猫への扉
「お、俺は・・・
何もしなかったわけじゃない
何もできなかったんだ
草食系の俺は肉食系の世界じゃ何もできなかったんだ
まるでステーキの横に居るスカスカの高野豆腐のようなものだった
スキヤキの中に居る麩のようなものだった
汁にずっぽしと溺れていただけだった」
湯気の向こうの父、八田二郎の姿がぼやけはじめた
「親父~、待ってくれよ~
まだ人生の話を全部聞いてないぜ
俺はこれからどうしたらいいんだ~」
外の吹雪が強くなってきた
八田二郎の声だけがかすかに聞こえてきた
「猫のピート、彼の後をついていけばいい
この家の扉のどれか一つが夏へと続いているのだ
ピートは賢いから、すぐ見つけるだろうよ」
何もしなかったわけじゃない
何もできなかったんだ
草食系の俺は肉食系の世界じゃ何もできなかったんだ
まるでステーキの横に居るスカスカの高野豆腐のようなものだった
スキヤキの中に居る麩のようなものだった
汁にずっぽしと溺れていただけだった」
湯気の向こうの父、八田二郎の姿がぼやけはじめた
「親父~、待ってくれよ~
まだ人生の話を全部聞いてないぜ
俺はこれからどうしたらいいんだ~」
外の吹雪が強くなってきた
八田二郎の声だけがかすかに聞こえてきた
「猫のピート、彼の後をついていけばいい
この家の扉のどれか一つが夏へと続いているのだ
ピートは賢いから、すぐ見つけるだろうよ」
「内三、じゃあ、コーヒーを飲む間に、人生の話をしようか」
「あっ、もう全部飲んじゃったよ」
「すまん、それはエスプレッソだったな、カフェオレにすればよかったかな
わしはお前も知ってるように、お前の本当の父親だ
親というより創造主といったほうが正しいがな
わしはこの宇宙で56億7千万年生きてきた
家の前に銀河鉄道の駅があるせいかいろんな人が来る
先週はカルロス・サンタナが来て
ここエウロパの思い出を曲にして帰っていった
そのすぐ後に上田正樹が来て『悲しい色やね』を録音して帰った」
「親父、何が言いたいんだ」
「おっと、人生の話だったな
人は無から生まれて、すぐ無に帰っていく
それは幸せなことだ
わしなどは永久に生き続ける運命を背負っておる
終わらない苦痛の日々だぞ
たった70年の人生で何がわかるもんか
70年の瞬間なんだから何をするのも自由だ
内三、それなのに、なぜお前は70年間何もしなかったんだ」
「お、俺は・・・」
「あっ、もう全部飲んじゃったよ」
「すまん、それはエスプレッソだったな、カフェオレにすればよかったかな
わしはお前も知ってるように、お前の本当の父親だ
親というより創造主といったほうが正しいがな
わしはこの宇宙で56億7千万年生きてきた
家の前に銀河鉄道の駅があるせいかいろんな人が来る
先週はカルロス・サンタナが来て
ここエウロパの思い出を曲にして帰っていった
そのすぐ後に上田正樹が来て『悲しい色やね』を録音して帰った」
「親父、何が言いたいんだ」
「おっと、人生の話だったな
人は無から生まれて、すぐ無に帰っていく
それは幸せなことだ
わしなどは永久に生き続ける運命を背負っておる
終わらない苦痛の日々だぞ
たった70年の人生で何がわかるもんか
70年の瞬間なんだから何をするのも自由だ
内三、それなのに、なぜお前は70年間何もしなかったんだ」
「お、俺は・・・」