猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

「米政権『靖国』に懸念 アジア戦略『日本に見直し要求』」という記事

2006-01-07 04:14:47 | 日中関係・米中関係
 少々前のことになるが、1月1日付けの「米政権『靖国』に懸念 アジア戦略『日本に見直し要求』」という見出しの、毎日新聞の記事(電子版)が載った。全文は下に引用しておくが、その概要は「11月に、米政権が日本と中国に対して靖国をめぐる問題を引き合いに出して、日中関係の悪化に釘を刺していたた」ということと「日本はアジア外交に関して戦略を持て」と注文をつけていたということである。毎日新聞の論調は、率直に言ってミスリーディングである。
 昨年11月20日の北京での米中首脳会談で、ブッシュ大統領は靖国参拝を踏まえ歴史問題について対話の促進を求めたのは事実であるが、やはりこれは中国に対する自制を求める意味合いが強かった。日本に対して「(参拝を)やめるのも一つの方法だ」とマイケル・グリーン前米国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長が言及しているのも、米国の国策としての外交方針ではない。あくまでも個人的見解であろうし、それが日米同盟強化論者の彼の最も主張したかった部分とも思われない。
 それよりも、注意して読み取るべきことは、日本に対してアジア外交の戦略性を持てという注文である。戦略性をもてということは、まかり間違っても「中国の機嫌を取れ」などということではない。日本の戦略がはっきりしていないと、米国も対応しようがなく困るから注文をつけているというだけの話である。この結果どうなったか?12月の東アジアサミットにおいて、東アジア共同体に関して小泉首相が「自由・民主・人権という価値観を共有せねばならない」という演説が、その結論だと解釈するのが妥当である。これは、立派な戦略に他ならないからである。この詳細は『 「自由・人権の尊重、透明性確保を」―小泉首相の東アジアサミット基調演説骨格 』をご覧ください。
 さて、かように当該記事は「靖国問題で米国に釘を刺された、日中関係改善を強く促された」と不正確な印象を与えるものであるが、米国が今のところ日中関係の徹底的な悪化を望んではいないのは間違いではない。といって、日中が蜜月関係になり米国をアジア太平洋地域から排除するようなことは許さないというのはいうまでもないことである。日中が不即不離か若干緊張気味の関係にあることを米国は望んでいるというのが真相のように思われる。中国は米国にとって、経済的にはパートナーといってよいのだろうが、安全保障上はライバルに他ならない。経済関係と安全保障の二者択一を迫られたときに、国家というものは迷わず安全保障を選択するというのは、歴史が教えてくれるところである。そういうわけで、対テロ戦争もさることながら、対中戦略をにらんで米軍再編を精力的に進めようとしているのである。そのために日米同盟を強化しようというのが大きな流れなのだから、日中の緊張を高めてそれを「外圧」に日本の協力を取り付けるというシナリオがそれなりに有力なのではないかと考えられる。


(引用記事)
[米政権 「靖国」に懸念 アジア戦略「日本に見直し要求」]
 ブッシュ米政権が小泉純一郎首相の靖国神社参拝による日中関係の悪化に懸念を強め、アジア戦略の見直しを日本政府に強く求めていたことが明らかになった。昨年11月20日の北京での米中首脳会談で、ブッシュ大統領は靖国参拝を踏まえ歴史問題について対話の促進を求めた。同行筋によると、大統領発言は胡錦濤国家主席ばかりでなく、小泉首相も対象とした強い注文だった。米政府はこのままではアジアで日本の孤立化が進み、米国の国益にまで影響するとの警戒感を強め、参拝中止に直接言及しないまでも、アジア外交の見直しを迫ることにした。
 日米中政府筋によると、米中首脳会談でブッシュ大統領は靖国参拝に関連して「歴史問題について対話を促進してもらいたい」と従来よりも踏み込んだ形で歴史問題に言及した。胡主席は「中国にとってアジアにおける米国の存在は重要だ」と強調した。
 昨年11月16日の日米首脳会談でも、米側が最も時間を割いたのは中国問題だった。ブッシュ大統領は「中国をどう見ているのか」と対中戦略の説明を求めたが、首相は参拝の正当性を主張したにとどまった。
 一連の米側発言について、ブッシュ大統領のアジア歴訪に同行したマイケル・グリーン前米国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長は12月28日、毎日新聞のインタビューで「中国は歴史問題で日本を悪玉に仕立て、孤立化させるカードとして使っているが、日本にはこれに対抗する戦略が十分ではない」と指摘。大統領発言は日本にアジア戦略の見直しを急ぐよう求める意図があったことを明らかにした。靖国参拝については「大統領は首相の参拝に口をはさまない」と述べつつも「やめるのも一つの方法だ」と米政府内にくすぶる参拝反対論に言及した。
 米政府は昨年10月17日の首相の靖国参拝以来、日中関係の修復が絶望的になったとみて外交ルートを通じて日本政府に「懸念(concern)」を伝えてきていた。ところが一向に改善の兆しがないことから、11月のブッシュ大統領の東アジア訪問での一連の発言につながった。
 米議会内には日中間の反目で中国が対米重視を強めれば経済的な相互依存関係を背景に「日中のはざまで身動きできなくなり、米国の国益を損なう」との警戒感がある。【平田崇浩、ワシントン及川正也】
(毎日新聞) - 1月1日17時21分更新


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
tsubamerailstarさまへ (猫研究員。(高峰康修))
2006-01-11 05:11:48
よい記事を紹介してくださりありがとうございます。続編として使わせていただきます。

毎日の記事は「知日派のマイケルグリーン氏だって日本の対中政策(特に靖国?)に苦言を呈しているんだ」という印象を植え付けるためのいわば情報操作でしょう。
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私もそう思いました (tsubamerailstar)
2006-01-10 16:11:38
知日派のマイケル・グリーン前NSC上級部長の真意としては、↓の東京新聞の記事の方がより正確ではないかと思います。そもそも中国の反日云々の真意については米国筋はとっくのとおにお見通しなんですよね。毎日の記者はそんなことすら判ってないのではないでしょうか。



http://www.tokyo-np.co.jp/00/kok/20051230/mng_____kok_____002.shtml
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