石橋みちひろのブログ

「つながって、ささえあう社会」の実現をめざす、民主党参議院議員「石橋みちひろ」の公式ブログです。

在日・在沖米軍基地問題について

2010-05-04 23:46:36 | 政策
今日は朝からとってもいい天気で、ゴールデンウィークとしては最高の行楽日和だったと思います。私は一日中、本や資料と「にらめっこ」でしたが、みなさんはどこかに出掛けてきましたか? 

さて、そんな絶好の休日に、とても心配なニュースが飛び込んできました・・・。書かずにいられないので、今日はこのニュースに対する私の考えを明らかにしておこうと思います。

今日、沖縄を訪問した鳩山総理が「普天間基地の全面的な県外移設は難しい。沖縄と徳之島の皆さんにご協力(負担)をお願いしたい」と発言し、普天間基地返還(移設)問題に関する首相の(政府の?)現時点での考え(これが腹案?)が、普天間の沖縄県内と徳之島への分散移設をめざすことだということが明らかにされました。

 「普天間、県内移設を要請 首相、沖縄知事に

私はかねてから様々な場で、この普天間基地返還問題を「単に普天間基地をどうするかということだけの問題に矮小化してはいけない」と発言してきました。普天間基地問題とは、在日米軍基地の今後のあり方を巡る問題であって、引いては今後の日本の安全保障のあり方にかかわる問題なのです。言い換えれば、ここで普天間基地移設に関して鳩山政権が下す判断は、日本の安全保障政策や、その中に位置づけられる日米安保条約、地位協定、在日米軍基地などに関する鳩山政権(民主党)の政策に重大な影響(=しばり)を及ぼすことになり、それだけの覚悟を持って判断しなければならない課題だと思うのです。

ここで重要なポイントが二つあります。まず一つ目は、安全保障政策や日米安保・基地問題に関して、民主党政権がこれまでの自民党政権とは違う立場・方向性を採る(採れる)のかどうかということ。そして二つ目は、もしそうだとすれば、政権交代が実現した今がまさにその絶好の機会だ(逆に、今しか出来ない!)ということです。

周知の通り、鳩山首相は昨年の総選挙の時から「最低でも県外、できるだけ国外」と発言してきました。それは、世界で最も危険な普天間基地を一刻も早く閉鎖することはもとより、沖縄の基地負担を軽減しつつ、在日米軍(基地)の整理縮小を図っていく方向をめざすという民主党の政策に基づくものでした。これはつまり、昨今の世界情勢や国際関係の変化、さらには核の廃絶や軍縮という流れの中で、アメリカの核の傘や在日米軍基地に依存した日本の安全保障のあり方を見直すべきだ、という方向性に他ならないはずです。

だからこそ、私個人の気持ちとして、今日明らかになった鳩山首相の判断は、あくまで現時点での首相としての考え方だと理解して、政府としても民主党としてもこれからまだ議論と努力を続けて欲しいと考えています。その理由を、三つだけ挙げておきます。

第一に、この案では沖縄の負担を軽減することにならないことです。

たとえどういう形(埋め立てによるV字型であろうが、くい打ち桟橋方式のI字型であろうが、陸上案であろうが)であれ、どこの場所であれ(辺野古であろうがその他の場所であろうが)、沖縄に新たな基地・滑走路を造ってはいけません。それは規模の問題ではなく、沖縄県民の民意をいかに尊重するかという問題であり、在沖米軍基地の縮小(=見直し)という公約に対する鳩山政権(民主党)の姿勢の問題であり、引いては沖縄の未来に対する民主党の方針の問題なのです。新たな基地をつくれば、それは長期の固定化を意味します。これ以上、沖縄に基地を固定化してはならないのです。

第二に、この判断が「在日米軍(特に海兵隊)の整理縮小は出来ないし、すべきでもない」という考えを固定化してしまう恐れがあることです。

鳩山首相はぶら下がり会見で「海兵隊の(一体的な運用による)抑止力の維持と、その存在が重要だと理解した」という趣旨の発言をされたようです。この発言は、すでに公になっている海兵隊のグアムへの再編計画と整合性がないように思える(例えば、海兵隊8,000人がグアムへ移転することはどう説明できるのでしょう?一体的な運用が必要ならば、むしろ全てを一緒にグアムへ移転した方が望ましいという意見もあります)だけでなく、今後も日本の安全保障のためには「米軍の抑止力が必要」で、抑止力を考えたら「在日米軍基地の整理縮小はできない」という政府としての判断を示したかのようにも受け取れます。もしこの考えが正当化されてしまったら、在沖米軍基地のさらなる整理縮小が遠のいてしまうのではないかと惧するのです。

