猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

上海領事館員自殺事件で遺書明らかに―中国の横暴を肝に銘じるべきだ

2006-04-04 07:20:26 | 日中関係・米中関係
 2004年5月に在上海日本総領事館の館員(通信を担当する電信官)が自殺した問題に関して、同館員が中国の情報当局から外交機密などの提供を強要されていたのではないかという疑惑が浮上し、日中間の重大な外交問題になったのが昨年末のことである。この件は、我が国の外交に関する情報の安全が著しい脆弱性を孕んだものであることを如実に示した。同時に、中国という国家の遵法精神の欠如が白日の下に晒された。
 さて、このたび、讀賣新聞が件の領事館員の遺書を入手して公表し、事件の全貌が明らかになった。その前に一点だけ指摘しておくと、当該遺書は極秘扱いだったので、仮説としては、意図的なリークではないかとも考えるのはなかなか説得力がある。しかし、そうでないならば、機密の扱いに再び不備があったということになる。もっとも、遺書を機密扱いにする必要性如何はまた別の問題である。外務省が31日に早速省内に秘密保全調査委員会(委員長・谷内正太郎次官)を設置し、関係者の事情聴取など行い、遺書が外部に流出した経緯などについて調査するようなので、額面どおりに受け取れば後者ということになるが…。
 讀賣の報道記事によれば、領事館員の遺書に基づく事実関係の概要は次の通りである。

・領事館員はある女性と不適切な交際を持っていた
・中国の情報当局が03年6月にその女性を売春容疑で拘束した後に、処罰せずに釈放し、館員への連絡役に仕立てた
・館員は同年12月以降、女性関係の負い目から当局者との接触を余儀なくされた
・接触してきたのは「公安の隊長」を名乗る男性と、通訳の女性の2人。
・04年2月20日、館員の自宅に「あなたか総領事、首席領事のいずれかと連絡を取りたい」などと要求する中国語の文書が届いた
・館員が「隊長」に相談したところ約2週間後、「(文書を作った)犯人を逮捕した」と返事がきた。館員はこの時初めて文書は「隊長」らが作った可能性が高く、自分を取り込むためのでっちあげと気付いた。
・その後「隊長」は態度を急変。「隊長」は、総領事館の館員全員が載っている中国語の名簿を出し、「全員の出身省庁を答えろ」と詰め寄った。
・「あなたは電信官だろう。報告が全部あなたの所を通るのを知っている。館員が会っている中国人の名前を言え」と追い打ちをかけた。
・最後に、「今度会うとき持ってこられるものはなんだ」と尋ね、「私たちが興味あるもの(すなわち暗号電文の情報をやり取りする通信システム)だ。分かるだろう」と迫った。
・恫喝された館員は協力に同意し、5月6日午後7時の再会を約束したが、館員は、「隊長」は次には必ず「通信システム」のことを聞いてくると考え、面会前日の5日に遺書をつづり、6日未明、総領事館内で自殺した。

 また、中国側が館員を取り込むために用いた中国語の文書も存在しており、これが、日本政府がこの事件を「領事関係に関するウィーン条約違反」と断定した重要な根拠である。「館員自殺と中国当局者はいかなる関係もない」という中国当局の主張とは真っ向から対立するものである。「遺族に配慮した」という根拠も分からないではないが、ことの重大性に鑑みれば、早急に遺書の内容を公表して中国側の非を国際社会に対して声を大にして訴えるべきであった。いささか遅きに失したとはいえ、それを実行すべきである。中国がいかに国際法を守らない遵法精神の欠如した行動をとる国であるか、これが国際社会においていかに許されざるべき行為であるか明確にするべきである。中国が、こういう国であってみれば、歴史認識問題で譲歩することは愚策以外の何物でもないということである。本件における、執拗な要求を見れば、一旦譲歩すれば際限なく譲歩を迫られることは明白だからである。
 なお、領事関係に関するウィーン条約の、当該事件に関わると考えられる部分を以下に抜き出しておく。

第三十五条(通信の自由)
1.接受国は、すべて公の目的のためにする領事機関の自由な通信を許し、かつ、保護する(後略)
2.領事機関の公用通信は、不可侵とする(後略)

