北緯43度

村上きわみの短歌置き場です

「未来」02月号(2014)

2014-03-02 | 未来

ここからが長いと思うはつふゆの白湯にくわえるひと匙の蜜

すまないと思うばかりだ 立冬の候、と書いては淋しがらせて

羹を啜る男をみていたら百年なんてすぐよ、と祖母は

ただここにいるだけのこと あなたには冬の厚みを見せてあげよう

りるびっ って今啼いたよねどの枝かわからないけどじゃすたりるびっ

鳥のことは何も知らないこのまんま知らなくていい あ 飛びました

護られてふくらんでいるこどもたちふゆだふゆだと絡まりながら

よく動くちいさな膝を武器にして玄冬の手前を跳ねている

削られて少しずつかたちをかえてあなたはふるい岬のようだ

肉体を繕いながら夜にいるわたくしごとを波にほぐして

 


「未来」01月号(2014)

2014-01-31 | 未来

裂けたままゆたかに実るさびしさを見ている(そうか、あなたがまゆみ)

うつむいてこぼす桃色そのように鳥を幾羽も招くのだろう

ひとしきり翳りを舐めて舐め飽きて黒猫はひなたへ身をのばす

真夜中に飲む青汁のすこやかな濁り いつまで未来だろうか 

はつあきの外側にからだを置いて火を継ぎ足せば爆ぜる心葉

ひとのこころのしくみあやうくごふごふとマンホールから水は溢れて

出て行けと叫び続けるひとたちの そのかたまりの声の寸寸      ※ルビ「叫び」おらび 

燃えているものを見たくて検索の窓に「ジミヘン 火」と入れてみる

怒りさえやがて古びてゆくけれどYouTubeにはなんでもあるね

サッチモにあわせてそっと歌うときWhat a “ fuckin' ” Wonderful World

 


「未来」12月号(2013)

2013-12-29 | 未来

よく噛んでやわらかくした感情を吐きもどす犬、よわくなったね

そのかみは夏野の王であったろう草穂の海を薙ぐようにゆく

子は犬に、犬は子に護られながら汀のような夜道をわたる

弱まってゆくことの佳さ それぞれの体にかなう声を出し合い 

忖度の手つきが見えてさびしいと子は言いつのる 晩夏なのだよ

ぞんぶんに夏の地面を碾き終えてサンダルのまま帰っていった  

湯で割れば梅酒が見せる逡巡のどうしているか父だったひと

日曜の午後を費やし教わったコンツェントラツィオンス・ラーガー

せんそうのこと。底隠る父の声。火。痩せている。こんなに。こんなに。

ばかみたいだったと最後につけ加え餌壺の粟に指をうずめる

 


「未来」11月号(2013)

2013-12-02 | 未来

日盛りにからだを薄く差し入れて葉脈をくまなくお見せする

植物であったとてそれが何でしょう背伸びしてひかりを浴びている

ずむずむとひげ根をくぐり土を食むももいろの蚯蚓たち、よく来たね

吸い上げるちからを恃み八月を質素な管として生きのびる

濃いみどり薄いみどりをかさねあう仕草ばかりを好まれていて

茎を見てほしい小さな水の玉ふたつみつ縋らせているから

これ以上吸えないところまできたとある日きれいにわかるのだろう

人知れず繁茂しているだけなのに風がなぶりにくる なぶられる

あれは羽毛、これは蜻蛉羽、地を統べる蟻に粛々と運ばれて 

いきものが朽ちこぼしゆくさまざまな life  幾度でも会いましょう

 



「今月の一人」 川


いただいた暗い硬貨を外つ国の水に換えてはまた歩き出す

どなたでもかまわなかった椅子として座ってもらえるならそれだけで

ほどこしのように明るいくさはらに招かれたまま帰らないひと

大鹿の胸の豊かなふくらみよ苦しかろうね秋の和解は

手をふりなさい手をふりなさいこの岸はおまえのために闌けているから

川に適うものでありたい橋脚をまねてあしくびまで浸しゆく

尾びれまで泥にまみれてありがたくなる兄の魚、兄は魚

ときどきは世界をゆるす木に草に終の作法をおそわりながら

ほんとうは何になりたい裳裾から蟻をほろほろこぼし続けて

 


「未来」10月号(2013)

2013-11-02 | 未来

ところてん涼しかったと書き置いてそれきりいなくなる人だろう

折れ曲がり折り重なってはつなつの波頭からお悔やみがくる

明け暮れを選りわけて啼く鳥たちのかしこい声を聴いて育った

食パンに咲いた青黴 どのように閉じるまぶたであれあたたかく

斑かすように並んだ顔文字のオメガは最後尾を飾る文字

半夏生 くるしみかたが足りないと森のみどりに諭されている

炎天にむせる真昼もうなされて目覚める夜も 心臓はけなげ

漕ぎ出せばいつも無念でありましょうぼくらは舳先から年老いて

くさはらを踏んでいたっけ光ごとかきまぜていた貴い素足

もういないひとよ(嘘だろ)明け方のひとさしゆびを握っておくれ

 


「未来」09月号(2013)

2013-10-02 | 未来

たんぽぽのひどくさびしい踏み心地(誰の未来をくだってきたの?)