第三に、すでに述べてきたように、今回の判断が民主党政権の安全保障政策に「しばり」をかけてしまう恐れがあることです。

沖縄で示された鳩山首相の立場は「日米安保条約に基づく米軍の抑止力に今後も依存するのが日本にとって最善の安全保障政策であって、そのために在日米軍(海兵隊)の現有兵力は必要だ」という考えにも受け取れてします。それはまた、民主党の安全保障政策は「自民党時代の方針を基本的に踏襲するもの」だということを暗示してしまう恐れがあります。本当はそうではないし、そうであってはいけないはずなのですが・・・。米軍基地問題にここまで国民全体の関心が高まった今こそ、今後の日本の安全保障をあり方について国民的議論を提起するのに絶好の機会のはずです。その機会を失ってしまうことこそ、私たちが最も心配すべきことかも知れません。

とにかく、情報不足ですね。私自身、知りたいこと、知らなくてはならないことがたくさんあります。

例えば、この問題に関して、鳩山政権誕生以降、現在に至るまで、政権内(および民主党内)でどういう議論があったのか、今回の判断は政府・民主党としての総意なのか? これまで米国政府とどういう議論があって、政府はその中で何をどう主張し(沖縄県民&日本国民の民意をどう訴えたか)、それに対して米国側がどう答えたのか? 鳩山首相が海兵隊の抑止力の必要性を「理解した」のはいつの時点で、それはどういう経緯(政府内の議論に基づいて?それとも米国との交渉の結果?)での話なのか? 今回の結論(沖縄県内と徳之島への分割移設案)に達したのはいつの時点なのか、なぜ地元との対話がここまで遅れたのか、なぜ検討段階でまず地元と話を出来なかったのか、などなど。

これらの点について、メディア情報ではない、生の情報が必要です。そして、鳩山首相(政府)がいかにして今回の判断に達したのかということを自分なりにきちんと理解し、その上で引き続き、私の考えを訴えていきたいと思うのです。

まだ最終決着ではありません。今日のニュースを観る限り、沖縄の皆さんもまだあきらめていないと思います。「まだ時間はある。ギリギリまで頑張って欲しい」というメッセージ、私たちはきちんと受け止めなければなりません。大切なのは、5月末という期限やメンツにこだわることではなくて、沖縄県民の皆さん、徳之島の皆さん、そして日本国民全体の民意に拘ることだと思います。私自身も、沖縄の仲間たち、そして全国の仲間たちの声を代弁すべく、これからも頑張っていきます。




映画ハートロッカーと無人機爆撃の拡大

2010-05-02 23:11:04 | 政策
昨日の夜は、深夜2時頃まで、ICTタスクフォースの「過去の競争政策のレビュー部会」第9回会合のオンデマンド配信を観ていました。これ、見どころ(突っ込みどころ?)満載で面白いです。3時間以上あるのですが、ついつい止められなくなってしまいました。皆さんも、暇を見つけてぜひ観てみて下さい!

ところで、今日の午後、息子を連れて映画「ハートロッカー」を見てきました。

ご存じの通り、「ハートロッカー」は、今年の米アカデミー賞で6部門を獲得した映画です。舞台は2004年、イラクのバグダード。主人公は、米陸軍の爆弾処理部隊です。観る前は、単純な「イラク戦争の様子を描いた映画」なんだろうと考えていたのですが、違いましたね。相手は、最前線のいたるところに仕掛けられた「爆弾」で、それを死に直面したギリギリの状況の中で処理しようとする兵士=人間の姿をリアルに描いた作品でした。

最後まで、時間を感じさせない、圧倒的な緊張感でしたね。まるで、自分がその場にいて、自分も爆弾処理にかかわっているかのような気持ちにさせられました。そして、そういう極限の環境下で生き延びた主人公が、虚無感から再び戦場に戻っていく姿は、どの戦争映画よりも戦争の怖さを物語ってくれているように感じられました。

ところで、今日急に「ハートロッカー」を観に行こうと思い立ったのには、わけがあります。毎日新聞が連載している「テロとの戦いと米国」というシリーズの第4部「オバマの無人機戦争」を読んで衝撃を受けたからです。

