私は高村さんの小説を読了したことがなかった。
読み始めても最初の方で挫折する。
何故か分からない。
相性が悪いというほかない。
高村さんは「ワープロがなかったら、小説を書かなかった」とどこかで書いておられた。
これはよく分かる。
同感である。
正直な人だなあと思った。
『土の記上下』は初めて読了した高村作品である。
でも、やはり、かなり苦労した。
私の両親は大宇陀の出身である。
馴染みのある地名や生活が出て来て興味を引かれた。
大宇陀漆河原(うるしがわら)は奈良県の農村で大宇陀嬉河原(うれしがわら)をモデルとしているという。
嬉河原の旧名が漆河原なのでややこしい。
登場する地名や神社をネットサーフィンするのも面白い。
屑神社なんか行ってみたいですね。
とにかくこの入り婿はよう働く。
同年代の私なんかがこんなに働いたら、間違いなく過労死です。
小説は主人公上谷伊佐夫(72才)の土へのこだわりと、垣内(小集落としてまとまった地縁集団)について描かれます。
そして物語と東日本大震災がクロスします。
――十五時間前、漆河原から八百キロの地でマグニチュード9とも言われる大地震が起こった。
しかし地球は公転も自転も止めたわけではなく、今日も夜は正確に明け、新しい一日が始まる。
もっとも人間のほうはさすがに昨日と全く同じではあり得ず、
生き残ったものはそれぞれ有形無形の異変を身体に刻んで、
恐る恐る自分の暮らしに戻ったというのが正解だったかもしれない
――
長い引用ですが共感します。