創作日記&作品集

作品集は左のブックマークから入って下さい。日記には小説、俳句、映画、舞台、読書、など…。そして、枕草子。

今日の一句

2019-10-14 09:50:03 | 俳句
今日の一句
無花果や乳兄妹がゐると言ふ
昔はお乳の良く出る人が他の人にお乳を分けて吸わせることがあったようです。
それを乳兄妹(ちきょうだい)。
僕にも乳兄妹がいたと今は亡き母が言ってました。
男か女かさえ分かりませんが、同じ乳を飲んで育った人がいるというのが不思議です。
無花果は母乳を思い出させます。
ち(い)きょうだいと読んで7文字。か?
本当はちちきょうだいと思ってました。

『太宰治「誰も知らぬ」』井原あや編

2019-10-09 10:30:08 | 読書
当時の女性雑誌に書かれた作品を年度順に並べたアンソロジーである。
高校生の時乱読した太宰治は50年以上経っても新鮮だった。
私も何も変わっていないということでもある。
青臭いまま進歩していない。
ただ青臭い老人になった。
二十歳の頃、私の読む小説は、太宰治から三島由紀夫に変わった。
友達の妹に三島由紀夫が好きだと言うと、「私は嫌いです」と即答され、付き合いは初対面で終わった。
三島由紀夫と太宰治の一度きりの出会いを少しフィクションをまじえながら書いてみよう。
三島由紀夫が震えながら太宰治に、
「僕はあなたの文学が嫌いです」
と、言った。
太宰治は、キョトンとしていた。
「まあ、そんなことはいいじゃない。会いに来たんだから」
と、酒を勧めようとして、相手が子供みたいに小さいのに気づいてやめた。
三島由紀夫は、愛想笑いを浮かべ、ぺこりと頭を下げた。
言うことは言った。
三島由紀夫の最晩年に、
「それじゃあ、太宰治と一緒だよ」
と、友人に指摘されて、
「俺と太宰は同じだよ」
と、三島由紀夫は真顔で言った。



『格闘』高樹のぶ子著

2019-10-07 16:16:20 | 読書
作者は、私と同じ1946年生まれ。
芥川賞作家である。
作家志望? の私には気になる存在だった。
とても面白くて、三日ほどどっぷりつかった。
ノンフィクションの形を取っているが、小説らしい小説である。
羽良勝利(通称ハラショウ)、康子さん(ハラショウの内縁の妻、私(作者)の関係が色々と変化する。
それはさながら格闘である。
とっくみあいである。
私も格闘技には若い頃から興味があった。
子供の頃は、二、三人よれば、地面に円を描き相撲をしたものだ。
高校生の時は、ボクシングのジムを友達と二人で探したこともある。
私の住む100軒ほどの一戸建団地の一区画に道場があった。そこで子供を中心に空手を教えていることを知った。
一大決心をして入門した。
格闘技がどうしてもやりたかった。
四十才近くの入門だった。殆どが子供だったが、大人が一人いた。
百八十㎝はあっただろう。F君は国体クラスの猛者だった。
大人が二人しかいないので練習相手は私だった。打ち傷、擦り傷だらけの毎日だった。
たまさか四、五人の大人の入門があり、私はいじめられた。
F君は彼らを痛快に投げ飛ばした。彼らは次の日から来なくなった。
試合にも出た。
「池窪さんは逃げ回って下さい」と、先生から言われた。
逃げ回る暇もなく一本負けをした。
初段の試験では、正拳を鼻に受けて出血した。反則勝ちである。
試験の結果が夜遅くまで先生から来ないので、やきもきしていると、
「いやあ、遅くなりました、池窪さんを合格させようかどうかでもめていたんですよ」
私が原因だった。
ギリギリ初段になった。
黒帯を締めた感動は今も覚えている。
F君の師範代試験には、受けを取ったが下手でF君に迷惑をかけた。右なのに左に動く。F君が目で合図する。とても気の毒だった。
もう三十年も前の話である。
団地の草刈り清掃で久しぶりに先生と会った。
F君の話を訊いた。
「死にましたよ」
不意打ちを食らった。
「現場の高所から落ちたんですよ。若いのにかわいそうなことでした」
私の中で空白が生まれた。
彼との格闘が無性に懐かしい。