そこには、ハートロッカーと全く逆の米軍兵士の姿が描かれていました。ここでの主人公は「無人爆撃機」。それを操作するのは、米国本土ネバダ州にいる米軍兵士。朝、自宅から車で基地へ行って、無人機を操作してイラクやアフガニスタンで爆撃を行い、終わればまた車で自宅へ帰っていきます。無人爆撃機から送られてくる映像をモニターを確認し、ターゲットを確認したら発射ボタンを押す---それはまるで、テレビゲーム機のような世界です。

でもそれは決して、仮想世界の話ではありません。ボタンが押された後、実際に爆弾がイラクで炸裂し、標的とされた人々が命を失っています。現実なのです。そしてこの毎日新聞の記事は、米軍の情報やモニターでの視認が確実ではないために、多くの一般市民が標的となってこの無人機爆撃の犠牲になっていると指摘しています。

また、オバマ政権になってからこの無人機による爆撃が拡大していて、それは戦争に対する「抑止力」が働かなくなることを意味していると主張しています。

なぜなら、ハートロッカーの世界で観たように、戦場で米軍兵士が命の危険に晒され、そして実際に大勢の兵士が命を落としたり、健常者でいられなくなったりしている限り、米国の中でも「これ以上、尊い命を犠牲にするのは止めよう、戦争はもう止めよう!」という世論が巻き起こるのです。それが、無人爆撃の拡大で、命の危険がなくなったらどうなるでしょう? 攻撃する側の痛みがなくなり、世論が無関心になった時、戦争を止めようとする力が働くなくなってしまう---それが、この記事の警告なのですね。

もしこの無人機爆撃の拡大が、イラクからの米軍の完全撤退を見越してのものだとすれば、この危惧が現実になる可能性があります。米軍が撤退してしまえば、米国内でのイラクへの関心は急速に冷え込むでしょう。その一方で、米軍撤退後のイラクの治安を守る(?)のがこの無人爆撃機だとしたら? 無人爆撃機が飛び回っている中で市民が生活し、子どもたちが遊び回っているなんて、とても想像したくない世界です。

無人機の使用が戦争の抑止力を弱める方向に作用するとすれば、その拡大が今後の世界をますます不安定にする要因になるかも知れません。他の国もこぞって無人機を導入することだって考えられるのです。とすれば、私たちも国際的な場で、この問題を真剣に議論する必要があるのではないでしょうか。




あらためてワーキングプア問題について考えてみる

2010-05-01 23:40:17 | 政策
イタリアのトリノで、国際労働機関(ILO)の国際研修センターに勤務していた頃、私が担当していた教育テーマの1つに「非正規雇用の問題」がありました。

ILOが、非正規部門労働(インフォーマルセクター)の存在を認識したのは、1970年代のこと。アフリカで行われた労働市場調査の結果を受けてのことでした。しかし当初、ILOはこの非正規雇用を「正規雇用への移行段階にある暫定的なもの」として、むしろ正規雇用の創出を促すものとして歓迎、奨励する立場をとったのです。

今にして見れば「ILOがなんてことを!」と思うのですが、1970年代のアフリカという事情を考えれば、そういう考えが支配的になったのも仕方のない話かも知れません。しかし間もなく、ILOは立場を変えました。非正規雇用が、労働者のためにも、その国の経済・社会のためにもならないことが分かってきたからです。

問題は、主に下記の3点に集約できます。

第一に、非正規雇用は、労働者を「非正規」という何ら雇用上の保障のない働き方に固定化してしまい、貧困を永続化してしまいます。ILOでは、雇用における「7つの保障(seven securities =下記参照)」という指標を使って雇用の安心・安全の程度を測っていますが、多くの場合この保障の全てが欠けているのが非正規雇用なのです。

この7つの保障とは(1)労働市場保障(十分な雇用と選択肢)、(2)雇用保障(安定性・安全性)、(3)職業保障(社会的な認識・受容)、(4)労働保障(労働安全衛生)、(5)技能保障、(6)所得保障、(7)被代表保障(労働組合)、です。

第二に、非正規雇用は、使用者側にとって都合のいい雇用形態であることから、正規雇用に量と質の両面から切り下げ圧力をかけ、どんどん増殖してしまいます。結果、正規雇用が量的に減少するわけですから、これが非正規の固定化にますます拍車をかけてしまいます。

