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すべての罪は血を流す/S・A・コスビー

2024年07月22日 | もう一冊読んでみた
すべての罪は血を流す 240722

S・A・コスビーの『すべての罪は血を流す』を読みました。

コスビーの作品は、これまで邦訳されている2冊を読みました。

 『黒き荒野の果て
 (強盗の走り屋稼業から足を洗った男がふたたび犯罪に巻きこまれていく話)

 『頬に哀しみを刻め
 (ゲイのカップルが殺され、その父親ふたりが復讐のために犯人捜しに乗り出して、
  息子の性的指向を受け入れられなかった自分とも向き合っていく。)
 ()内は「役者あとがき」より引用。

二つの作品とも面白かったので、今回も期待して読んだのですが、ぼくには今一でした。
聖書からの引用(なぜか文語訳)、人種差別、そして、アメリカ南部で黒人の保安官としては働く特殊な状況など重たい話の連続でした。

 だが、あんたはどんな秘密を隠していた。ジェフ? SUVのエンジンをかけながらタイタスは思った。
 人には自分の秘密をすべて話す人などいないとダーリーンに言う勇気はなかった。愛し合う者たちでさえ、自分の一部を光の当たらないところの隠しておく。


 FBI捜査官として働いた十二年間で、おぞましいことはたくさん見てきた。人ひとりがほかの人間に邪悪な行為を次々と続ける能力は海のように果てしなく、浜辺の砂の粒のように多様だ。

 「そんなことが頭のなかにあって、どうして平気なんです?」カーラは訊いた。
 「夢を見ないようにしている」と言って、家のなかに入った。


 書類に記入してもらっているとき、彼女が旧姓に戻っていることに気がついた。そのことについては訊ねはしなかったが、タイタスが気づいたことに彼女も気づいた。
 「聞くのもつらいの。パッカー----その名前を聞くたびにボビーを思い出すから。そう……きついわ」キャシーは言った。タイタスにはその深い悲しみが理解できた。子供のころ、ギリシャ神話を読むのが好きで、とりわけトロイア戦争を描いた『イーリアス』に夢中だった。ところが、母親が死んでからは読めなくなった。読み古した本のページに、“ヘレン”ということばが何度も出てくるのに耐えられなかったのだ。
結局、本は薪ストーブで燃やした。旧姓に戻った背景をキャシーから聞かされたとき、胸が締めつけられるほど深い悲しみに襲われた。悲しみはことばにされない愛であり、肉体を持った後悔でもある。


  『 すべての罪は血を流す/S・A・コスビー/加賀山卓朗訳/ハーパーBOOKS 』



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