猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

ブレア英首相の国際援助論―「債務免除が最良の支援」:読売新聞特別寄稿

2006-07-08 04:55:12 | 外交・国際問題全般
 世の中、北朝鮮によるミサイル発射実験一色の観があるが、外交問題は何も北朝鮮だけではないわけで、そっちは一旦おくとして、7月5日付けの読売新聞に掲載されたブレア英首相の国際援助に関する特別寄稿が興味深く思われたのでご紹介したい。政府系金融機関の統廃合問題に関連して少し前に話題になったODA改革問題で、英国の国際援助のあり方は、国際社会における我が国の国家イメージとして大いに参考になると書いたことがある。そういうわけで、英国の首相の特別寄稿を読んでいただこうというわけである。
 もちろん英国の施策をそのまま猿真似すればいいなどと主張するつもりは毛頭ない。財政再建や社会保障の財源として消費税率の増大が不可避な我が国の状況下では、対外援助の額を増加させることは国民的理解を得られるものではない。むやみに増やせばよいというものでもなくブレア氏が指摘しているように「重要なのは、受け入れる政府がきちんと活かし、発展により多くの資金をあてること」である。そのことを通じて、我が国が国際社会によい貢献をしてより多くの尊敬を受け、それによって我が国の発言に説得力が出れば結果として国益に適う。また、英国が重点を置いているアフリカは、最先端技術に不可欠な希少金属の産出国を多く含んでいる。これらの国々と良好で密接な関係を築くことには大いに実益がある。そういう明確なビジョンをもってしなければならない。内容は、英国は教育に関するに力を入れているが、日本は例えば灌漑などの水資源に関する技術援助などが適切ではないかと思う。英国と同じことをするのは芸がないし、何よりも、そんなことをする前に自国の教育を何とかしろというのが国民的要求であろう。
  蛇足ではあるが、一点だけ誤解のないように釘を刺しておきたい。国際援助を通じて我が国が国際社会に貢献すべきだといっても、間違っても「だから軍事は軽視してもよい」などということにはならない。そんな二者択一の話であるはずがない。そもそも、いちいちこんなことを断る必要が生じるような、戦後の風潮がおかしいのである。


【トニー・ブレア英首相特別寄稿(抄訳)】
1.債務免除が最良の支援
 主要8カ国(G8)はロシア・サンクトペテルブルクで今年も首脳会議を開く。(前回の英グレンイーグルズ・サミットから)この一年にどんな前進があったのか。
 まずはよい知らせ。2005年の国際援助総額は04年に比べて約25%増え、1000億ドルを超えた。10年までに年間総援助額を1300億ドルにする、という目標に近づいている。7月には最貧20カ国の債務を帳消しにする。
 債務免除は、貧困削減のために資金を回せるため、即効性のある最良の策の一つだ。債務免除の結果、タンザニアは初等教育の授業料を廃止できた。債務帳消しでザンビアは医療費を無料にしている。
 重要なのは、債務免除を受ける政府がこれをきちんといかし、発展により多くの資金を充てることだ。
 英国は、欧州連合(EU)の15年という目標年限より2年早く、13年までに国民所得の0.7%を援助に充てる。年間10億ポンド(1ポンド=約211円)をアフリカ援助に充てるという目標は既に達成した。07~08年予算までに12億5000万ポンドに到達すべく、着実に増額してゆく。

2.一日4円で学校に
 英国は今後10年で85億ポンドの教育援助支出を表明した。これは、1億人の非就学児童を教育し、15年までにすべての子供に教育を受けさせるために世界が必要とする追加資金をめぐる英国の分担額だ。アフリカの22カ国は教育10ヵ年計画の策定に着手している。英国は計画実現に必要な資金分担額を支払うよう、引き続き他の支援国に働きかける。年間100億ドルあれば、全大陸のすべての子供たちに、教師、教科書、教室を与えられる。最も豊かな国々の国民ひとりにとって年わずか7.5ポンド(約1580円)、週15ペンス(約32円)の負担でしかない。1日たった2ペンス(約4円)で、最貧国の非就学児童すべてに学校教育を受けさせられる。

