猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

教育基本法改正案に自公合意―”愛国心”がお題目に終わらないように

2006-04-15 01:48:45 | 教育・教科書・学力
 愛国心の表現を巡って紛糾していた教育基本法改正問題で、13日に改正案に自公両党が合意した。愛国心に関する表現は「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」となった。「我が国と郷土」と敢えて分けたのは不自然で、「祖国」にまとめたほうがよかったのではないか。逆に、あまり注目されてこなかった点で高く評価したいのは「父母その他の保護者は、子の教育に第一義的責任を有する 」と規定した第10条である。「社会が教育する」というのは社会主義の発想で、自由主義社会にふさわしい教育は家族が主体的役割を果たすべきだからである。
 私は、愛国心の表現もさることながら、社会に対する責任感を涵養することこそが物事の本質を捉えているのではないかという考えである。国民一人一人が社会の構成員としての自覚と責任感をもつことが民主主義国家を運営していく上での必要不可欠な基盤だからである。これに関しては、『教育基本法改正と愛国心―愛国心にも増して「国家社会への責任感」の涵養が重要だ』の中で詳述した通りである。この点、今回の改正案は、悪いとは言わないが、もう少し「国家社会への責任感」を前面に打ち出してほしかったと思う。前文で「公共の精神を尊ぶ」と謳ったり、第2条に「公共の精神に基づき、主体的に社会形成に参画し」などという表現はあるにはあるが、今一歩踏み込みが足りないきらいはある。
 さて、教育基本法はいうまでもなく教育の最も基礎となる方向性を示したものであり、言ってみれば「お題目」である。本来ならば、現行の教育基本法でも十分にまともな教育ができる。「愛国心が明記されていないのは当たり前すぎるから書いていないだけだ(実は法律はそういう傾向は大きい)」という基本的な共通認識があれば問題はなかったのである。それができなかったのはどういう点に問題があったのか詳細に”情勢分析”しなければ、いくら新しい教育基本法を作ってみても必ず失敗に終わる。ためにする議論をしようとすれば、今回の改正案だって、いくらでも危ない項目は含んでいる。例えば、「他国を尊重し」のくだりは偏狭なナショナリズムを排する当たり前の内容である反面、近隣諸国に迎合し媚びへつらうような教育をする口実を与えることに使おうと思えば十分できる。また、「国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う」という部分は、「よき国民」ではなくて「よき地球市民」を目指す勢力に勇気を与えることだろう。「愛国心をちゃんんと盛り込んでいるではないか」と反論されるかもしれないが、ためにする議論をする者は都合のよいところだけつまみ食いするに決まっているのだ。したがって、今までのような偏向した不当な教育を排除できる仕組み自体を設計しなければ、教育基本法は単なるお題目で終わりになってしまう。そのためには、ごくごく一例だけあげてみると、教育にもっと競争原理を取り入れて風通しをよくしたり、全国統一テストを本格的に実施して偏向した内容をいくら覚えても無駄であることを知らしめるなど様々な策が必要となってくる。
 日本人は、得てして「方針」や「要綱」や「大綱」を立てて満足してしまい、その先の思考が停止する傾向にある。大東亜戦争に負けたのも「方針」だの「大綱」だのにとらわれて硬直化し、正しい情勢分析ができなかったことが一因である。今後の教育改革でもそういう弊害は容易に予測されるところであり、是非とも排していかねばならない。


<教育基本法改正案>
(前文)
 我々日本国民は、たゆまぬ努力によって築いてきた民主的で文化的な国家をさらに発展させるとともに、世界の平和と人類福祉の向上に貢献することを願うものである。我々はこの理想を実現するため、個人の尊厳を重んじ、真理と正義を希求し、公共の精神を尊ぶ豊かな人間性と創造性を備えた国民の育成を期するとともに、伝統を継承し、新しい文化の創造を目指す教育を推進する。ここに我々は日本国憲法の精神にのっとり、我が国の未来を切り拓く教育の基本を確立し、その振興を図るため、この法律を制定する。

(以下要旨)
【教育の目標(第2条関連)】伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできたわが国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う
【義務教育(第5条関連)】国民は、保護する子に、普通教育を受けさせる義務を負う
【家庭教育(第10条関連)】父母その他の保護者は、子の教育に第一義的責任を有する
【宗教教育(第15条関連)】宗教に関する寛容の態度及び宗教に関する一般的な教養並びに宗教の社会生活における地位は尊重
【教育行政(第16条関連)】教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきもの



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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
態度を養う (PJ)
2006-04-15 11:22:56
なんだか内心はどうでもいいからフリだけするのよって読んじゃうんですけど。

公明党ってろくなことしないですね。
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なるほど (猫研究員。=高峰康修)
2006-04-16 03:05:58
「態度を養う」はそういう風に他人事のようにも読めますね(^^;

その妥協案でも今国会での成立は難しいというのだから、呆れます。ちなみに、一番党内の意見が割れそうなのは、もちろん毎度のことながら民主党です。
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他国を尊重云々・・・ (tsubamerailstar)
2006-04-16 17:56:07
いい感じでまとまったかとは思うのですが、他国を尊重云々の件が統治機構も含むのに対し、我が国はそうでないといったところあたりが突き詰めると?な部分はありますよね。

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Unknown (猫研究員。=高峰康修)
2006-04-16 18:31:22
>tsubamerailstarさま

統治機構を含むとか含まないとか、なんであんな話になるのか理解に苦しむところです。

そういう風に区別するならば、「天皇は君臨すれども統治せず」なんだから、是非とも「皇室を敬う心をはぐくむ」と入れてほしいですなあ。
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よろしければ各国の教育関係法を比較なさっては (蓬莱の島通信ブログ)
2006-04-22 08:37:33
こんにちは。今回の改正案ですが、「宗教」条項をいじらなかったのは公明党の圧力というブログを見ました。中国では、「軍国主義」復活と報道しています。

TBがうまくいきませんが、よろしければ以下を。

http://blog.goo.ne.jp/tike_hiko2000/e/8ba980ddb0c142a71ba78fd14176ae4d

TBした記事にありますように、台湾では、儒教を人間教育の柱の一つにしています。日本の伝統を受け継ぐために、仏教、儒教、神道のような宗教教育は開放する必要があるのではと思っています。
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蓬莱の島通信ブログ様へ (猫研究員。=高峰康修)
2006-04-24 03:04:33
コメント&TBありがとうございます。

記事、大変興味深く拝見しました。儒教は宗教というよりは倫理学だと私は思います。その意味で儒教というよりも儒学という言葉が実態により近いのではないかと感じています。それはさておき、儒学の精神を現代向けに咀嚼した形で道徳教育に取り入れるという意見は全くもって傾聴すべきです。

宗教条項は、憲法20条とも絡んで、今後の課題として残ったということになると思います。
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