北緯43度

村上きわみの短歌置き場です

「未来」09月号(2014)

2014-10-13 | 未来

木のように黙す五月をともにして犬の寝言におよぶ湿りは

あかときに口をひらけばざろざろとこぼれる羽蟻 人をにくんで 

出かけたい出かけましょうとひとしきり手足が騒ぐ六月の朝

獣園は門まで老いて易々とわたくしたちの体を通す

塗り重ねられたペンキのみずいろを今日の水際として見下ろせば

オルゴール仕立ての淡いおんがくに人鳥もわたしも濡れている

ゾーンから次のゾーンへ心臓をつよくはかなく弾ませながら

山脈のような背ぼねを軋ませて虎はなにかを咀嚼している 

そこここに干し草の香がたつことをうたがわず嘆かず山羊たちよ

息ふとくみじかく吐いて今生の北極熊が水からあがる