北緯43度

村上きわみの短歌置き場です

「未来」05月号(2013)

2013-06-11 | 未来

手がかりを求めるように啼きかわす鳥がいて冬の傷みやすさは

二月には二月の声を出したがるわたくしたちの小さなからだ

こころからこぼれる冬野 もう一度ひらきなさいと諭されるとき

糖蜜によごれた指を舐めている(詫びているのか)夢の弟

こちらから呼びよせるたび死は淡く死後のあなたを護るのだろう

もうこれでいいような気がするけれど乞われるままに海に来ている

濡れ雪と遊ぶつま先 残生と決めてしまうには早かろう

諍いのように乱れる枝先を見ている 真冬 このうえもなく

凍て風にふゆの作法をしめされて残り餅にはうつくしい罅

生前よ 水泡を曳いてひるがえるイトマキエイを飽かず眺めて

 


「未来」04月号(2013)

2013-04-29 | 未来

目に見えぬ手に揺すられて雪雲が困ったようにこぼす粉雪

ごめんね、と何度も思う 真冬日の犬はすっかりたいらになった

欠けませんようにお前のよいところよくないところ増えますように

塩の味ばかり際立つあけがたの夢でふたたび命をおとす

そのように鎮まる こころをモスクワにあそばせたまま皿を磨いて

骨格を筋肉を照らし合うようにあいしていたさ それはほんとう

隅ばかり見ておりましたどこまでも近似値でしかない一日を

祈らなくなって久しい 淹れたての妙に分厚いコーヒーを飲む

挨拶のかわりに刻む青いもの ななくさなずなとんどのとりと

火の重さたしかめながらゆく日々の篝火はひとりにひとつきり

 


「未来」03月号(2013)

2013-04-08 | 未来

稜線が今日はきれいに見えていてそうか遠くはあんなに遠い

ゆきがきて、毛羽立つひかり。あのひとの踵のことばかり思い出す

獣肉を煮込むのにふさわしい午後をさびしがらずにいるかあなたも

剣呑な会話のおよそ中ほどに配られている脆い焼き菓子

心臓はにがいだろうか ふかぶかと頭をさげて真冬を帰る

そんなふうに死んだひとを摑んではだめ いなくならない なりようがない

核心にふれずに終える一生のところどころに置くあんず飴

甘酒のつぶつぶ残る舌のままありがとうって言う はずかしい 

育てたいものをいくつも挙げながら銅貨をこぼすおんなともだち

ミミズクを愛するように父さんがわたしをあいしたのでこんなふう

 


 

  息を残す(未来年間賞 受賞第一作)

 

ふゆごとに雪のかけらを髪にのせ十代という瀞をゆくひと

濃紺の時間にくるぶしまで浸りスナック菓子をまた食べている

唇はときおり淀み かんたいへいようせんりゃくてきけい、なんだっけ

わたくしの十代よりはおだやかな迂回の術を知るうすい胸

夕刻の所作をゆるめてははそはの銀のボビンをきしきし磨く

トテモガッカリシマシタと言われるたびにしずかに増える水かさがある

てのひらで確かめてみる金槌の重さ冷たさ ひとにあいたい

雪の下はぬくい 球菜を埋めながら土の黒さをほめる祖母   ※ルビ「祖母」おおはは 

引き揚げのはなし幾度も湿らせて畳の上に茶殻をこぼす

祖父の胡座であそぶ真冬日の煙管の羅宇がまだあたたかい   ※ルビ「祖父」おおちち

気をつけて持てと手渡される鉈の暗い刃紋を目にうつしとる

これは海を生まれて初めて見たときの顔、へびはなび、シオカラトンボ

肩車されておびえる三歳のわたしを剥がす 連れて帰ろう

そしてすべてが父につながる悔しさを補遺とさだめて飲むふゆの水

なぜ歌に倚るのかと問うふしあわせなのかと静かに問う父のひと

餅網にさびしい餅をならべたいあなたを貶したい支えたい

死ぬのかと問えば少しく愉しげにまあそうですね、おそらくはね、と

もうだいじょうぶでしょうと言って少しずつあなたは森に似たものになる

そうでした 最後に見せてくれたのはこの世のへりをつかむ足指

そのようにいなくなりたい明るさを保つからだに息を残して

 


「NHK短歌」2月号 ジセダイタンカ 7首

2013-03-11 | その他

      wrest                  

 

親密になりすぎた日のぼくたちにふさわしい名前を授けたい

肉体が不如意なままで澄んでいる 青白い腱まで見せている

ストローで吸う(本意ではないだろう)緑茶のような味のぬるみず

くるみの木、ほしい、こよなく。ねむりから覚めたばかりの声でおまえは

(そのようにわかる)夢には夢なりの手順があって、またころされて、

ありがとう、おまえは川になるといい。僕はもぎとる係になろう。

あたためたミルクの皮を食べたがるいのちそのものとして座ってら

 

↓NHK短歌 2013年02月号  

http://www.amazon.co.jp/dp/B00ANQG6SQ


「未来」02月号(2013)

2013-03-03 | 未来

背景に求肥のような日没を据えて物語をはじめたい

途中だと思いつづける朝夕のとがった水に喉は応える

なだらかに(ゆ)を導いてくるだろう しずかに(ふ、)を置いてそののち

おりおりに隆起をみせる肉体のかすかなバグであれば齝む

いくたびも空裂きながら(賜物でありましょう)さびしいいなびかり 

抗ってはじける水の力量を見せている あれは川の筋肉

間違いのように降る雨舐めながらわたしどこへもゆかないだろう

サバイバルめいた遊びのただなかで塞ぎたいのはくちびるじゃない

去り際のうすいこころを渡し合うわたしたちついに凍土のままで

継ぎ足した火を持ち帰る ひとりひとりにんげんとして夜をこらえる

 


