WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

リラクシン

2007年07月23日 | 今日の一枚(M-N)

●今日の一枚 185●

Miles Davis

Relaxin'

Watercolors0004_9  いわずと知れたマイルス・ディヴィスの1956年プレスティッジ、マラソンセッションのうちの一枚『リラクシン』である。私はこのアルバムが好きだ。公式見解である。なぜかというと、かつて敬愛した故・中上健次が村上龍との対談『ジャズと爆弾』の中で、マイルス・ディヴィスの話題の中で一番好きな作品としてあげているからだ。敬愛する中上健次が好きというから好きだ、これ程説得力に富んだシンプルな言い方はないであろう。これに疑義をさしはさむ余地はないし、もし「敬愛する作家が好きだから好きだとは一体どういうことだ」などという反論をする輩がいれば、それは原理的にバカというべきであろう。

 しかし、なぜ中上がこの作品を好きであったか。あるいはそのことが中上のジャズ聴きとしての水準を露呈してしまっているのかもしれない。高名な批評家、後藤雅洋氏は『新・ジャズの名演・名盤』(講談社現代新書)の中で、マイルスのしゃがれ声に続いてやはりマイルスと思われるカウントを取る指の音で演奏がはじまる① If I Were A Bell について、「この一瞬の静かな緊張は、ビ・バップ的な、後はどうなるかわからないアナーキズムとは異質な、演奏の方向を常にコントロールしようとするリーダー、マイルスの強烈な意思の現れである。そして実際の演奏も、マイルスの狙った通り、テーマとアドリブが有機的に結合された典型的なハードバップ的構成美をそなえたものとなっている」と述べている。冒頭の部分からのみ判断するには、やや大げさな表現であるが、大きな間違いとはいえないであろう。全体から遡及した見解であるが、曲全体あるいはアルバム全体についての見解としては、誤りとはいえないであろう。

 「物語の復権」を唱えた中上が『リラクシン』を好きだと語ったということは、面白い。