猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

羽越線特急列車転覆事故について―報道機関の姿勢に異を唱えたい

2006-01-03 03:05:24 | 社会問題全般
 昨年末、12月25日に山形県内を走行中の特急列車が突風にあおられて脱線転覆し、5名の犠牲者を出すという痛ましい事故が起きた。犠牲になった方々にはお悔やみを、怪我をされた方にはお見舞いを申し上げたい。
 事故の原因は、軽々に判断するのは差し控えなければならないが、おそらく局地的な激しい突風ということらしい。冬の日本海側は、季節風に伴う発達した積乱雲により荒れた天候となりうる。積乱雲によるダウンバースト(激しい下降気流による強風)や竜巻といった現象は、水平方向にはせいぜい数十から百メートルのスケールである。安全運行を確保できなかった以上、徹底的な原因究明が行われるとともにJRの責任が問われるべきことは当然であるが、各種報道機関の論調を見ると、単なるJR批判という浅薄な魔女狩りに陥っているという印象が強い。ローカル紙の社説をいくつか引用してみたが、「規定に照らす限り、運転士は徐行や停止の措置を取る必要はなかったと言える。実際、運転指令からの指示もなかったようだ。しかし、その判断に誤りはなかったのか。」(中国新聞12/29)とか、「風を見誤ると大きな事故につながるという教訓を、JRは忘れていなかったか。」(神戸新聞12/28)とか、実に質の低い内容である。前者には、走行中の密閉した運転室にいる運転士が一体どうやって現場の気象状況を適切に判断して列車を止めるというのかお聞きしたい。後者には、気象現象についての知識が乏しいのでそんな抽象的な非難しかできないのだろうとしか言いようがない。全国紙も濃淡はあっても似たようなもので、いちいち引用しないが、犯人探しとつるし上げに血道をあげることに傾斜しすぎである。
 橋梁の構造が、橋げたの上に線路が直接敷かれていて枕木の間が空間になっているというものだったため風の影響を受けやすかったのは問題点だろうし、風速計の位置が適切だったか検討する必要はある。しかし、風速計をやみくもに増やしさえすれば今回の事故が防げたかというと必ずしもそうは言い切れない。あたかも、それが可能であるかのうような論調は誤解を招く。しかも、それは現実的でもない。いたずらにセンセーショナルさばかりを追求する報道姿勢には大変疑問を感じるし、そんなことは逆に真相究明の妨げになるというものである。


(参考記事1)
[約8キロの直線上で強風 竜巻発生か、特急脱線転覆事故]
 山形県庄内町の特急脱線転覆事故で、現場を含む約8キロの直線上で防雪柵が折れて飛ばされたり、砂防林がなぎ倒されたりしていたことが2日、分かった。
 当時現場上空では真夏並の積乱雲が発達。事故が起きた時間帯に直線上にある家の住民が「竜巻のようだった」と証言しており、山形県警と国土交通省航空・鉄道事故調査委員会は、竜巻が西から東に線路を横切った際に特急が通過、転覆につながった可能性もあるとみて調べている。
 現場付近から南西約8キロの砂防林ではクロマツが根本からなぎ倒され、林から約3キロのコンビニでは25日午後7時10分ごろ、道路反対側の防雪柵の一部が折れて店の入り口を直撃した。
(共同通信) - 1月2日16時57分更新
(参考記事2)
[山形・特急脱線 突風対策の見直し急務] -中国新聞'05/12/29社説
 自然の猛威に、あらためて息をのむ。地吹雪の中で起きた特急の脱線転覆事故。原因の調査が進むにつれ、走行中の車体が局地的な突風にあおられ、脱線につながった可能性が高まっている。
 だが、四十人近くが死傷した惨事に、人災の要素はなかったのか。適切な再発防止策を講じるためにも、予断を排し、運行マニュアルの見直しも含めた厳正な検証作業が求められる。
 事故の発生はクリスマスの夜。JR東日本などによると、秋田発新潟行きの特急いなほ14号は、雪などの影響で酒田駅を一時間余り遅れて出発した。最上川の鉄橋(長さ約六百メートル)を通過した直後、六両編成の車両すべてが脱線。うち三両は転覆して大破した。
 先頭車両は線路沿いの小屋に激突し、車体は「く」の字に変形。四月のJR尼崎脱線事故を思わせる惨状を呈した。犠牲者も、この車両の中や周りに集中していた。
 山形県庄内町のJR羽越線の現場付近はこの日、暴風雪警報が発令され、事故の直前には約五キロ離れた酒田市で最大瞬間風速二一・六メートルの強風を記録したという。
 運転士の話では、特急は現場の直前を時速約百キロで通過していた。
 JR東日本の運行規定によると、風速二〇メートルを超えた場合に駅長が運転指令に報告。二五メートルで徐行、三〇メートルで運転を見合わせるなどと三段階の基準を設けていた。
 この規定に照らす限り、運転士は徐行や停止の措置を取る必要はなかったと言える。実際、運転指令からの指示もなかったようだ。
 しかし、その判断に誤りはなかったのか。乗客の安全を預かるJRや運転士にとって、川風が吹き抜ける鉄橋などは風の影響を受けやすい場所として要注意の個所ではなかったか。一九八六年に旧国鉄山陰線の余部鉄橋(兵庫県)で起きた列車の転落事故を挙げるまでもなかろう。
 関係者によると、脱線現場直前の最上川の鉄橋は風が強く、これまでにも再三にわたって強風による減速や停車の運転規制が行われていたとされる。
 鉄橋周辺の強風情報を運転指令室に伝える風速計は、脱線現場から一キロ近く離れて設置されていた。風速計の設置個所が適切だったのか、疑問が残る。
 さらに鉄道工学や風工学の専門家は、現場の線路が「盛り土」の上にある構造になっていたことを指摘。突風が盛り土を駆け上がり、川からの横風と相まって風の力を増幅させた可能性がある、としている。強風や突風対策の見直しが急務である。
 運行判断の中に、雪による遅れを取り戻そうする意識がなかったのかどうか。尼崎事故の前例があるだけに、気がかりだ。現場のとっさの判断を生かし、臨機応変な危機管理ができる運行システムづくりにも、意を尽くしたい。
 今回の事故では、救出活動も難航を極めた。夜間の事故で、現場は足場の軟弱な田園地帯。クレーン車などの重機の搬入作業もままならず、吹雪が悪条件に追い打ちをかけた。正月を目前に控え、遺族の苦悩が重く迫る。

