な袋のようにしずめてもしずめても浮き上がるからだだ

011:イオン
うつくしい別れのように語られて金属イオンの沈澱の白

012:突破
あ、雲雀。垂直の鳥。青空を突破してどこまでゆきますか。

013:愛
春なので そういえばずっと愛のことばかり話しているわたしたち

014:段ボ-ル
段ボールひろげて座る草の上あなたといればあなたのことを

015:葉
葉をのぼる蟻をみている放課後の赤いランドセルに加わって

016:紅
いっしんに紅絹裂いている ほそくほそく裂いているお母さん 泣いている

017:雲
薄紙に雲型定規おしあててあなたは何をこらえているか

018:泣く
泣く人のそばにすわって素麺の茹で方などを話すゆうぐれ

019:蒟蒻
蒟蒻は曇り日の喩になりたいと思っているにちがいないけど

020:害
害というほどではないが君のその七味狂いはなおしたまえよ

021:窓
ふるめかしい家族になろう廃屋の窓から窓へ風をわたして

022:素
思いつくかぎりの素数書きつけて君への手紙をだいなしにした

023:詩
詩にほろぶことの愉悦を説く人とならんで食べている心太

024:きらきら
なんべんも同じところで躓いて きらきらひかるよぞらのほしよ

025:匿う
匿っているのはジャック・ザ・リッパーじゃないけれどこのドアは開けない

026:妻
ふくらはぎひからせたまま待っている木綿豆腐のような妻たち

027:忘れる
毛布、犬、胡椒の香り、恋人の名前もやがて忘れてしまう

028:三回
集合は鉄塔の下 暗号を三回間違えたらアウトだよ

029:森
父の人よ、ねむりの底になつかしい森のふかみどりはまだありますか

030:表
にがいにがいおくすりのんだごほうびにかってもらった星座表です

031:猫
教科書の余白に描いた曲線はゆるすぎて、たぶん、じきに猫です

032:星
微温水うつわに満たし(そういえばよごれているね)火の星を待つ

033:中ぐらい
ふかく息はいてあげます。いのちならまだ中ぐらい残っています。

034:誘惑
火から火へわたる誘惑こらえつつカンナばかりがこんなに咲いて

035:駅
ややこしい啓示のようにぼくたちは駅のトイレの落書きになる

036:遺伝
(元気でね)手を差し出してたしかめる蟻の遺伝子ほどのさむさを

037:とんかつ
とかとんとんかつてわれらはくりかえしおのれむなしゅうしておりました

038:明日
明日には消えるあぶくのぽあぽあと微笑みながら「HOMEへもどる」

039:贅肉
贅肉は贅沢な肉 愉しげに君が光にさらす二の腕

040:走る
「走るなメロス!」六時間目の教室に小野君の声とてもいい声

041:場
錆びながら光をはじくむらぎものさみしいひとよ雨の広場へ

042:クセ
拝復のクセ字いくつか ここからは変調でゆくわたくしのため

043:鍋
トートロジートートロジーと揺れやまぬ鍋の底から、白玉ぽぽぽ

044:殺す
卵黄が箸にまつわる休日の隠れキャラなら殺さぬように

045:がらんどう
こわいようこわいようって泣いている君の頭上の空、がらんどう

046:南
白南風(しらはえ)に細いくるぶしひからせて女の子なら無敵のままで

047:沿う
海に沿う小さな部屋でゆっくりと骨むすびあう遊びをしよう

048:死
桃色のけものの舌を煮込む日の(ハレルヤ!)なんてなつかしい死者

049:嫌い
ファの音と焼いた林檎と水牛と三島由紀夫が嫌いなんです

050:南瓜
雪だけを待っているんだおそろいの南瓜の色のセーターを着て

051:敵
一面にひなぎくの咲く原っぱはありふれていて、そこは敵地だ

052:冷蔵庫
唸っているのはあれは亀です冷蔵庫ではありませんけっして誓って

053:サナトリウム
白粥の白きわまりてまぼろしの兄へつながるサナトリウムは

054:麦茶
悔しいのはまあわかるけどだからって麦茶をそんな色にしちゃだめ

055:置く
引き下がるためのちからをたくわえて末尾に置けばさむい草々

