■騙し絵の牙/塩田武士/ 2018.3.26
本が売れない時代だ。
そんななかで、大手出版社と書店の苦悩、のたうち這いまわる社員たちの話。
出版業界や本屋さんが置かれている現状など、いろいろ興味深いことをうかがい知ることが出来ます。
『
騙し絵の牙』 は、こんな小説です。
【2018年本屋大賞ノミネート!】 最後は“大泉洋”に、騙される!
出版界と大泉洋という二つの「ノンフィクション」を題材に書く社会派にして本格ミステリー
映像の世界には最初から俳優のイメージを取り入れた役を作ろう、という「当て書き」の文化がある。
本書は、主人公に大泉洋を「当て書き」して執筆された、前代未聞の小説だ。
評者:吉田大助(「野性時代」2017年10月号) より
カドブン.........
書評家・ライター 吉田大助
ぼくも若い頃から、そう思っていた。
いつの時代も、世代に関係なく鞄の中には本があるという状態が当たり前だと思っていた。
手元に本がないと落ち着かなかった。
もっとも手頃な余暇の過ごし方は、読書だった。
最近の大学生については、「一日の読書時間について大学生の53%が「ゼロ」と回答したとの調査結果」が報告されている。
「本が売れない、本屋さんがバタバタと潰れる、そんな時代が来るなんて想像も出来なかった。」 今はこれが現実。
大人に当てたやや硬派な特集だったが、今の雑誌業界で若者にターゲットを絞ることほど怖いものはない。善戦している雑誌のほとんどは三十代以上に向けたもので、例えばファッション誌ではギャル系の全滅、ストリート系の大幅減など目も当てられない。活字というより「印字離れ」は深刻だ。
新作の単行本を出しても、よほどの仕掛けがないと売れない時代だ。それどころか、ここ数年は文庫の売り上げも急落している。もはや単なる不況ではなく、出版業界の構造そのものが崩れようとしていた。
ぼくは、以前から文庫本の価格が高すぎるのではないか、と危惧していた。
文庫の存在価値は、誰でも手軽な価格で読みたい本が手に入ることだと思うから(希望する価格は一冊500円前後か)。
そのうち、きっと売れなくなるぞと予想していた。
売れっ子作家にとっては、図書館が充実すれば不利に働くが、売れない作家にとっては図書館の売り上げが初版部数に与える影響が大きい。これからの作家を支えるという点ではありがたい存在だが、手放しで喜べない現状がある。数年前から公立図書館の書籍貸出数が、販売数を上回る状態が続いている。
「(文庫の売れ行きは)三年連続六%台の落ち込みで、どんどん底を割っている。単行本の売れない分を補完できなくなってて、売れないから文庫化もしないって状況が当たり前になってきている」
「あのな、速水。もともと消費者に仁義なんかないんや。出版から離れたら、俺らだって便利なもん選ぶやろ」
図書館の新刊の貸し出しについて、作家の皆さんがいろいろ意見を述べられていますね。
次の話は、世に出て働いていれば、誰もが一度は経験することです。
二階堂は、こういった全身全霊の「よいしょ」に慣れている。舞台上で鷹揚に構えてはいるが、胸の内では各社の動きを細かくチェックしているに違いない。
「谷底を歩んでいる方が長い人生でしたが、すばらしい物語に何度助けられたことか」
もう二十代には戻れないという思いは、寂しいよりも胸騒ぎを運んできた。
「まぁ、何だ。同期がいがみ合ってても仕方がない。愚痴の一つや二つ言い合うのはどうだ?」
「職場に戻ったら愚痴しか出ねぇから、もう腹いっぱいだ。それに、兵隊が口を揃えて文句言っても不毛だ」
「何や心がじわじわ蝕まれるみたいでしんどいんや。このまま溶けてなくなるまで痩せ細っていくんかと思ったら、夜中に目が覚めることもある」
物語は、不吉な予感で幕を閉じます。
やがてシャボン玉は風の中に沈み、弾けて消えた。
『
騙し絵の牙/塩田武士/KADOKAWA 』