第四十条(領事官の保護)
接受国は、相応の敬意をもって領事官を待遇するとともに、領事官の身体、自由又は尊厳に対するいかなる侵害も防止するためすべての適当な措置をとる。


 領事官を脅迫したとなれば、明白に第四十条にいうところの「領事官の身体、自由又は尊厳に対する侵害」に他ならない。接受国はそれを防止する義務を負っているというのに、接受国の当局自らそういう侵害行為を行うなど、何をかいわんやである。これが我が国政府が主張している「領事関係に関するウィーン条約違反」の具体的内容である。また、「あなたは電信官だろう。報告が全部あなたの所を通るのを知っている。館員が会っている中国人の名前を言え」などと言っていることを考えると、通信の自由を定めた第三十五条にも違反している可能性が高いと思う。また、こうやって歴然たる証拠が明らかになった以上は、中国による日本への国家賠償を要求せねばならないことは言うまでもないことである。
 我が国がなすべきもう一つのことは、中国への非難・抗議とは別に、自国の外交に関する情報の安全を早急に確立することである。長期的には外交官の教育、短期的には情報の取り扱いに関するマニュアル作りや、情報を扱う館員が単独になる機会をできるだけ減らし他の館員と相互にチェックし合えるようにするなどの対策が必要であろう。
 自殺した領事館員のそもそもの行動は決して褒められたものではないが、国を売るようなことはできないということで、自らの命をもってその失敗に対する償いをしたのである。したがって、政府が外交における情報の取り扱いに関してより適切な体制を構築することが、彼の遺志に報いることであり、こういうスキャンダルに見舞われた遺族へのせめてもの慰めになるのではないかと思う。



(参考記事)
[中国側、機密執拗に要求…自殺上海領事館員の遺書入手]
 2004年5月、在上海日本総領事館の館員(当時46歳)が自殺した問題で、館員が中国の情報当局から外交機密などの提供を強要され、自殺するまでの経緯をつづった総領事あての遺書の全容が30日判明した。
 本紙が入手した遺書には、情報当局者が全館員の出身省庁を聞き出したり、「館員が会っている中国人の名前を言え」と詰め寄るなど、巧妙かつ執拗(しつよう)に迫る手口が詳述されている。中国側が館員を取り込むために用いた中国語の文書も存在しており、これが、日本政府が「領事関係に関するウィーン条約違反」と断定した重要な根拠となったこともわかった。中国政府は「館員自殺と中国当局者はいかなる関係もない」と表明しているが、遺書と文書はそれを否定する内容だ。
 自殺した館員は、総領事館と外務省本省との間でやり取りされる機密性の高い文書の通信を担当する「電信官」。遺書は総領事と家族、同僚にあてた計5通があり、パソコンで作成されていた。総領事あての遺書は計5枚の長文で、中国側の接近から自殺を決意するまでの経緯が個条書きで記され、最後に「2004年5月5日」の日付と名前が自筆で書き込まれている。
 それによると、情報当局は、まず03年6月、館員と交際していたカラオケ店の女性を売春容疑で拘束。処罰をせずに釈放し、館員への連絡役に仕立てた。館員は同年12月以降、女性関係の負い目から当局者との接触を余儀なくされた。接触してきたのは「公安の隊長」を名乗る男性と、通訳の女性の2人だった。
 館員は差し障りのない話しかしなかったが、04年2月20日、自宅に届いた中国語の文書が関係を一変させた。文書は、スパイの監視に当たる「国家安全省の者」を名乗り、「あなたか総領事、首席領事のいずれかと連絡を取りたい」と要求。携帯電話番号を記し、「〈1〉必ず公衆電話を使う〈2〉金曜か日曜の19時―20時の間に連絡せよ」と指定してあった。
 館員は「隊長」に相談。すると約2週間後、「犯人を逮捕した」と返事がきた。文書を作った者を捕まえたので、問題は解決した、との意味だった。館員はこの時初めて文書は「隊長」らが作った可能性が高く、自分を取り込むためのでっちあげと気付いた。遺書には、「(文書は)彼らが仕組んだ」と悟った、と書いている。
 「犯人逮捕」を期に、「隊長」は態度を急変。サハリンへの異動が決まった直後の同年5月2日には「なぜ(異動を)黙っていたんだ」と恫喝(どうかつ)した。「隊長」は、総領事館の館員全員が載っている中国語の名簿を出し、「全員の出身省庁を答えろ」と詰め寄った。「あなたは電信官だろう。報告が全部あなたの所を通るのを知っている。館員が会っている中国人の名前を言え」と追い打ちをかけた。
 最後には、「今度会うとき持ってこられるものはなんだ」と尋ね、「私たちが興味あるものだ。分かるだろう」と迫った。
 約3時間、恫喝された館員は協力に同意し、同月6日午後7時の再会を約束した。館員は、「隊長」は次には必ず暗号電文の情報をやりとりする「通信システム」のことを聞いてくると考え、面会前日の5日に遺書をつづり、6日未明、総領事館内で自殺した。遺書には「日本を売らない限り私は出国できそうにありませんので、この道を選びました」などとも記している。
 「領事関係に関するウィーン条約」は第40条で、領事官の身体や自由、尊厳に対する侵害防止のため、受け入れ国が「すべての適当な措置」を取るとしている。遺書の内容は具体的で、それを裏付ける中国語文書も存在しているため、中国側の条約違反の疑いが濃厚だ。