3.教育でエイズ防止
 教育はHIVとエイズの波を押し返すことのできる、いかなる戦略にあっても中心にある。少女を学校に通わせることだけで、エイズ防止に最も有効な方法の一つとなる。ザンビアでは教育を受けた女性の間で感染率は減少した。
 世界エイズ・結核・マラリア対策基金に対し、05年に40億ドル近くの拠出が表明された。国連エイズ特別総会高級再検討委員会は6月、10月までに世界の誰もがエイズ治療を受けられるようにするという、グレンイーグルズ・サミットの公約履行の一環として、確実で持続可能なエイズ対策計画を作成するすべての国に資金を十分に提供することで合意した。これには大変な努力が必要だ。国連の試算では、薬を調達し、予防計画を効果的に機能させ、身寄りのない子供を含む患者、感染者の治療と支援のために、10年までに少なくとも年間200億ドルが必要だ。

 英国と欧州は手本を示している。英国はエイズ対策で世界第二の資金提供国であり、05~08年に15億ポンドの拠出を約束した。ほかの欧州諸国と協力し、予防接種のため国際金融市場で資金調達する方策(IFF)をとり始めた。15年までに500万人の子供が救済できよう。

4.貿易と紛争解決で「行動」必要
 貿易は05年の行動計画の中で、期待したようには前進できなかった、唯一の要素だ。グローバルな合意に向けてゆっくりと進んだ分野もあるが、最も困難な問題は取り扱っておらず、今年末というドーハ・ラウンド(新多角的貿易交渉)の合意期限が近づいている。「開発ラウンド」という約束に恥じない行動をとること。それが数百万人を貧困から救い、我々が示しうる唯一、最大の決意である。
 そしてスーダン・ダルフール紛争のような課題がある。ナイジェリア・アブジャで5月に和平協定が合意された。全当事者に戦闘停止を働きかけ、国連が今年後半にアフリカ連合(AU)から任務を引き継ぐ際に円滑な件下二条がなされるために、同協定と国連新決議を行使する必要がある。

5.気候変動対策急げ
 気候変動への取り組みで進捗速度に不満が出ていることは承知している。残された時間は多くはない。英国は京都議定書の(温暖化ガス削減)目標を7年早く達成する見込みだが、12年に京都議定書の第1段階が終了した後の取り組みについて早急に合意しなければならない。
 我々は、開発途上国がクリーンな技術を入手できる機会を増やし、気候変動に適応できるよう支援する、グレンイーグルズ行動計画に合意している。危険な気候変動を防ぎ、二酸化炭素の世界排出量の上限で合意するため、今年と来年は議論を急ぐ必要がある。



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9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
アフリカ (PJ)
2006-07-08 14:29:22
アフリカから連想することがあります。

中国がアフリカに資金や人を注ぎ込んでいるということ。

あと、アフリカで役人の不正が横行しているということ。

このままでは、アフリカに物乞い国家や、独裁国家が出現するのではないかと心配です。

アフリカのどの国でどんな状態なのか、それぞれの国の特色ももっと知りたいです。
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PJさんへ (猫研究員。=高峰康修)
2006-07-08 22:00:16
>中国がアフリカに資金や人を注ぎ込んでいるということ。

あと、アフリカで役人の不正が横行しているということ。

このままでは、アフリカに物乞い国家や、独裁国家が出現するのではないかと心配です。



これは、まったくその通りですね。こういうのを防ぐことは色々な観点から日本の国益ですよね。



ある資料によれば、世界中で破綻国家になりそうな国トップ10で、1位コートジボワール、2位コンゴ民主共和国、3位スーダンなんてのがあります。スーダンはダルフール紛争で最近クローズアップされてますよね。まあ、破綻国家という観点からだけ見ても一面を見ているだけなのでしょうが…。大雑把に見るとサハラ砂漠以南(サブサハラ)に破綻国家が集中している傾向にあるようです。

アフリカに関して興味深いのは、アフリカの他国の平和構築のためにアフリカの国々が積極的に関与するという傾向です。たとえばナイジェリアがアフリカ各国に対するPKO派遣に年間10億ドルも拠出していたり。
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>アフリカの他国の平和構築のためにアフリカの国々が積極的に関与するという傾向 (PJ)
2006-07-10 09:55:53
それはいいですね。

