とても重要な帖で、紫式部のストリーテーラーとしての実力が発揮される。藤壺の死。源氏の恋に対する意欲はここで断たれているように思える。次の帖「朝顔」への思いは一途ではなく、ただ惰性のようだ。冷泉帝が夜居の出生の僧都から秘密を聞かされる。牧師が懺悔に立ち会ったように、僧都もそんな役割を果たしていたのだろう。とても興味深い。冷泉帝が父を臣下に置いていることに悩み、譲位しようとする描写は、この時代の人間の心を描いている。紫式部は巧みな物語の布を織りながら、一人一人の心を描いている。見事だ。
前回「デンデラ」に興奮して、そこは老人ホームではない。闘いの場所だ。と書いてしまった。だが、それは間違っている。老人ホームも闘いの場所だ。生きている限り闘いなのだ。
620枚を一気に読み切った。面白い。読み出したら止まらない。語り口がとてもよい。老人達のパワーに勇気づけられる。姥捨て山から命を救われた老婆達がデンデラで生きる。救われた?。捨てられた者だけで暮らすデンデラ。そこは老人ホームではない。闘いの場所だ。飢え。熊との闘い。疫病。28才の作者が描き出す世界は壮大だ。「1,000の小説とバックベアード」の作者。この作品も読んだ。とんでもない才能が出現した。島田荘司の小説が好きな私に一つ楽しみが増えた。文学?。いいじゃないのそんな事。その他にも、新潮2009.1には良い作品が揃っています。
谷崎源氏に挫折し、瀬戸内源氏も挫折した。窯変 源氏物語は長すぎた。だが、今度はいけそう。源氏物語ってこんなに分かりやすい話だった。とにかく人物描写が素晴らしい。源氏をめぐる姫君も、個性的である。末摘花は別格として、不美人もけっこう多い。須磨に落ち延びた源氏は初めての辛苦を経験する。都に帰った彼は、自分を見捨てた人に報復する。政治的策略も労する。人間くさい性格もきっちりと描かれている。「蓬生」の末摘花も素晴らしい。頑固だ。誰の言葉にも動かない。ひたすら源氏を待ち続ける。明石の入道はユーモラスだ。「絵合」の面白さは圧巻である。あっという間に「松風」まで読み進んだ。全部読まなくてもいいから、原文にあたって欲しいと、著者は言っている。では、どの巻を原文で読もうかと考えながら読むのも楽しい。第三巻の発刊まで日数があるから、佐藤友哉著「デンデラ」(新潮2009.1)を図書館で借りて読み始めた。これは面白そうだ。