言い直すたびにくぐもる声がある ひがしあじあ、と何遍も言う

落ちてゆくときにもっともつよくなる雲雀のようなむすめさんたち

川魚をきれいにほぐす箸の朱を今日のわずかな色彩として

火に近いこころのままで耕せばあなたの国土あとかたもない

昼深い花舗の暗みに切り口という切り口はなまぐさいまま

肉体に政治を招きいれながらつむじを清く保つ少女よ

ひとしきり泣いてねむって葦原に手足がなじむまで待ちなさい

漉し取ったあとのきれいなくるしみを果実のように実らせる人

てのひらが熱いこどもは眠らせておやり 六月の雨が降る

 


「未来」08月号(2013)

2013-09-02 | 未来

傾きをとがめるように男らはしずかに杭を打ち糸を張る

水糸の黄に区切られ方形に鎮まる土よ ここより他郷

懲らしめるために包んだ薄紙の、なかの紙幣の、気味が悪いね

ぬさ、にぎて、みてぐら などと声に出し濁りのままに忘れるだろう

歩行からもっとも遠い足どりで火を踏みながらゆく妹よ

やさしくてひどい体を思い出す沼になるまで眠らずにいる

外塀に猫がしたたる木曜の結び目がゆるくてかなわない

ゆくりなく雨に撲たれる わたくしはあなたの瑕疵になれるでしょうか

開墾をかさねた末に刃こぼれてあらゆるものは戦争の比喩

ネヴァモア 問いはそのまま一点に凝りきれいな痣をなすまで

 


「未来」07月号(2013)

2013-07-30 | 未来

借りてきた声を返しにゆく夜の路上でかみ砕く糖衣錠

靴紐をきつく結んだ 好きでいることを謝りたいひとがいる

ほんとうのことをいくつもとりこぼし鳩よいつまで心苦しい

罅に似た感情をもち、もて余し、葉桜ばかり見上げては褒め

どこかすこし開いたままで挨拶をかわしたあとの杏仁豆腐

iPhoneのMapにピンを落とし込みそうかわたしはここにいるのか

あたらしい傷が加わりうつくしくなったお前を残して帰る

おむすびに傘さしかけて散りますねいけませんねと続くお花見

ひどいよ、とちいさく嘆く声がして夜の電車がひとを吐き出す

濁点がずっとからだにつきまとう春のさなかを飛ぶつばくらめ
 


ネットプリント折り本「蟹座」

2013-07-12 | その他


このたび蟹座生まれの5人で折り本「蟹座」を作りました。
参加者は、詩人の平田俊子さん、歌人の田中槐さん、今井聡さん、島なおみさん、村上きわみです。

各種コンビニのマルチコピー機からネットプリント指定で取り出せます。
B4カラー、1枚60円。

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セブンイレブン(推奨)←プリントがきれいです

予約番号「26439106」

プリント代 60円。プリント期限は2013/07/27 23:59 まで

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サークルKサンクス・ローソン・ファミリーマート

ユーザー番号「UKZ97E568Z」

プリント代 60円。プリント期限は2013/07/28 00:00 まで

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今回は12分割の折り本なので、出来上がりは縦長な感じになります。
ちょっと折るのが大変かもしれませんが、基本はこれまでのものと変わりません。
上の図を参考に、がんばって折ってみてくださいね。
どうぞよろしくお願いします。

                        村上きわみ 拝

 


「未来」06月号(2013)

2013-07-03 | 未来

ゆびさきを揃えたままで来し方を語り始める波 つらかろう

丘を行くつもりの足がぬかるみを何度もみつけてはよろこんで

四十度傾けて読む寄せ書きのゆるいひらかな絵文字はなびら

春を待つ熊よおまえの悔恨に寄り添えなくてすまなく思う

気短な眉をしているその人がいきものとして吐く朝の息

割られたがる氷があって割りたがる手足があった いってらっしゃい

蠢蠢と食べてねむって春になれば深いところがついに泣きだす

みずうみがひらくのを見にゆきましょう(裂けているから尊い心)

くるしいと言えばいいのに明るくてあなたからいただく春帽子

新しい感情がくる 三月の枝はおのおの花を兆して