北緯43度

村上きわみの短歌置き場です

「未来」07月号(2014)

2014-07-05 | 未来

海に来てうみですと言う青年は喉のおくまで夜を添わせて

なみがしらしか見えなくておしよせる音に躓く くるしいですか 

こういうのなんて呼ぶのかつま先で掘れば砂浜がなまぐさい

波音に負けないように声を張ることはしなくていい、あなたとは

春の、夜の、ひろいあげれば欠けている貝ばかり 白を選んで残す 

どのように閉じてもいいと思うまで待たせておいた海だと思う

色彩を取り戻すまで見守ればあのあたりから来る 明けますね

波の気が済むまですっかり削られてこんなかたちになって入り江は

どうやってここに来たのか鳥がいてわたくしがいてひどい朝焼け

海風に胸泡立てる鳥たちよ万象なればその嘴もまた

 


「未来」06月号(2014)

2014-07-05 | 未来

磨いてもみがいてもどこかが曇る はんざいしゃから手紙をもらう

春寒の匙にすくった豆スープぼんやりにがい 助けたかった

ゆでたまごめいた性欲あたたかく誰かをころす夢ばかりみる

何年もじっとしている剥製の藁のにおいがすきだったんだ

生きていたときより軽い詰め物で満たされている鹿のうちがわ

過去形になるうれしさよ枸杞の実をのせてしずかな杏仁豆腐

針金でこしらえた鳥ならべてるおじいさんから道を教わる

乾いたり濡れたり浜辺はいそがしい(さみしい)われわれは、われわれは

複数になればとたんにくるしくて枝をひろってくる 何か書く

しぬなんて 春には春のゆきが降り一筆書きのさかなはよわい