創作日記&作品集

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連載小説「Q」20

2020-04-28 09:37:10 | 小説
連載小説「Q」20
順平は父と同じ二十六才で結婚し、子供を作り、真面目に働いた。
社会的な責任は果たした。
でも、それだけだった。
いつも小説を考えて、理想と現実の間で喘いでいた。
一念発起、五十才の時に、会社を辞めて作家を目指すと、妻に宣言した。
説得しても、妻は首を縦に振らなかった。
次の日から満員の通勤電車の生活に戻っていた。
ある意味それは心地よい繰り返しだった。
焦るまいと順平は思った。
才能はあるのだ。
それに遅咲きの作家はごまんといる。
いつか作家デビューする。
だが、いつまでも『夢』は夢のままだった。
定年後もいくつも小説を書いて応募したが、予選も通らなかった。
五十才の時短気を起こさずによかった。
あれから無収入になっていれば、三人の娘を大学まで出すことは出来なかっただろう。
今の生活もなかった。
小説一本にかけたところで、才能のなさをおもい知らされただけだったろう。
これでよかったのだ。
だがそう思う度に、とても切ない気持になった。
確かに人生は結果ではないのだが。
ある時、「人生はつまらん」と洩らした義父の言葉が蘇った。
あの時、初めて義父に親近感を覚えた。
妻に小説を読ませても、「わからへん」の一点張りだった。
とうとう最後には、
 ――なんでもええから、いいよと言え!
無理難題を言ったもんだ。
「つまらん」とも言えず、下手に感想を言うと、十数倍の解説が返ってくるのを知っていたのだろう。
家族も票を入れなかった町会議員の候補者みたいだ。
妻が順平に求めたのは平凡な薬剤師だった。
連載小説「Q」#1-#20をまとめました。



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