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身代りの女/S・ボルトン

2024年08月05日 | ゆめ未来
身代りの女 240805

S・ボルトンの『身代りの女』を読みました。
面白いミステリです。
訳文も読みやすく、時間の経つのを忘れて楽しめました。

卒業間近の優等生六人が始めた肝試し。
それが、母と幼い娘ふたりの命を奪うという大惨事を引き起こしてしまう。
六人のうちひとりが罪をかぶり刑務所に。
20年後、罪をかぶたメーガンは、刑期を終えて出所。
功成り名遂げた」五人は、メーガンにどのような態度を取ったのか。
そして、メーガンは彼らひとりひとりになにを要求し、それは、どのような結果をもたらしたか。

「なぜあなただったの?」アンバーが訊いた。「なぜ彼女はあなたに見送ってもらいたかったのかしら? 親友というならわたしなのに」
 タリサが鼻を鳴らした。アンバーはタリサのほうを向いた。「なによ? 自分が親友だと思つてるの?」
 ザヴが立ちあがり、アンバーに言った。「なぜおれかなんて、わからないよ。たぶん、ダンは腰抜けだし、きみは泣きやまないし、タルは陰険だからだろ。それに、そもそもの始まりはフェリックスが言いだしたからだし。この五人のクズのなかではまだしもおれがましだったってことだろうよ」
 沈黙が落ちた。五人のだれもがわかっているのにここまで隠してきた真実をザヴが声にしたとでもいうように。特権の共有を独善的に受け入れていること以外に自分たちを結びつけているものはなにひとつないという真実を。このなかにだれひとり立派な人間はいないばかりか、まちがっても善良な人間はいないという真実を。


 とはいえ、彼らが一生懸命やってきたのも事実だった。権力をもつ人々には敬意を払ってきた。慈善活動に精を出し、学校のために自分の時間を割いてもきた。昨夜までは法律を破ったこともない。つまり、未成年の飲酒や、気晴らしのための幾度かのドラッグ体験や、酒気帯び運転基準超えのほんのちょっぴり奇抜な運転などは、だれも法律違反とは見なさないから。彼らは天使ではないかもしれないが、じゅうぶんに品行方正な若者であって、今回のようなことは彼らのような人間には起きるはずがなかったのだ。

  『 身代りの女/S・ボルトン/川副智子訳/新潮文庫 』



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