WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

レオン・ラッセルは色褪せない

2006年12月03日 | 今日の一枚(K-L)

●今日の一枚 93●

Leon Russell    Will O' The Wisp

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 古き良きロック……、私にとってそれはレオン・ラッセルと同義であるといってもよい。何か新しいことをやろうとしても、過去にすでにやられてしまっている、それが現代のロックミュージックの困難のひとつであることは想像に難くない。斬新な作品を創造するには、ずば抜けたオリジナリティーか、奇をてらう行為かが必要といったところだろう。けれど、かつて自分の感性やアイデアを素直に表現できる時代が確かにあった。レオン・ラッセルはそんな時代の真の天才というべき人物だ。

 ファンキーで粘っこい南部的なサウンド、うねるようなアクの強いボーカル、そして何より美しい曲を創り出す能力、それがレオン・ラッセルだ。南部の土着的な節回しとビートに身体が共振し、切なく美しいバラードに心が震える。1970年代のロックシーンに「天才」と呼ばれる人物は数多あれど、私にとって第一に挙げるべき人である。本当は、そんなことはずっと前からわかっていたのだが、つい最近たまたま聴きかえす機会があり、その確信をさらに強固なものにしたしだいである。

 1975年作品のアルバム『Will O' The Wisp』……。もちろんお気に入りの一枚である。レオン・ラッセルの人気アルバムといえば、一般には『レオン・ラッセル』『カニー』、玄人筋には『レオン・ラッセル&シェルター・ピープル』といったところだろうが、この作品もどうして負けてはいない。収録されている曲の素晴らしさからいったらこのアルバムが最高かもしれない。

 A-⑤ My Father's Shoes いまだかつてこんな切ないメロディーがあっただろうか。彼の作品の中でも最高のバラードのひとつだ。アルバム最後を飾るB-⑤ Lady Blue も素敵だ。ゆったりとした速度で歌われる甘美な旋律にうっとりだ。効果音をうまく使ったB-① Back To The Island も印象に残る美旋律だ。そして何より、B-③ Bluebird 、傷心の男心を歌った曲だが、歌詞に反するような明るく軽快なメロディーと溌剌としたビートに何度励まされたことだろう。この曲を聴けば、どんな時でも元気を取り戻せる、私にとってそんな《 青い鳥 》とでもいうべき曲である。

 古き良きロックはいつだって感動的だ。それは人間の根っこの部分を揺さぶるからであり、それを奇をてらうことなく素直に表現できているからであろう。その意味で、古き良きロックはいつも新鮮だ。

 レオン・ラッセルは、色褪せない。


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