今日行われた参議院の文教科学委員会で、民主党質問者の1人として質問に立ちました。
議題は、いわゆる「高校無償化見直し法案」。民主党政権時代に実現した、公立高校の授業料無償化と、私立高校生徒への就学支援金支給制度の見直しを行うものです。
具体的にどのような見直しを行うかというと、簡単に言って以下の四点に尽きます:
- 公立高校の授業料無償化(不徴収)を撤回して、有償(授業料徴収)とする
- 一方、現在、私立高校生に支給している就学支援金制度を公立高校生にも拡大して支給する
- しかし、就学支援金には、所得制限(約910万円)を設け、保護者(親)の収入がそれ以上の場合には支給しない
- そのため、資格認定のための書類申請(申請書と課税証明書)が必要で、生徒たちは在学中に4回、申請を行う必要がある。
さて、皆さんはどうお考えになるでしょうか?
私たち民主党は、この法案に絶対反対です。当然私も、今日はその立場で質疑に臨み、同じく質問に立った同僚議員たちと共に法案の問題点について政府を追及しました。質疑の詳細については、ぜひ参議院のインターネット中継(11月26日:文教科学委員会)をご覧下さい。
以下、私たちがなぜこの法案に反対なのか、説明したいと思います。少し長くなりますが、大変重要なテーマなのでぜひお付き合いを。
2010年度からスタートした「高校無償化制度」の理念は、家庭の経済的な事情等に左右されることなく、全ての子どもたちに高校教育を受ける権利を保障していくことにあります。まずは、公立高校の授業料を無料化(不徴収)として、私立高校の生徒たちには就学支援金を支給(約12万円、低所得世帯には加算有り)することとしました。公立と私立の格差は残りましたが、高校の完全無償化に向けて大きな一歩を記したわけです。
そしてこれによって、国際人権A規約(社会権規約)第13条2(b)及び(c)の留保を撤回しました。これは、高校や大学教育の「漸進的無償化」を求める規定ですが、日本政府は社会権規約を批准した時に、この条項を留保(=この条項には拘束されない旨を付記する)していたのですね。それをようやく撤回することが出来たわけです。
ちなみに、高校の無償化というのは、国際的にはもう当たり前です。OECD加盟国で、高校が無償になっていないのはわずか数カ国。うち、イタリアなどの授業料は数千円なので、無償も同じ。つまり、国際的には全く恥ずかしい状況に置かれていたわけで、何とか世界の常識に追いつくための一歩を踏み出したのですね。
ところが、自民党は野党時代から、それを「バラマキ」と言って非難し、攻撃してきました。そして今、政権与党の立場で、高校無償化をひっくり返すために出してきたのが今回の法案なのです。この法案は、公立高校授業料の不徴収という理念を撤回して、先進国の常識から全くかけ離れた古い制度へと後戻りさせるだけでなく、子どもの高校教育を受ける権利に所得による差別を設けようとするもので、到底、容認出来るものではありません。
次に、具体的な反対の理由を簡潔に8点、説明します。
第一に、この法案は、先ほど説明した、日本が昨年留保を撤回した国際人権A規約(社会兼規約)第13条の2(b)、中等教育の漸進的無償化に明確に違反するものです。政府は、この条項を勝手に解釈をして、「条約には違反しない」と強弁していますが、公立高校授業料の無償化を撤回して、さらに所得制限まで導入したわけですから、明らかに条約違反だと思います。
第二に、公立高校における授業料無償化(不徴収)を撤回したことで、今後、自治体が設定する公立高校の授業料水準によっては、就学支援金を受給できる子どもたちでも、実際の授業料との差額を支払わなければならなくなる可能性があります。
第三に、就学支援金の支給に、申請主義による資格認定手続きを導入したことによって、申請書類を受領し、確認し、とりまとめて送付するという膨大な事務量を学校現場に発生させ、本来、教育の充実に当てられるべき時間と労力が大きく削がれてしまうことになります。同様に、自治体にも大きな事務負担を強いることになります。政府は、所得制限の導入によって得られる財源の中でこの事務量増加に伴う支援のための予算措置を図ろうとしてますが、現段階では何の保証もありません。
第四に、資格認定に所得制限を導入することで、子どもが中等教育を受ける権利を差別することになります。と同時に、多数の子どもが通う公立高校において、認定書類を提出する生徒、しない生徒を発生させることで、場合によっては子どもたちを分断し、いわゆるスティグマを生じさせる懸念が拭い取れません。子どもに、家計の状況を意識させてしまうわけです。
第五に、受給権確認のために申請主義を採用したことで、本来、受給権があるはずの生徒たちが受給出来ない可能性を生じさせます。申請の案内書を、子どもが親に渡し忘れたらどうなるでしょう? 申請書類の提出を忘れてしまったらどうなるでしょう?
