創作日記&作品集

作品集は左のブックマークから入って下さい。日記には小説、俳句、映画、舞台、読書、など…。そして、枕草子。

『スクラップ・アンド・ビルド』・羽田圭介著 2

2018-01-31 17:24:03 | 読書
孫の健斗(28才)から見た祖父(87才)が描かれている。
三人称の「健斗」を一人称の「ぼく」に置き換えても通じそうだ。
むしろその方がすっきりするように思う。
祖父には五人の子供がいるが、たらい回しされて、
今は、上から二番目の長女(健斗の母)の家にやっかいになっている。
母は定年後嘱託で働いている。
健斗は七ヶ月前から失業中だ。
祖父の行動や言葉は書かれているが内面はほとんど書かれていない。
祖父の方から見てみよう。
一部屋与えられている。
杖歩行だがトイレにも食事にも介助はいらない。
一人で留守番も出来る。
週三回のディサービスと月末の三日間のショートスティに行っている。
やれることは自分なりにやっている。
それなのに娘に怒鳴られる。
誰が育てた!
でも、それは禁句だ。
思わず叫んでしまった。
「仕事なんか行かんで、家におれ」
「仕事に行くなら、いっそ殺して行け」
一人でいるのが不安だった。
若い女性ヘルパーの腕や胴体を、祖父が触っていた。
健斗は性欲だと思うが、
生身の人間に触れたい。
大人しい老人を演じなければ。
孫は優しいが、時々人間じゃないものに見える。
あいつは宇宙人か?
とにかく淋しい。
「早う迎えにきてほしか。毎日、そいだけば祈っとる」。
そんな日は必ずやって来る。
若さ溢れる君にも。
楽しい日々も苦しい日々も全て過去だ。
前には『死』しかない。
面白いもんは何もなか!
人は過去に生きられない。
少し前向きになろう。
祖父の「ゴボウの切れ端みたいなペニス」に健斗が自分の存在を重ねるシーンがあったと思う。
その箇所を探すが、見つからない。
最初からなかったんじゃないかと不安になる。
電子書籍の活字を追っていると、小説に、祖父の名前がないのに気づく。
母の名もない。
祖父は母を「お母さん」と呼ぶ。
そして怒られる。
「お母さんって呼ぶな!」

『スクラップ・アンド・ビルド』・羽田圭介著

2018-01-28 10:58:05 | 読書
BooKLivekの本棚に文藝春秋が入っている。
クリックしてみると、又吉直樹さんの『火花』を目当てに買ったのを思い出した。
告白すると読み終わった後も、タイトルが「花火」だと思っていた。
もう一つの芥川賞小説『スクラップ・アンド・ビルド』・羽田圭介著は読んでいなかった。
もったいないので読み始めると、はまってしまった。
誰でも老人になる。
僕なんか十分なっている。
あちこち痛いと嘆き。早く死にたいと口癖のように言う。
しかし、死を望んでいるのではない。一日でも長く生きたいと思っている。
「早う迎えにきてほしか。毎日、そいだけば祈っとる」。
自分から行く気はない。僕と同じだ。
老人は(いや人間は)したたかである。
一筋縄ではいかない。しかし介護がなければ生きられない(ごはんを作れないと終わりである)。
介護をする生き物は人間だけだと思う。
迫ってくる老いと病と死。
信仰を持たない大半の日本人は祈るべき神もない。
とにかく、この小説のようなことは今、日本の何百万の家で進行中である。