第三に、非正規雇用の増大は、税収の低下、社会保障への収入の低下、生産性とスキルレベルの低下、国内需要の低下を引き起こし、国の経済・社会システムを破壊させます。需要の減退が企業業績を悪くさせ、それがさらに非正規化を促進させるという悪循環に陥ることになるわけです。

こういう理由から、ILOは非正規雇用の問題に組織を挙げて取り組むこととして、全ての労働者に上記の7つの保障が提供され、ディーセントワークが確保されることを目標に、世界各地で技術協力活動を続けているわけです。私が主張する「つながってささえあう社会」の基本も、この考えを受け継いでいます。

今、そのことを改めて思い起こしてみたのも、昨日の夜から丸一日かけて読了した下記の3冊の影響でした:

    • ワーキングプア~いくら働いても報われない時代が来る、門倉貴史、2006年
    • 貧困大国ニッポン~2割の日本人が年収200万円以下、門倉貴史、2009年
    • 富裕層が日本をダメにした!~「金持ちの嘘」に騙されるな、和田秀樹、2009年

これらの本の結論は、貧困、ワーキングプア、失業、格差の固定化こそが、今の日本社会の閉塞感と、さまざまな社会問題の原因だ、という点で一致しています。そしてその処方箋としては、税制改革(累進制の強化)、雇用改革(特に最賃の大幅アップ)、社会保障制度改革、教育改革、地域改革を実行して、ワーキングプアと格差を解消し、国内消費を拡大して景気浮揚をせよ、と主張しています。概ね、私の考えと一致する方向性ですね。

中でも大変面白いと思ったのが、「労働者は消費者であり、賃金を上げてレベルの高い消費者を育てることで、日本の商品が育ち、世界市場でも勝てる」(「富裕層が日本をダメにした!」より)という主張です。つまり、労働者の賃金を上げて購買力を高めれば、国内需要が高まって生産量が増大し、それが製品価格を押し下げるとともに製品の魅力・価値を高めるので、国際競争力が強まる、ということなのです。

結局、私たちの課題は、構造的失業やワーキングプアの問題を可及的速やかに解決することです。すべての労働者に安心と安全(7つの保障が確保されたディーセントワーク)を提供して、経済社会の持続的成長を確保すること、それが政治に求められている役割なのですね。




民主党マニフェスト2010 官公庁の備品購入(案)

2010-04-25 22:00:29 | 政策
「官公庁の備品購入、ネット入札 民主マニフェスト」
(asahi.com 2010/04/23)

参議院選挙に向けた民主党のマニフェスト作成が具体化し始めています。さまざまな分野に関する議論が細切れに報道されるので、なかなか全体像が掴みづらいのですが、個別の課題にもできるだけコメントして行きたいと思います。

まずはこの記事ですが、皆さんどう思います?

もし、現実問題として、今行われている官公庁による公共事業の建設資材や備品、消耗品の調達方法が「不当」であって、その結果、「不当に高い価格」で調達が行われているというのであれば、調達方法を改正するのは当然ですね。つまり、ポイントは「現在の調達方法が不当であるか否か」であって、必ずしも「物品の調達価格が、市場の最安値よりも高い」ことではないと思うのです。

官公庁による物品調達において重要なのは、単に「価格が一番安いかどうか」ではなくて、「その(安い)価格が適正に決定されているかどうか」です。価格が適正かどうかというのは、当然、その物品の生産や流通に関わっている労働者の賃金や労働条件、そして環境などへの配慮も関係するのです。物品を大量に購入する市場影響力の強い官公庁が、価格だけで決定されるような調達方法を採用したとき、どういうことが起こり得るか、想像に難くありません。

官公庁による物品調達においては、むしろ、社会的な責任を最大限に考慮した調達方法を検討するべきではないでしょうか。企業の社会的責任(CSR)と同じく、政府の社会的責任も追求されるべきなのです。例えば、生産や流通に関わる労働者の賃金や労働条件(社会保険への加入状況なども含む)が適正なものであるかどうか、地域社会への貢献や環境対策を積極的に行っているかどうかなどの社会的要因を、選定の基準に組み込んではどうでしょう?