第六に、家計が急変した生徒が、地方自治体が提供する授業料減免措置の対象とならず、そのため1年以上の長期にわたって授業料の減免も就学支援金も受けられず、就学の継続が困難になってしまう危険性があります。政府は、家計急変でも、自治体が提供する授業料減免措置で対応するから大丈夫と説明していますが、自治体の授業料減免制度には対象となる年収水準に大きな格差があり、例えば収入1千万円から500万円に半減したとしても、住んでいる自治体によっては授業料減免制度の対象にならない可能性があるのです。
第七に、本来、予算関連法案として予算編成と一体的に議論されるべき本法案が、この臨時国会で予算案と切り離して拙速に議論されることで、所得制限の導入によって得られる財源で実現するとされている中低所得世帯支援の拡充や、公私間格差の縮減等について、全く法律上の担保がないままに制度改正だけ先行して行われてしまうことです。仮に、その財源が全く別の目的に使われるようなことがあれば、一体、私たちは、子どもたちに顔むけが出来るでしょうか?
第八に、今、このタイミングで拙速にこの制度改正を実施し、来年4月1日からの施行とすることは、すでに進路を決めている中学三年生の子どもたちに悪い影響を与える可能性があります。
以上、いろいろと理由を述べてきましたが、私たちも、今回政府が実施しようとしている中低所得者層への支援の拡充や、公私間格差の是正には賛成なのです。しかしそれは、所得制限を導入することによって財源を確保するのではなく、教育予算を増やすことによって実施していくべきものです。
日本は、大変残念ながら、主要先進国と比べても教育に対する公財政支出は圧倒的に低くなっていて、家計(保護者)負担に大きく頼っているのが現実です。まずは、教育予算を増やすべきなのです。政府は、財源がないからと説明していますが、それはウソです。なぜなら、公共事業関係予算や防衛予算などは大幅に増額しているわけですね。さらに、来年度の概算要求でも、文科省から新たな事業を数多く提案しています。高校教育のための財源が増やせないから、所得制限を導入して低所得者対策を行うという政府の対応は全く根拠のないもので、むしろ、現政権の教育への後ろ向きな姿勢、とりわけ「人」を軽視する姿勢が表れていると言わざるを得ないと思います。
日本は、人材こそが資源であり、教育は子どもたちの未来、日本の未来への投資です。今や99%近くなった高校レベルの教育を、家計の状況に左右されることなく、全ての子どもたちに保障しようという基本理念は維持すべきではないでしょうか。今やるべきは、予算配分を見直し、教育予算を充実させることによって、完全なる高校無償化を実現していくことで、それこそ本来の教育政策であり、私たち政治の役割ではないでしょうか。
今日の委員会で、本法案は残念ながら、自民党、公明党、みんなの党、日本維新の会の賛成で可決してしまいました。しかし私たちは、今後も引き続き、全ての子どもたちに、家庭の財政状況に左右されることなく、豊かな教育を受ける権利を保証していくために、教育予算の拡充に取り組み、高校の無償化にも再挑戦していきたいと思います。応援宜しくお願いします。