学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

追悼、河合隼雄さん

2007-07-19 21:48:59 | Weblog
予定通り、本日で展示替作業は終了しました。今日はキャプションの取り付け、ガラスケースの移動、そしてライティング(照明の調整)を行いました。このなかで特に大変なのがライティング。照度計を片手に、こまめにチェックを入れていきます。ご存知の通り、光が強いと作品の色があせてしまうので、要注意なのです。大変でしたけれども、無事、明後日から開館できそうです。明日は、展示作業の間にたまってしまった仕事に取り掛かる予定です。

さて、本日、文化庁長官を務められた河合隼雄さんが亡くなられたとニュースで報じられました。河合さんと申せば、ユング心理学の第一人者。私はこれまで心理学を学んだことはありませんし、もちろん河合さんの著作を読んだこともありません。けれど、たった一度だけ、河合さんと同じ空間に居合わせたことがあります。

今から2年前の冬。東京のとある新聞社が企画した美術館シンポジウムに参加したときのことです。シンポジウムで開催の挨拶を述べられたのが当時、文化庁長官であった河合さんでした。そのとき、河合さんがおっしゃったことを、私の拙いメモで辿りながら御紹介していきましょう。

今、日本の美術館は大丈夫なのか?と問われれば、私は「イエス」と答えます。といいますのは、新聞社が芸術のシンポジウムを企画すること自体素晴らしいことなのに、これだけの参加者(200人近く参加者がいました)が集まって下さったのだから。それに世界を代表する美術館の館長も来て下さりました。
かつて美術館は、人を寄せ付けない雰囲気を持っていました。けれども、その雰囲気も大分変わりつつあるようです。最近出来ました「金沢21世紀美術館」は入りやすくて、作品と見る側の距離が大変近いので、大人から子供まで楽しく過ごせる空間を作り上げています。
美術は国民と密接な関係があるのです。ですから、学芸員は常に人々の立場で美術館のことを考えなくてはなりません。とかく学芸員は勉強をしすぎると、視野が狭くなることがあります。それではだめなのです。いかに人々を美術館に呼び込むかを考えるべきです。
例えば、「模写の推進」はいかがでしょう。子供たちに一点の絵を模写させるのです。面白いことに、同じ絵を模写したものなのに、子供たちの絵はそれぞれ違うものに仕上がるのです。その絵をもとにディスカッションするのも、また楽しいものでしょう。そのディスカッションを通して、本来の絵の良さがわかってくるかもしれません。
そして最後に・・・。入場者が多いからといって、その美術館の質が高いと考えてはいけません。質と量は、また別の問題です。それを忘れてはならないのです。

以上、最後のセリフは何か意味が深い感じがします。河合さんは、美術館の現在と課題について、ご自分の意見を述べられていました。「模写の推進」のアイディアは大変ユニークです。あまり長くなるので省いた部分もありましたが、河合さんはボランティアの重要性についてもおっしゃっておられました。2年前に壇上で挨拶をされたときは、たいへん元気でいらしたのに。とても淋しい気持ちです。
御冥福を心よりお祈り申し上げます。
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