          ◇

 外務省の鹿取克章外務報道官は30日夜、上海総領事館員の遺書の内容が判明したことについて「本件は、館員のプライバシーにかかわるので、コメントは差し控えたい」と述べた。
(2006年3月31日3時2分 読売新聞)

(参考記事2)
[外務省、上海総領事館員の遺書報道で調査委設置]
 2004年5月に自殺した上海総領事館員(当時46歳)の遺書の全容を読売新聞が報じたことについて、外務省は31日、省内に秘密保全調査委員会(委員長・谷内正太郎次官)を設置した。
 関係者の事情聴取など行い、遺書が外部に流出した経緯などについて調査するとしている。
 同委員会は、谷内次官や塩尻孝二郎官房長、尾崎道明監察査察官らで構成。省内で遺書が渡った可能性のある職員全員について調査する方針だ。
 現地の上海総領事館での調査も検討している。外務省が秘密保全に関して、調査委員会を設置するのは初めて。
 外務省首脳は「極秘扱いの文書が表に出るということは、ゆゆしきことだ」としている。
(2006年3月31日20時13分 読売新聞)



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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お返事が遅くなりました! (tsubamerailstar)
2006-04-05 14:10:45
何か下の方に埋もれてしまいましたのでこちらで失礼いたします。



>キリバス、ナウル、ツバル、ソロモン諸島なんかには、「我が国は純粋に貴国の発展に寄与したい。貴国がどこと国交を結ぶか指図するような傲慢な態度はとらない」と明言した上で、中国を上回る経済援助をしたらよい。財源はもちろん対中ODAの分です。そうすれば台湾への側面支援にもなるはずです。



仰るとおりですね。ODA+αという日本ならではのプレゼンスのあり方を考えるのも大事だなと思いました。



ps:管理人様のgoo宛に数日前に親展したのですが届いておりましたでしょうか?今日の今日ではアレか・・・・(謎)

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わざわざありがとうございます (猫研究員。=高峰康修)
2006-04-05 22:27:22
>tsubamerailstarさま

燕様もブログで書かれていた通り、単発でお金だけ渡しておしまいというODAでは有効な外交手段たりえないんですよね。

南太平洋に中国が触手を伸ばしているのは、苦々しくもあると同時に、逆に藁をもつかむ思いであるようにも見えます。といって、そのまんま手を拱いてみているわけにもいかないのですが。オーストラリアとウラン鉱石のことで合意してみたり、その積極姿勢は、日本も少しは見習ったらどうかと思いますね。ライバルながらあっぱれと申しますか…。



メールの件、どうもです!今日まで気づきませんでした(冷汗)遅ればせながら確認して返事しておきました。

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