056:野
野をゆけば淡き感傷オオバコもシロツメクサもうすく汚れて

057:蛇
もういちど生まれてきたら遠国の蛇と蛇使いになりましょう

058:たぶん
でもたぶんおそらくきっと犀だって悪夢をみたりすると思うな

059:夢
その夢がどれくらいおそろしいものか犀じゃないからわからないけど

060:奪う
あたらしい解釈がひつようだからまずモナ・リザを奪っておいで

061:祈る
道端にビーズこぼして泣いているむすめさんだよ 祈るの禁止

062:渡世
だとしてもいわゆる渡世のことなんて考えなくていいよ、ナオユキ。

063:海女
つつましい冬の焚火よ背をあぶる海女の吐息もゆるむ浜辺に

064:ド-ナツ
てきとうにちぎってわけてほらこれがドーナツとドーナツのエイリアス

065:光
むごくはたらくこころのちから(おそらくは、光)あなたをあいしつづける

066:僕
Re:だけど Re:Re:だけど 折れやすいことばのように僕は進もう

067:化粧
うつくしい母でしたので化粧する横顔なども憎みましたが

068:似る
からだからからだへ移す水ならば(海に似ている)こぼさぬように

069:コイン
ほのぐらいスリットにコインすべらせて水を買い続ける日々である

070:玄関
玄関に並べておいたぬけがらを目印にして帰っておいで

071:待つ
であればもうわたくしはただ待つでしょう柊の葉を胸にかざって

072:席
再起動までの痛みをぬらぬらとやりすごすため席をはなれる

073:資
資するところ大なりというそのひとのズボンの裾のほつれ見ている

074:キャラメル
たいていのことはサイコロキャラメルをふって決めればいいような気も

075:痒い
うつくしいすがたのひとの出奔を遠くに聞けば痒い右耳

076:てかてか
てかてかのバッジを胸にひからせて秘密結社の集会へゆく

077:落書き
イニシャルで埋め尽くされた落書きのようにあなたをめちゃめちゃにする

078:殺
皆殺しミナゴロシって言い合ってさみしかったね夜の屋上

079:眼薬
眼薬のしずくを舌でうけとめてここからは長い服喪のはじまり

080:織る

薄紅のひかり織りつつ婚姻の朝(あした)しずかにめざめるひとよ

081:ノック
メガミックスのメガのあたりをノックしてさみしい冬の歌降りつもれ

082:ほろぶ
ほろぶまで一緒にいよう おわるとき小さな声をあげるあなたと

083:予言
ほんとうはどうなったってかまわない粗末な予言だらけの街は

084:円
円錐の表面積の出し方を西の街までおそわりにゆく

085:銀杏
卵液の底にしずんだ銀杏のなんてしずかな団欒かしら

086:とらんぽりん
全日本ひらかな表記選手権でも負けそうな「とらんぽりん」だよ

087:朝
OSを新しくしてのんびりと朝の破滅を待っております

088:象
ねむそうな象のとなりでランボーを読み上げるため休日はある

089:開く
やがて来る終焉のため少しだけ開かれているあなたのまぶた

090:ぶつかる
船底で波がぶつかる音ばかり聴いていました 臨終の朝

091:煙
足首にちいさな煙水晶を紐でゆわえて、恋人になる

092:人形
どうやってこわしてほしい? 人形のように睫毛を伏せてお前は

093:恋
恋よりももっといいもの知っているナツコさんです 散歩しましょう

094:時
時間さえかければ(…ただいまバッファ中…)良くなるなんて信じてはだめ

095:満ちる
待っている バスタブに湯が満ちるのを/臨時ニュースを/流星群を

096:石鹸
石鹸はちゃんと削ってシロクマにしておいたからもう泣かないで

097:支
渡された収支報告書の隅に冬の菫を咲かせて返す

098:傷
傷口のひとつひとつにスカラベを埋め込んだのはあなたでしたか

099:かさかさ
かさかさと音たててゆく あかねさすコンビニエンス・ストアはすぐそこ

100:短歌
アリアばかり流し続ける書房より「短歌ヴァーサス」入荷の知らせ