北緯43度

村上きわみの短歌置き場です

題詠マラソン2005

2005-12-31 | 題詠2005-100首
001:声
声のするほうへゆきます川底の石のぬめりを確かめながら

002:色
そうこんな色でしたねえ縫いとじておいた場所からつぎつぎ咲いて

003:つぼみ
一枚のネルにくるんだ雛鳥のつぼみのような心臓でした

004:淡
うんと淡くつながったままどのくらいあとどのくらい降る雪ですか

005:サラダ
サラダバーより持ち帰るはつなつの細い葉脈ふるえています   

006:時
時計座の振り子の揺れに応えたり背いたりするしずかなあそび

007:発見
おんなのこばかり集めてうつくしいバグをいくつも発見したい

008:鞄
あなたのとても青い鞄が生き物の音たてながらちいさく窪む

009:眠
ねえこれは誰の右腕? 折り紙の舟に眠ってぼくたちはもう

010:線路
七月の線路を踏んでゆくためにすんと結んだサンダルの紐

011:都
わかちあう水の重さに揺れているここはわたしの古い都市です

012:メガホン
草の香のするおみなごよ メガホンを幾度もはじく夏の乳房よ 

013:焦
おずおずとかたみにひらく六月の肉体という焦土を思う

014:主義
すこし湿ったコーンかたむけ永遠のバニラ主義者とならんであるく

015:友
遺されし硯に小暗き海ありて親しき友のごとく黙せり

016:たそがれ
たそがれに硬貨いちまい握りしめ誰のものでもない声を買う

017:陸
水ゆがむ夏の昏さにさそわれて陸(くが)を離れし鳥のゆくえは

018:教室
なぎ倒すちからをためて一列に並んで待った風の教室

019:アラビア
アラビアの文字のかたちにねむるからきっと起こしにきてくださいね

020:楽
ふかぶかと老いてゆきますひとすじの川を奏でる楽士のように

021:うたた寝
うたた寝のまぶたにふれる どのように赦していいかわからないまま

022:弓
紡ぎゆく胡弓の音色/父祖の髭/柳/絹雲/蛇(くちなわ)の息

023:うさぎ
跳ねているあれは野うさぎ くさはらを裂いてはとじてゆくうしろ脚

024:チョコレート
チョコレート・シロップたんとかけなさいほろびるまでを見届けなさい

025:泳
わたくしを泳ぐさかなのひらひらのぴらぴらの揺れとてもつたない

026:蜘蛛
いくつものわたしを提げてゆきましょう はつあき 蜘蛛のあかい眼きれい

027:液体
にくたいに日々あらたまる液体をとぷと揺らしてあそんでいます

028:母
母さまを庭に植えます泣きながら咲いておりますとてもさみしい

029:ならずもの
ならずものばかり出てくるお話を糸蒟蒻に読んできかせる

030:橋
さめぎわの夢に燃え立つ橋脚のくずおれてゆくさまを告ぐれば

031:盗
くちづけてのみどの奥の火を盗む(おそれるなゆめ)火は濡れている

032:乾電池
ひきだしの奥をうっすら湿らせる単三乾電池のみどりいろ

033:魚
てのひらにつつむ流線 この次も魚になって生まれておいで

034:背中
とうさまのかたい背中にひらかなをいくつもかいておわかれをする

035:禁
禁色をまぶたに塗ってチカちゃんが完璧になるまでを見ていた

036:探偵
ツイードの肩をわずかにかたむけて探偵デビッド・スーシェうつくし

037:汗
汗にじむTシャツの背を向けたまま眠りつぐのみ夏の長子は

038:横浜
横浜に槐一樹のあることを美(は)しきちからと思うおりふし

039:紫
姫紫苑咲く野の原よ(こわいものこわくないもの)まみれてしまえ

040:おとうと
夢に訪ううすむらさきのおとうとに小さな骨を渡されている

041:迷
迷子札胸にかがやくユキオくんそうですかあなたがユキオくん

042:官僚
官僚の、ワイシャツの、ほら、よく糊の、きいた、襟、みたいな嘘をつく

043:馬
霜柱ふみゆく馬のたましいを見送るあした ゆめなわすれそ

044:香
麦香るひなたのゆびを差し出していつからでしょうわたしたちもう

045:パズル
1500ピースの海に身をゆだねパズルマニアはねむってしまう

046:泥
地底湖の泥のあまさに酔いながらあぶくいくつもいくつも吐いた

047:大和
せんそうのにゅーすをながすまほろばの大和のてれゔぃ Hi-Vision なの

048:袖
もういないひとの書斎に片袖の机しずかなひかりを放つ

049:ワイン
錦秋のワインセラーにねむらせる岩波文庫の星ふたつみつ

