さて、恵庭岳を歩き、ふと気づいたことがある。それは今までにないほどの暖かな、人を包み込む空気である。いや、これらの言葉が陳腐な響きに聞こえるほど、あらゆる不安も恐怖心も呼び起こすことのない、絶対的安心といえる雰囲気であった。
さくさくと登り、降りる、何のためらいも躊躇もない。このような体験は初めてなのではないか。僕自身のなかにも気負いも力みもなく、あるがままに歩く。
下山し自宅に戻った僕は、なぜか数年ぶりに「カムエクの教訓」というサイトを見た。カムエクで福岡の学生が熊に襲われ、死亡者まで出した事件であり、カムエクのカールには今なおその慰霊碑がある。
たしかに、いつもは人を襲うことのないヒグマが人を襲ってしまった。キムンカムイが悪しきウェンカムイになり果てた。しかし、その変身には意味が隠されていたはず。まぁ、ここでは触れないでおこう。まだ、この事件の傷跡は深いのだ。