石橋みちひろのブログ

「つながって、ささえあう社会」の実現をめざす、民主党参議院議員「石橋みちひろ」の公式ブログです。

ODA視察派遣団報告記8~バンコク二日目(視察最終日)

2012-01-14 23:55:12 | 活動レポート

さあいよいよ参議院ODA視察派遣団も、今日(1月14日)が全行程の最終日となりました。昨日に続いてバンコクでの行動ですが、今日はバンコクから北へ約80キロ行った古都アユタヤまで足を伸ばして、洪水被害が最も激しかったロジャナ工業団地の日系企業にも訪問してきました。

朝は、8時にホテルを出発。まずは、バンコク全域の約800万市民に水道水を提供しているタイ首都圏水道公社のバンケン浄水場へ。日本は1979年以降、浄水場の拡張などの事業に対して円借款を供与したり、水道技術訓練センターを無償資金協力で建設したりするなど、首都圏水道公社に対して数々の支援を行ってきています。その甲斐あって、上水道の普及率は98%。しかも「水道の水をそのまま飲んでも大丈夫!」な品質が確保されていて、公社の専門家のスキルも非常に高いレベルを確保出来ているとのこと。長年の日本の支援が、首都圏に住む多くの市民(これには多数の日本人も含まれる!)に命を守る水を安定的に提供することに貢献しているのですね。

 

この浄水場にも、昨年10月~11月の大洪水の際には水が間際まで迫って、公社では浄水場の回りや取水口付近、電気設備の周囲などに仮設の堤防を設置したり土嚢を積み上げたりして、水の浸入を何とか食い止めました。そして、日本から排水ポンプやエアレーターが緊急的に供与されて、公社は洪水被害の最中にも安全な水を供給し続けることが出来たのです。ここでも、日本のODAが大きく貢献していたのですね。

 

そして、アユタヤのロジャナ工業団地へ。今回の大洪水では、バンコク北部にある7つの工業団地が洪水の被害に遭いました。そのうち最大の工業団地がこのロジャナ工業団地で、操業する約250社の企業のうち、7割が日系企業です。ここは、10月8日に冠水しました。

工業団地に入っていくと、大洪水の爪痕がそこらじゅうに残されていました。多くの企業の敷地には、水に浸かって使えなくなった機械設備やオフィスの調度品などが所狭しと並べられていて、被害の大きさを私たちに教えてくれます。今まだ残っているものは、保険会社の査定を待っているものだそうで、査定が済んだものは既に撤去されていることを考えると、実に莫大な被害があったことが分かります。

 

私たちは、まずホンダの工場にお邪魔させていただきました。

冒頭、洪水被害の状況やその後の復旧作業についての説明を伺ったのち、被災した工場内を見させていただきました。この写真の汚れている所までが完全に水に浸かってしまい、1階にあった生産設備の大半や、退避させることが出来なかった完成車などが冠水してしまったわけです。

 

完成車の多くは、ディーラーに引き受けて貰ったり、バンコクのドンムアン空港近くの留め置き場に退避させたりして無事だったのですが、退避が間に合わなかった約1,000台が水に浸かってしまったそうです。そして「ホンダはこの水に浸かった車もどこかで売るのではないか」といういわれのない風評が流されたため、全てを敷地内で、かつ公開でスクラップ処分にすることを決めて、12月末からそれを実行されています。

 

私たちもその作業の様子を見させていただきましたが、全ての工程内容をパネルで見学者に分かりやすく説明したり、分別を徹底して環境にも最大限配慮するなど、大変真摯な手法をとられていると感じました。車体に番号が振られていますが、私たちが見学した時には302番~305番が作業中で、まだ700台余り処分を待っていることになります。

見学した私たちも、その場で車が解体され、スクラップにされているのを間近に見て胸が痛くなりました。私たちでさえこれだけ悲しくなるのですから、お客さんにいい車を届けるために手塩にかけて完成させたホンダの皆さんにとってこの作業は、本当に悲しく、辛いものだと思います。工場設備にしても、10月上旬にようやくフル生産(年24万台)の態勢に入った矢先のことで、それがほぼ一から工場を作り直すぐらいの被害を受けてしまったのですから、その無念さは私たちには計り知れないぐらい大きいと思います。

しかし、ホンダの皆さんの真摯な対応はそれだけではありませんでした。約2ヶ月近くにわたって操業が止まり、フル操業を再開するまでには4月までかかるという状況の中でも、一人の解雇者も出していないどころか、休業中の給与も100%支払い続けているのだそうです。タイの法律では、休業中の給与補償は75%で良いそうですから、法定以上の基準で対応されているということですね。本当に頭の下がる思いです。

 

お昼を挟んで、同じロジャナ工業団地に工場を構えるニコンにも訪問させていただきました。こちらも被害は同じ。この写真の左手前にいつも社員の皆さんが朝食を食べるテントが並んでいますが、冠水時にはてっぺんの白いところだけが水面の上に出ていたそうです。