(参考記事3)
[羽越線事故/風の怖さ忘れていないか] - 神戸新聞 (2005/12/28社説)
暴風雪・波浪警報下の山形県庄内町のJR羽越線で、特急電車が脱線転覆し、乗客四人が死亡した。
 最上川に架かる鉄橋を越えた直後に、強風の直撃を受けたらしい。六両編成のすべての車両が脱線し、三両が転覆した。四人の死亡以外にも、乗客・乗員計三十二人が重軽傷を負っている。
 事故当時、現場付近は風に加え、雷とあられ交じりの荒れ模様だった。強風による速度規制措置は取られていなかった。
 警察が事故原因を調べているが、無理な運転はなかっただろうか。
 国土交通省航空・鉄道事故調査委員会も調査に入った。規制の目安とする観測装置は正常に作動していたのか。観測体制に不備な点はなかったか。強風情報を運転士が十分、把握していたのだろうか。脱線原因の究明とともに、詳細な調査が必要だ。
 今回の事故で思い起こされるのは、一九八六年十二月、兵庫県香住町(現香美町)の山陰本線余部鉄橋で起きた脱線転覆事故である。回送中の列車が、高さ約四十メートルの鉄橋を通過中、日本海から吹きつける強風を受けて転覆し、六人が亡くなった。
 風速二五メートル以上を示す警報装置が作動していたのに、規定通り列車を停止させなかったことが原因とされた。
 このときは、地元のお年寄りが「経験したことのない強風」と話していた。
 強風が原因で列車が脱線、転覆する事故は、少なくない。
 北海道新得町で約十年前に起きたJR根室線の脱線事故では、四五メートルの横風を受けていたことが、警察の調べでわかった。
 風を見誤ると大きな事故につながるという教訓を、JRは忘れていなかったか。
 特に冬の日本海側では、強い寒気が流れ込むと、気象予報図や定点の観測だけでは推測しがたい天気になる場合がある。
 風の強さは、地形や立地で異なる。観測地点では基準内の風でも、少し離れると基準を超えることも起こり得る。
 特に“雪おこし”と呼ばれる雷が鳴るときは、局地的に荒れ模様になりやすく、突風などには十分な注意が要る。
 雪国では豪雪による雪崩や架線の事故も突然で怖いが、天気の急変や局地的な悪天候も怖い。それに見合った速度規制など、安全対策が求められる。今回は沿線の風への備えが十分だったか、そうした点からの調査も必要だ。
 今年は間断なく寒波が押し寄せ、「雪の上にまた雪」を繰り返している。列車の安全運行の総点検を求めたい。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
マスコミって怖いですね (ダイ・グ)
2006-01-04 16:15:45
ご無沙汰しています。

それにしても、この件に限らず日本のマスコミって、事件が起こると必ずといっていいほど、まず責任問題を追求することが一番大事っていうような報道姿勢ですよね。

確かに責任問題を追及しなければいけない時もあるが、この件のような天災に近いような事については、「どういう理由(条件)でそうなったか」という事をまず明らかにする方が大切なのでは?と、思います。

今の報道を見ていると、ご指摘されていたとおり、まずは「責任者出て来い!!」と叫んでいるような感じがして・・・正直好きになれません。

しかし、言論の自由を認めている以上、それに対する有効な手段があるわけでもなく、結局は「モラル」に頼らざるを得ないのでしょうか?
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ダイ・グさまへ (猫研究員。(高峰康修))
2006-01-07 04:25:16
コメントありがとうございます。

主張したかったことをご理解くださって、とてもうれしく思います。いたずらにマスコミを叩く気は毛頭ないのですが、生半可な知識に基づいて「責任者出て来い!!」となるのは全く世の中のためになりません。そうではなくて、専門家に徹底して聞き取り調査などをして、それを咀嚼して分かりやすく解説するのが使命のはずです。
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