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転落の街/マイクル・コナリー 外れなく面白いコナリー

2017年03月27日 | もう一冊読んでみた
転落の街(上・下)/マイクル・コナリー

 「そうだな、いいじゃないか」ボッシュは言った。「だが、アーヴィングを取り除くためにきみがアーヴィングにならなければならないのなら、なんのちがいがある?」

『2017年版 このミステリーがすごい!』 海外編第7位 『転落の街(上・下)』 を読んだ。

マイクル・コナリーは、何時読んでも外れがない。
今回も、話は面白かったし、考えさせられもした。

私刑かも知れないが、黙って見過ごす事が出来れば、ずっと世のため人のためになるかも知れない。
己の信条を頑なに守りとおすことよりも。

 だれもが価値がある、さもなければだれも価値がない。それは人としてのボッシュの信条だった。

 死はすべてを奪い去る。人の尊厳すら。

米国の市民生活では、銃が手放せない重い現実をこのミステリーの随所から感じさせられた。

 「それから、ドアにはちゃんと鍵をかけておくように」
 「それから、グロッグの在り処はわかっているな?
 「うん、どこにあるかわかっているし、使い方もわかっている」
 「いいぞ、それでこそおれの娘だ」


 性犯罪者というものは自分の本音を偽り、嘘をつき、相手が弱みを見せるのを待っているものだと、ボッシュは絶えず自分に言い聞かせているつもりだった。

 「気をつけろよ、ボッシュ!」
 「なにに気をつけるんだ?」
 「これから目にするものにだ。きょう以降、おなじ人間ではいられなくなるぞ」


米国では、常に裁判所や陪審員をいかに納得させられるかということを意識して、犯罪捜査が行われていることがよく分かった。

 報告書に言葉が少なければ少ないほど、批判者や弁護士に攻撃される機会と切り口が減る。

 むしろ、マスコミを利用して、大衆に----そして地元の陪審員候補者たちに----チルトン・ハーディがおぞましい犯行において有罪であることを銘記させるための現在進行形の努力の一環だった。警察とマスコミのあいだにつねに存在している、いわくいいがたい共犯関係の一環でもあった。

ジャズを旨く取り入れているところも魅力です。

 チェット・ベイカー
 そのころにはベイカーの雑誌の表紙を飾れるような容姿とウェストコート流のクールさは、ドラッグと人生の疲れに吸い取られてしまっていたが、それでもまだベイカーはトランペットの音色をまるで闇夜に響く人の声のように奏でることができた。その六年後、ベイカーはアムステルダムのホテルの窓から転落して死ぬことになる。


 厳粛な気分になったときはいつもそうしているように音楽に身をゆだねた。フランク・モーガンのアルトサックス。そんな気分を整えるのにこれ以上いいものはなかった。

 だれもが救済をを求めている。なんらかのものに対する。
 ボッシュはその機会をベルから奪い去ってしまい、それがフランク・モーガンの悲しみに充ちた音楽に耳を傾け、酒に溺れたいと思っている理由だった。

ソロのひとつも耳に響くようにジャズの素養を若い頃に身に付けておくべきだった。今更ながら後悔している。

ボッシュも年を取ったものだと感じた。
そう言えば、1950年生まれということだから、ほぼ同じ歳なんだなあ。

 「さあ、わからんが、ひとつだけはっきりしている。もっとましな父親になることができるだろうと思う。ほら、もっとそばにいられる」
 「それって必ずしもいい父親になれる条件じゃないと思うよ。覚えておいてね」


 『 転落の街(上・下)/マイクル・コナリー/古沢嘉通訳/講談社文庫 』



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