ニコンでも、工場の周りを囲む塀に板を張ったり、土嚢を積んだりして水の流入を防ぐ努力をされていたそうですが、予想以上の水位になすすべなく、結局1階部分がほとんど冠水してしまったとのこと。水はゆっくりやってきて徐々に水位が上がっていったそうですが、それでも2メートル以上の水位に達するまでには一晩しかかからなかったそうです。多くのものを二階に退避させたのですが、退避が間に合わなかった機材は全部、水に浸かってしまったということです。

しかし、冠水してからも、社員の協力を受けてボートで工場内に入り、水に潜って金型を助け出したり、その後ははしけを作って運び出せるものを運び出し続けるなど、水が引くまでの間も懸命の努力をされたということです。その取り組みの様子を写真で見せていただきましたが、大変な努力をされた様子を垣間見ることが出来ました。

その取り組みに対して、日本だけでなく、世界中のニコンの社員たちから応援のメッセージが寄せられたそうで、それが本当に大きな力になったとか。会議室にはそれらのメッセージが並べられていて、今も、みんなそれを見ながら完全復旧とフル操業の再開に向けてがんばっているそうです。

 

ちなみに、水が引いて工場の再開に向けた作業を始められたとき、まず真っ先に取り組んだのがこの社員食堂の復旧だったとか。「まずは、社員のみんなにちゃんとご飯を食べて貰えるようにしたかったので」との説明に、一同、大きく頷きました。ここでも、社員のことを大切にする日本企業の精神が息づいていますね。

 

今回、ロジャナ工業団地の管理会社(民間)の方からお話を伺う機会もいただきました。

私たちには、「なぜもっと早く対策を取ることが出来なかったのか?」という疑問があって、それをぶつけてみたのですが、管理会社の方によると「1ヶ月前に担当の役所に大丈夫ですか?と聞くと、全く心配ないと言われた。3週間前に大丈夫ですか?と聞くと、心配ないと言われた。そして2週間前に本当に大丈夫ですか?と聞いたら、危ないから対応策を講じてくれと言われた」のだそうです。役所側も相当に混乱していたのでしょうが、このような状況では工業団地側に出来る対策も限られていたことでしょう。

工業団地としても、今回の教訓を踏まえて今後の対策を講じるべく、取り組みを始めているそうです。ただ、具体的には、周囲の堤防をより高く、より強固なものにしなければならないわけですが、このロジャナ工業団地は外周が約80キロにも及ぶ広大な工業団地で、その費用だけでも相当な額になってしまいます。結局は、その費用は工業団地の利用企業に降りかかってくるわけですが、上述のように、企業の方でも莫大な被害を受けていて、その復旧に多額の費用がかかるわけで、これでは二重の負担になってしまいます。

ロジャナだけではなく、その他の工業団地でも同様の事態になっているわけで、この辺の対応は国の方でしっかり対策を講じていく必要がある、というのが工業団地や企業の皆さんの共通の要望です。私たちも今回、タイ政府の皆さんとの会談でそのことをお伝えし、企業が今後も安心して事業を続けていける環境を整備していただくことを強くお願いしてきました。

 

さて、私たちはこの二日間の視察を通じて、あらためて(1)日本とタイの経済的な結びつき、相互依存関係が非常に強いものであること、(2)長年にわたる日本の多角的・多面的なODAが、タイの経済・社会的発展の大きな支えとなっており、人材の育成にも貢献していること、そして(3)タイ国民や政府もそのことを強く認識して日本国民に感謝していて、親日的なムードにつながっていること、などを確認しました。

何と言っても課題は、今後も起こりうる大洪水に対し、被害を最小限に食い止めるための対策をしっかり講じることであり、日本としてもそのための貢献を検討していくことです。それが、タイ国民の命を守ることだけでなく、タイ各地でがんばっている日系企業の皆さんに今後も安心して操業を続けていただくことにもつながります。現在、JICAの支援で、気象予測システムや統合水管理システムなどを含むチャオプラヤ川流域洪水対策のマスタープラン作成と予備調査の実施が決定されていますが、「日本が、JICAが支援してくれるなら安心だ」との企業や市民からの声を大切にしていかなければなりませんね。

 

以上、タイ二日目の活動報告でした。

これで今回の視察団の全行程を終了して、夜行便で日本に帰ってきましたが、9日振りの日本はやっぱり寒かったです。それにしても、この9日間のODA視察は、私自身にとっても大変、勉強になる調査でしたし、今後の私たちの国会での議論にも大きく役立つものを得ることが出来たと確信しています。何より、自民党(中村議員、二之湯議員)、みんなの党(松田議員)、そして共産党(山下議員)の皆さんと一緒に視察して、ODAのあり方や、各国の情勢などについて意見を交わすことが出来たこと、本当に貴重な経験でした。

今回お世話になった在外公館の皆さん、JICAの皆さん、アテンドしてくれた事務方の皆さんに心からのお礼を述べつつ、報告を閉じたいと思います。ありがとうございました!