さて、多治見なので、最後は陶器の記事で締めくくりましょう。
でも、作陶体験とか、美しい陶芸を見て歩くとか、そういうのはどこかの誰かにお任せ。
西浦庭園の向かいに資料館があり、その裏に「日曜朝市」と札をぶら下げた小屋がありました。(この日は土曜日でしたが。)無造作に陶器を重ね置いた棚に風で舞った砂がかぶったような様子で、屋根神様以上にカメラを向けづらい心境になり、写真はありません。その横にあった野ざらし倉庫は、四月の陶器祭りに出す品だと、あとから聞きました。
ティーカップの薄さと緑色が珍しく、いくらかな? と思ったけど誰もいない。
写真は、持ち帰って洗ってから撮ったもの。
しばらくすると道からおじいさんが現れ、ここの方だった。いい人なのか、ぼったくりの人なのか、わからなくて、先に「高かったらやめます」なんて失礼なことを口走ってしまった。するとおじいさんは「お目が高うございますね」と冗談を言い、300円と言った。なのに、千円札を出すと800円くれ、100円戻そうとすると「いい」と受け取らなかった。ここにあるのは日常使いには支障のないB級品ばかりのようだけど、やりとりが嬉しい。
訊かれるままに「東京から来た」などと言ったものだから、おじいさんは「これも縁だ」と、同じ種類の青いカップを黙って包んで下さった。これらの薄い器は多治見で焼いたもので、緑色のを作っていたのは数十年前。今は青だけだそう。陶器のお話をして下さったけれど、基礎知識がないのであまり記憶にとどまらず残念。お皿も一枚いただいた。
おじいさんは86才、現在は隣の資料館で案内をしている。
元は陶器の販売を仕事にしていたけれど、息子さんは別の仕事に就いて後は継がないそうで、「(陶器を)残されても全部捨てると言っている」と笑った。そんな思いの一部をもらってしまったような気がする。大事にしよう。「お元気で」と店をあとにした。
自分らしい一日が送れたのは、自分が自分らしくしていられる相手と一緒に過ごしたからかな?
旧友っていいね。〈多治見記、おわり〉