日本における課題の一つに、ILO第94号条約の未批准問題があります。このILO第94号条約は、公契約における労働条件の明示(最低基準以上でなければならない)を義務づけたもので、いわゆる「官製ワーキングプア」を防止する上で重要な条約なのですが、残念ながら日本では未だに批准されていないのです。

つまり、この官公庁の備品購入問題を、単に「官公庁による無駄の削減=安ければ良い」という観点だけで判断してはいけないと思うのですが、皆さん、いかがでしょう?




クロマグロ禁輸案の否決と日本漁業の今後

2010-03-21 22:55:33 | 政策
私たちの小さい頃、マグロと言えば「とっても高級な魚」というイメージがありました。自宅でも、外食の場でも、そうそう気軽に食べられるものではなかったと記憶しています。それは単に、我が家で滅多に食べさせてもらえなかっただけの話なのかも知れません(笑)が、それがいつの頃からか、スーパーなどでも値段が下がってきて、自宅でも割と気軽に食べられる魚になりました。

当時は意識しませんでしたが、今にして思えば、あれは海外からのマグロの輸入量が増大して、国内生産量と逆転した頃からの話だったのかも知れません。改めて調べてみると、マグロの海外からの輸入量が急激に増え出したのが1980年代後半、そして国内生産量を追い抜いたのが1994年頃。そして、マグロ類(特にクロマグロやミナミマグロ)の価格が下がり始めたのがちょうどバブルが崩壊した1990年前後。海外からの安価なマグロの流入が、私たちのマグロ食文化を助けていてくれたのですね。

さて、その日本のマグロ食文化を脅かすのではないかと注目を浴びたのが、ドーハで開催されたワシントン条約締約国会議の委員会で、モナコが提出した大西洋産クロマグロの国際取引を禁止する決議案です。「非常に不利な状況」との事前の予想に反して、決議案は圧倒的多数で否決され、ホッと胸をなで下ろした方々も多いのではないかと思います。

「クロマグロ禁輸案、委員会で否決 ワシントン条約会議」
 (asahi.com 2010年3月18日)

日本が主張したように、絶滅種の取引を禁止することが目的のワシントン条約で、クロマグロの禁輸を扱うのは馴染まないという主張はもっともな話に聞こえます。ただし、同様の例はすでにヨーロッパウナギの禁輸で前例があります。今回、日本は「クロマグロは資源が枯渇するような状況にない」という立場を採ったわけですが、そう考えていない国々も多いわけです。

例えば、ICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)の科学者会議は「現在の産卵可能な地中海クロマグロの資源水準は、資源が未利用状態だった時の推定資源量と比べ、15%以下にまで減少している可能性が高い」と推定しています。つまり、漁獲制限などの乱獲防止策が有効に機能していないのではないかと問題視されているわけで、このままでは大西洋クロマグロがの資源量が今後とも大幅な減少を続け、いずれは絶滅するのではないかと危惧されているわけです。

最近では世界的にマグロが食べられるようになってきたとは言え、大西洋のクロマグロはその80%が日本に輸出されています。今回の結果を報じるメディア報道の中にも見られましたが、私たちはこれを機に、マグロをはじめとする水産資源の管理・育成と、そして持続可能な漁業の推進に国を挙げて真摯に取り組まなければならないと思うのです。

かつて年間1,200万トンを誇った日本の漁獲量は、今や600万トンを切る水準にまで落ち込んでいます。半減以下、ですね。まさに危機的状況です。ではなぜそのような状況に陥ってしまったかというと、その原因の一つに「乱獲」、つまり水産資源の管理に問題があったと考えられています。そこで、漁業を資源の面から考えて持続可能にしていくためには、資源の管理と漁獲量の管理を効果的に組み合わせて「育てる漁業」に転換しつつ、将来に希望の持てる漁業にしながら担い手を確保していく必要があるわけです。

今、国内の食糧自給率の向上が叫ばれていますが、水産物も私たちの食生活を支えてくれている大切な食料です。今回の輸入クロマグロの問題を一つの契機として、これからみんなで、国内漁業の再興と水産資源の有効活用について考えて行きましょう!


<参考資料>
 ・「持続可能な漁業を求めて」 須能邦雄・高成田亨 世界2009年1月号
 ・WWFジャパン ウェッブサイト
 ・水産庁 まぐろに関する情報
 ・農林中金総合研究所 マグロの需給と価格形成をめぐる動向
 ・中央水産研究所 ウェッブサイト