「未来」01月号(2013)

2013-02-02 | 未来

息をのむように鎮まりそののちをせいせいと散る花のすずしさ

金文字の浅いくぼみにひかり射し真昼の書架をわずか蔑する

旧聞のような暮らしをたのしんで破れ紙にくるむ螺子のいくつか

裂けながら進むあなたを川として尊ぶ 仕草のうつくしい川

兆しつつ揺れやまぬ日は金輪の際におおきく息ふきかけて

わたくしを使い果たして冬になる(毛布のようにふるまうな、ゆめ)

隅々を濁らせたままゆうぐれの羊羹めいた列に加わる

蕩尽をゆるしあうときにんげんの皮膚の甘さはとめどもなくて

生き死にを口にしながら盤上に星をいくつも置いてゆくひと

刻々と老いる体であそびたい(まだあそびたい)カステラを焼く

 


「未来」12月号(2012)

2013-01-06 | 未来

はつあきの水の硬さをたしかめる嘴もつものの健気をまねて

桃ばかり食べて暮らして甘たるい手足になった 始めていいか

祀られたこころのような蚊柱を見つけるたびにかきまぜるひと

鎖編みほどいて眠るあけがたの体はときに怯えやすくて

この世しか知らない腕で生きているわたくしたちのなかのわたくし

短めの休暇にゆるみ君が飲むとてもからだに悪そうなもの

書き癖の残るペン先なだめてもなだめても父の筆跡に似る

鯉が鯉をさいなむさまを詳細に記しただけで終わる一日

棒寿司を提げて歩けばすこやかな酸つきまとう帰路のわれらに

曇天をほめながらゆく(この夏はよみがえるのがじょうずだったね)


ネットプリント折り本歌集「ピヌピヌ」について

2012-12-24 | その他

道東在住の三人組(石畑由紀子さん、氏橋奈津子さん、村上きわみ)で

ネットプリント折り本歌集「ピヌピヌ」を作りました。

「ピヌピヌ」はアイヌ語で「内緒話」という意味。

雪と氷に閉じ込められた場所(やや誇張)に暮らす三人が、

それぞれ内緒話を持ち寄るように作ってみました。

年末のあわただしい時期ではありますが、

ひととき、切ったり折ったりの手間ごと楽しんでいただけるとうれしいです。

どうぞよろしくお願いします。

                          村上きわみ 拝

 

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全国のセブンイレブンのマルチコピー機で取り出せます。

予約番号「09144887」

プリント代 60円。プリント期限は2012/12/31 23:59 まで

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【手順】

セブンイレブンのコピー機のメニューで「ネットプリント」を選択

予約番号「09144887」を入力

60円かかります(ナナコでも払えるよ)。

コピー機からするすると出てきます。

持って帰って、折ったり切ったりしてね。

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※折り本の作り方はここがわかりやすいので参考にしてください。

 下の方に写真付きで解説してあります。

 http://gigazine.net/news/20121016-8p-orihon-maker/


 ページ位置は解説とちょっと違うけど、基本の作り方は同じなので、

 これを参考に、中央の実線部分(のみ。切り離さないで)を切って、

 全体を山折ったり谷折ったりしてみてくださいね。


 ちなみに、このページはテキストをペーストするだけでデータを作ってくれる

 「8p Orihon Maker」というサービスの紹介記事で、リンクもはってあります。

 このサービスを利用すると簡単に作れそうですね。

 みなさんもぜひ。折り本、楽しいよ。

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「未来」11月号(2012)

2012-12-03 | 未来

手詰まりになってひとまず裂いてみる魚の腹白くてやわらかい

さびしくて煮て喰うまでのわたくしの今日のふるまいはあからさま

水の面を乱さぬように落ちてゆく人体、それを受けとめる水

手足ならいつでもほどくかんばしい水にこころをすんと吸わせて

液体のようなからだで泳ぐのがよいでしょう あなたもそうなさい

いたましく傷つきたがる白桃を説き伏せながら剥いて、愉しい

ねじれながらどんどんにくむにくんでもにくまなくてもおなじひとりを

夏雲を産んでは乾く海沿いの町であなたとはぐれたかった

こじゅけい、とつぶやきながら糸偏をていねいに書く外つ国のひと

育ちのいい人のとなりでだいじょうぶ(もう大丈夫)秋がはじまる

 


「未来」10月号(2012)

2012-11-05 | 未来

藤棚の奥のくらみにゆきたがる人のからだという湿潤は

うねりながらた走る水に親しんで背いてはまた親しんでいる

一日の四隅燃やしてきたようなおみなごの目よ 恋愛は野火

熱のある細い手足が液体のように動いて ただいま、と言う

ひどくあやうい語尾そのままにふりこぼす火の粉(どなたを思っているか)

雨のあとの夏野にむせる準備だけしておけばいい 恋であるなら

首のない男の夢を二夜みて三夜めなれば連れ帰りたい

陸に塩こぼす小さなまじないを教えてあげるからついてきて        ※ルビ「陸」くが

海に刃をあてる あなたがもう二度と死んだりしなくてもいいように

夕暮れの酸味を胸にすりこんで復讐の話をはじめよう