創作日記&作品集

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連載小説「Q」29

2020-05-07 05:52:39 | 小説
連載小説「Q」29
光一は急いで名刺を差し出した。
順平は名詞を一瞥しただけで坐卓に置いた。
「今、冷麺を作るところやったんやけど」
「冷麺ですか」
「冷蔵庫の中にある。作ってくれるか。なんや邪魔くそうなって、パンでも囓っとこか思てたんや。一袋二人前やろ。あんたも食べたらええ。ハムと錦糸卵入れたらおいしいよって」
順平は、昼食をうどんから冷麺に変えた。
かくして光一は冷麺を作る羽目になった。
光一は楽しかった。
多分就業規則違反だろう。
食べさえしなければ、少しは軽くなるかもしれない。
麺を茹で、氷で締める頃には、その決心も揺らいできた。
「あんた上手やなあ」
「よく作るんですよ」
「そうか、ほな食べよか」
「いただきます」
見知らぬ人と食べる冷麺は旨い。
「人とご飯食べるの何日ぶりやろ」
順平は言った。
光一が後片付けに立つと、
「そこに置いといてもろたら後で洗うよって」
光一は、さっさと中華皿を洗った。
連載小説「Q」#1-#20をまとめました。