北緯43度

村上きわみの短歌置き場です

「未来」12月号(2014)

2015-01-04 | 未来

傘、手紙、からだの一部 はつあきの誤謬のように折りたたまれて

雨止みを待つわたくしのつま先に猫が来てひとしきりあやしむ

どちらからほどいてもいい手足だといつからだろう承知していた

せりあがる薄いことばのやましさに九月の喉をつくづくと焼く

蜂蜜の金色を引き出す補正値をさぐりつづけるひとの指先     ※ルビ「金色」きん

ぜりぜりとすりつぶしゆく松の実に油脂の滲みはきて くるしいか

にがかった夏の結びに並べおくペスト・ジェノヴェーゼのふかみどり

花のたね紙につつんでそのひとが口にするとき死はあたたかい

ささやかな抗いを経てすべりだすカヌーに君は膝をおさめて

水脈という破れをふたたび綴じてゆく川の古びというしずけさは   ※ルビ「破れ」やれ