傘、手紙、からだの一部 はつあきの誤謬のように折りたたまれて
雨止みを待つわたくしのつま先に猫が来てひとしきりあやしむ
どちらからほどいてもいい手足だといつからだろう承知していた
せりあがる薄いことばのやましさに九月の喉をつくづくと焼く
蜂蜜の金色を引き出す補正値をさぐりつづけるひとの指先 ※ルビ「金色」きん
ぜりぜりとすりつぶしゆく松の実に油脂の滲みはきて くるしいか
にがかった夏の結びに並べおくペスト・ジェノヴェーゼのふかみどり
花のたね紙につつんでそのひとが口にするとき死はあたたかい
ささやかな抗いを経てすべりだすカヌーに君は膝をおさめて
水脈という破れをふたたび綴じてゆく川の古びというしずけさは ※ルビ「破れ」やれ