050:変
変わるもの変わらないもの詰め込んでひくく唸っている冷蔵庫

051:泣きぼくろ
なんとなくわかる気がして聞き流す「そこが弁慶の泣きぼくろ」

052:螺旋
ぜつぼうもごちそうだった 放課後のひどくあかるい螺旋階段

053:髪
前髪にふれる前髪(やわらかな秋の雨(蜜(なまえをよんで

054:靴下
はいいろの靴下ちゃいろの靴下とならんでわたる横断歩道

055:ラーメン
ラーメン店「喜久屋」店主に面妖な過去ありされどこの玉子麺

056:松
市松の模様やさしき花茣蓙にまねかれるまま座す昼下がり

057:制服
制服の内ポケットに叢雲のような紙片を秘めし男の子(おのこ)よ

058:剣
反りたがる剣先烏賊をなだめつつひとり廚になす火のあそび

059:十字
しゃんと咲く黄の十字花 あのひとに見せてあげたい野の原がある

060:影
ねむれない夜のゆびさき組みあえばふたり影絵の狼と鳩

061:じゃがいも
じゃがいもの冷たいスープ前にしてビストロに咲くおんなともだち

062:風邪
なにかとてもかなしいことがあった日のあなたの舌にのる風邪薬

063:鬼
鬼灯を鳴らしてあるく隧道の そうでしたここはいつも暗くて

064:科学
寄り道の、シロツメクサの、鼻歌の、タカシくんたち、らら科学の子

065:城
憂鬱に濃淡ありてこの夜を染めるカフカの「城」のうすやみ

066:消
送られし文を破(や)る指ほの白く夜の舞台の消え物かなし

67:スーツ
離れ住むスーツの肩をすこしだけ濡らすやさしい秋の雨です

068:四
液晶の林の奥でツーチーと今朝は四十雀が啼いている

069:花束
公園に雪の花束 こわれないようにこわさぬようにこのまま

070:曲
褶曲のはてのゆがみもうつくしき誤読となして歩いてゆかな

071:次元
三次元映画のなかを飛び回るヒーローいつも少しにじんで

072:インク
濃紺のことばいくつも閉じ込めてしんと黙っているインク壺

073:額
まだねむい額にふれるゆびさきの(おはよう/おはよう)ほのかな湿り

074:麻酔
ゆっくりと麻酔が切れてゆくまでを水底(みなそこ)に棲む夢のはかなさ

075:続
野火続く母のうしろを歩きます 帯の牡丹がとってもあかい

076:リズム
湯豆腐のたましい揺れて晩秋のすこしだけさみしいリアリズム

077:櫛
草原(くさはら)に風の櫛目を見ています もうみんないってしまいましたね
  
078:携帯
むごいものうつくしいものよりわける携帯手荷物検査係は

079:ぬいぐるみ
ゆきちゃんの眠りをまもるおおどかなステゴザウルスのぬいぐるみ

080:書
図書館の返却口におとしこむコーネル装の貴種流離譚

081:洗濯
いにしえのコロッセウムを思いつつ洗濯槽からつまむ糸くず

082:罠
ゆきはらに鈍くかがやくけもの罠 とらわれしものみなあたたかい

083:キャベツ
巻き深い冬のキャベツをあまくする土の時間というおだやかさ

084:林
ふいに見せるこころの虚(うろ)もいとおしく遠い林を濡らす長雨

085:胸騒ぎ
朝なさなあらたまる身のすずしさに一人しずめておく胸騒ぎ

086:占
草占のくさの結び目あまくして風の合図を待っております

087:計画
週末の色彩のため練り上げるゼリービーンズ奪還計画

088:食
わたくしの悲鳴を食べるカナリアとあなたの虚無を食べる羊と

089:巻
ログインの画面にねむる巻貝の渦をたどって打つパスワード

090:薔薇
猫>やがて白薔薇(そうび)>のち鱗雲>ピリオドの位置まちがえている

091:暖
閑閑というやさしさや 赦されて風とあそんでいる切り暖簾

092:届
幾億の、あるいはたったいちにんの声をからだに届けるために

093:ナイフ
しずかなナイフしずかなナイフ(ゆうぞらに呪詛はあふれて)しずかなナイフ

094:進
それでもまだ進むしかない真夜中のにぎりこぶしで撲つ左胸

095:翼
翼竜のふるえるようなハミングを聴いているふたり世界の縁で

096:留守
留守を待つひとのところへひかりごと帰してあげる ばいばい またね

097:静
裾野までうつくしい山 並び立つ胸に静かな問いを こんなに

098:未来
  Kに
未来から届く心音(こんにちは、ようこそ)たったひとりのあなた

099:動
もう少し動きたいからあたらしい踵を買いにゆくつもりです

100:マラソン
マラソンを終えし走者の肉叢(ししむら)に今もどりくるしろがねの拍