アフリカの人たちは長い間苦労をしましたけど、

お互いに助け合って、発展や教育に力を入れて欲しいです。
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PJさんへ (猫研究員。=高峰康修)
2006-07-10 23:16:32
本文でも少し触れてますが、スーダン・ダルフールの内戦でも、アフリカ連合(AU)がまずイニシアチブをとっていて、この後国連に任務引継ぎということなんですよ。

アフリカは依存体質が染み付いているというイメージを持っている人も多いでしょうが、そうではない側面もあるということも知っておくとよいに違いありません。
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アジアもそれぞれ、アフリカもそれぞれ (むじな)
2006-07-11 03:00:44
大陸の広さを考えれば当たり前なんだけどアフリカも国によって大きく違うよ。



たとえばこれはセネガルが民主化をどうやって成功させたかをコートディボワールと比較した論考だけど、

http://www.jiia.or.jp/pdf/global_issues/h14_africa/04_katsumata.pdf

まあ、昨年セネガルが金に目がくらんで台湾と断交して中国に乗り換えたのはアレだけど、こうやってちゃんと積み上げているところがあるってこと。しかもセネガルの成功は日本のODAも寄与していることも忘れてはならない。



>このままでは、アフリカに物乞い国家や、独裁国家が出現するのではないかと心配です。



アフリカといっても国によってさまざまだから、一概に言えない。あなたアフリカを十把一絡げにして馬鹿にしているんでしょう?

それこそ中国と同じ黒人蔑視思想じゃないの?



>大雑把に見るとサハラ砂漠以南(サブサハラ)に破綻国家が集中している傾向にあるようです。



スーダンはサブサハラとはいえない。

逆にサブサハラでも、セネガル、ガンビア、ガーナ、ケニアなんかは割りとうまくやっている。



>たとえばナイジェリアがアフリカ各国に対するPKO派遣に年間10億ドルも拠出していたり。



ナイジェリアは産油国だし(ガスも採れる)、人口も多いし、商売マインドが高いイボ族もいるし、英国植民地で法体系も整っているし、今はまだだけど、20年後の有望株でしょう。

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Unknown (猫研究員。=高峰康修)
2006-07-11 06:03:18
>スーダンはサブサハラとはいえない。

逆にサブサハラでも、セネガル、ガンビア、ガーナ、ケニアなんかは割りとうまくやっている。



あっ、確かにそうですね。補足説明感謝です。



>ナイジェリアは…法体系も整っているし、今はまだだけど、20年後の有望株でしょう。



こういう国とは是非、今のうちに密接な関係を持っておくべきです。ナイジェリアに限らず、日本はアフリカの国々と帝国主義的横暴さを持たずに良好な関係を築けるはずだと思うのですが如何?いかんせん、関心が薄すぎるのが問題でしょうが…。
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>あなたアフリカを十把一絡げにして馬鹿にしているんでしょう? (PJ)
2006-07-11 13:18:25
そんなコト言ってないですよぉ。

アフリカ大陸に特定アジアやロシアのような国が出来るのが心配だって言ったんですぅ。

むじなさんが私を馬鹿だと決め付けてるから思い違いをするんですぅぅぅぅぅぅ。ヾ(。`Д´。)ノ彡

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戦略的ODA (asean)
2006-07-12 16:45:14
はじめまして、aseanっと申します。



仰る通りに英国の二番煎じでは何ですが、無償ODA等をどのように戦略的に使用するか?ですね。



ただ日本の国益とは一体どういったモノなのか?等がしっかり議論されている必要がありますね。



僭越ながら小生のブログにリンクを張らせて頂きました。



ちょっと残念なのはASEANや南アジアのカテゴリーが見当たらないことでしょうか?



勉強させて頂きます、よろしくお願いします。
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aseanさまへ (猫研究員。=高峰康修)
2006-07-13 00:09:37
はじめまして。ご訪問及びコメント有り難うございます。



日本の国益は何か?という観点は常に持つ必要があるし、これが「言うは易く行なうは難し」という言葉がピッタリなんですよね…。様々な角度からの議論を絶やしてはいけないということでしょう。



>ちょっと残念なのはASEANや南アジアのカテゴリーが見当たらないことでしょうか?



本当はそういったカテゴリーも作りたいのですが、設定できる項目数が限定されてまして…。重複してそうなカテゴリーを整理する機会があったら、是非そうしたいと思います。



これからもどうぞ宜しくお願いいたします。
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