母の母の母をかなしむ鴇鼠の時代絹はつかに瀞むまで
あさなさなかきくどかれてしどけなくゆるむ霜柱の弱虫め
秋の水は暗いねと言う(ころされるゆめをみた日のおまえやさしい)
サドルから男言葉を投げあって十代はつくづく火の種族
寝転んでうみうしの絵をながめいる外つ国の子よ、畳は甘い
「始末」ということばに軽く濡れながら球根のおしりをなでている
厚物の菊をいびつに調える叔父の流儀のさびしさは佳い
だるそうな雲に酔う この週末はいきものだけをかわいがろうね
紅葉にだまされたくて吊り橋を渡る何度もわたくしを脱ぐ
ほんとうはずっとふざけていたいだけ風がこすっている秋の弦
つながりをほどかれたまま枝先に残んの花を滲ませている
ありていに言えばさびしい森でした風をいくつもいくつも裂いて
数式をほどくゆびさき ゆいいつのvalueしずかに立ち上がらせて
窮屈なところを抜けてきたらしいすこしほつれている秋の袖
薬莢の散らばる庭を思わせる部屋をひとつの王国となし
持ち重りするあかるさをひからせてセーラー服を今朝も着崩す
どれくらい寒いかと問う どれくらい寒いのだろうおまえの底は
水を編みわずかな息をわけあってさかなのように暮らす(ほころぶ)
なつかしくなりたい 朝の薄紙に墨を吸わせては綴じながら
風下に咲く大叔母の簪をかろうじてこの世からながめる
差し入れた指のわずかなたくらみに流れをかえる水であるらし
海からの風をまぶたに縫いつけてあの子は灯台になるつもり
草原のために漉くたった一枚の白ならば、顔をお上げなさいな
くるしいと言わないひとにさしあげる炊いた小豆の濡れむらさきを
ひどくねむいからだに蜜をためながら舐めながら歩いてきたという
傷ついたことに恥じ入るようにして立っているうつくしい床柱
いっせいにゆゆしきものを吐いている貝たちのはるかなこころばえ
ひかりからもっとも遠い場所に置き角砂糖のつよさをたしかめる
ぎいと抜く古釘の錆うつくしゅうございましたと夏の手紙に
解けやすい夏と秋との結び目にいつもいてくださってありがとう
いずれあなたの戸閾を踏むあしうらを今日は真水に浸しておりぬ
※ルビ【戸閾】とじきみ