(いきものがひくく構えていることのかけがえのなさ)咬みにきなさい
尾根から尾根へ雨を授けてゆく雲よ、いつかわたしの家来におなり
註釈のように咲き出す花の名をどうしてだろう思い出せない
唾つけて光らせておく もうこれが最後のわたしかもしれないし
鹿を嗅ぎにゆきませんかと誘われる(悪くない)鹿を嗅ぎにゆく
かみさま、と口にするたび恥じ入って縮むのでよいひとなのだろう
ぼくじゃないぼくじゃないって泣きながら桴の毛糸を巻き直してる
邪気のない窓をえらんで打ちつける雨粒の気持ちなどわからない
ひかりばらまく野のふるまいはそれとして春は心細うてかなわぬ
離りながら知る冬の芯(さんがつのつららどうしてこんなにあまい) ※ルビ「離」か