創作日記&作品集

作品集は左のブックマークから入って下さい。日記には小説、俳句、映画、舞台、読書、など…。そして、枕草子。

青い背表紙の安部公房の文庫本

2021-12-26 15:32:31 | ラジオドラマ
『突然ジーコのように』は作品集に入れなかったラジオドラマである。
高校二年生の真知のモノローグから始まる。

真知(語り)「寝転がって、安部公房の『飛ぶ男』を読む。
氷雨本町二丁目四番地の上空を人間そっくりな物体が南西方向に滑走していった。
時速二、三キロ、読み間違いじゃないかと読み返す。
歩くより遅いスピードで男は飛んでいる。
飛ぶ、スーパーマン、ピーターパン、それは人の夢だ。
だが、歩くより、遅く飛ぶとは、それでも、夢だろうか。
夢でも、痛ましい夢だと思う。
何かを左手に持ち、耳に当てがっている。
唇の動きも、誰かに喋りかけてる感じ。
携帯電話だ。
荒い晒しのパジャマを着て、電話で話しながら、時速二、三キロで飛ぶ。
すっごく無防備だ。案の定、不眠症の女に空気銃で撃たれた。
深く考えない。漫画を読むように安部公房を読む。
それが結構楽しい。
どんなに読み違えてもかまわない。
誤解、誤読は私の自由だ。
安部公房は、何を真剣にこんなことを書いているのだろうと思いながら、主人公の保根治と言う名前に笑ってしまう。
『方舟さくら丸』の巨大な核シェルターの中心には、むき出しの巨大な便器があった。
そこに座っておしっこをしたら爽快だろうなあ。
『密会』と言う小説のラスト。
人間の形からますます遠ざかって行く、骨が溶けて行く病気の少女を抱きしめて、明日の新聞に先を越され、僕は明日と言う過去の中で、何度も確実に死につづける。
やさしいひとりだけの密会を抱きしめて。
意味もなく、そこで、私は、声をあげて泣いていた。
『飢餓同盟』。
花井太助のように、尻尾が生えていないかと心配になって、そっとお尻を触って見る。
そして、『砂の女』。
さらさらと落ちて来る砂の音だけが残った。
まだ、二人は砂の中にいるのだろうか。
そこには、そっけなく、乾いた砂のような幸せがある。
ページを飛ばしてもいい。
分からない言葉はいい加減に読み飛ばしてもいい。
私は国語も、文学も全く好きじゃない。
ただ、青い背表紙の安部公房の文庫本は好きだ。
好き勝手に開いて、一行だけ読む事もあれば、夜明けまで読みつづける時もある。
そして、読むと同時に忘れてしまう。
ただ、青い背表紙の小さな本の中で、彼は次々にドアを開けて行く。
私は、何も考えずに、彼が開けてくれる世界をさ迷うのだ。
そうして、いつも、いつの間にか小さな眠りが私を包む。
これはそんな生活を繰り返していた高校時代、1994年1月から始まる物語だ。

青い背表紙の安部公房の文庫本は処分してしまった。
もう一度探してみるが、やはり、なかった。

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池窪弘務作品集6 一九九九年(五十三歳)

2021-12-09 16:46:43 | ラジオドラマ
池窪弘務作品集6 一九九九年(五十三歳)
窓(ラジオドラマ)
1999-11-13(FMシアター)
平成十一年(1999年)四月十六日第十四回創作ラジオドラマ脚本コンクール(名古屋) 佳作入選
リンクをクリックして下さい。PDFファイルで読めます(Windows)。アンドロイドではダウンロードされます。

暗いドラマです。
『トランプの家の迷子たち(戯曲) 』と対極にあります。また、同じラジオドラマでも『一人で跳べる(ラジオドラマ)』と違って、モノローグがとても多いです。
これがあの頃の私の実体です。
今も変わらないです。
老人になっただけです。

主役は中村梅雀さんです。


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池窪弘務作品集3 一九九五年(四十九歳)

2021-12-05 14:33:32 | ラジオドラマ
池窪弘務作品集3 一九九五年(四十九歳)
『バスが行く(ラジオドラマ)』
1995-09-30(FMシアター)
リンクをクリックして下さい。PDFファイルで読めます(Windows)。アンドロイドではダウンロードされます。


入選すればシナリオ依頼が来ると思っていたのは甘かった。
『一人で跳べる』の演出家のS氏を頼ってシナリオを持ち込む日が続いた。
やっと興味を示されたのが『バスが行く』だった。
だけどそれからが長かった。
何度も書き直しが続いた。
「もうやめます」という言葉が何度もでかけた。
シナリオは原形をとどめないぐらいになった。
私は迷路に落ちた鼠みたいだった。
そんなある日言葉が落ちてきた。
初登場する風(ふう)やんの科白である。

音吉「風やんどこ行くんや」
風やん「めばちこできたよって、鶴橋の目医者行くねん」
音吉「お前も白髪が目立ってきたなあ」
風やん「アホは年とらへんのに、言いたいやろ」
平三郎「せやけど、風やんはほんま男前やなあ」
音吉「千代の富士みたいや」
風やん「おおきに」
音吉「それで、しゃべらへんだら、ほんま、ようもてるで」
風やん「こんなとこで、いちびってんと、目医者いこ。あるときは、片目の運転手、そして、その実体は、正義と真実の人、藤村泰造、ばーん、ばーん。はいよシルバー、ローレン、ローレン、ローレン」
うた「気つけていきやあ」
風やん「おおきに、ローレン、ローレン、ローレン(次第に遠ざかっていく)」
ゆめ「えらいこっちゃ、鶴橋行くて言うてたなあ。風やん止めて」
うた「ゆめちゃんどうしたん」
ゆめ「鶴橋で、車にぶっかって、ほんで風やんは」
(ローレン、ローレン、ローレンの小さい声)
音吉「風やん」
うた「自転車が、空を駆け上がっていく」
ゆめ「消えた」
(ローレン、ローレン、ローレンの小さな、小さな声。一拍おいて、大きく、ローハイド)

『バスが行く(ラジオドラマ)』は関西演劇界の四人の重鎮の出演でラジオドラマ化された。




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池窪弘務作品集2一九九四年(四十八歳)

2021-12-03 10:36:02 | ラジオドラマ
池窪弘務作品集2一九九四年(四十八歳)
『一人で跳べる(ラジオドラマ)』
1994-01-08(FMシアター)
リンクをクリックして下さい。PDFファイルで読めます(Windows)。アンドロイドではダウンロードされます。

全て音のみで書いた。
科白と音のみのドラマである。
すなわちモノローグがない。
不思議にすらすらと書けた。
手応えがあった。
入選した。

前年に友達が亡くなった。
大学の卓球部で四年間一緒だった。
私が部長で彼女が副部長だった。
市民サークルの卓球で、彼女は頭をラケットでこんこんと叩いたと言う。
彼女のよくやる癖だった。
その後倒れたと聞いた。
一度も意識は戻らなかった。
今でも細かい仕種まで思い出す。
男の先輩の烈しいラリーに耐える。
汗が飛ぶ。
病院に駆けつけた時は死の直後だった。
私は卓球に対する興味を失った。

ドラマの主役は長塚京三さん。
オーラがすごかった。
最後の科白がピタッと決まった。
それまで姦しかったスタッフルームも水を打ったように黙った。
「ピアスがキラリと光った」
長塚京三さんはさらっと言った。
私は最初に考えたタイトルが「ピアス」であったことを思い出していた。
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