ひのっき

あったかくてぐっすりでごはんがおいしくてよかったねうれしいねなんて小さなしあわせ探し雑記

辺見じゅん 男たちの大和

2005年09月08日 | どくしょ。
辺見じゅん先生の「男たちの大和」を読みました。
凄い作品です。
轟沈から30余年後、生還した260余名のうち実に114名に対して面接取材を行い完成させた迫真のドキュメントです。乗組員たちの大和での生活、戦闘、そして戦後の生き方を、生々しいまでの等身大の視点で描ききっており、その圧倒的なリアルに思わずため息。
戦闘の凄惨もさることながら、生き残ってしまったことの負い目を抱えながら、それでも生きていかねばならない想いの切なさに胸が締め付けられます。
戦記という枠をこえ、人の生き方についてじっくり考えさせられる良書です。

こうの史代 夕凪の街桜の国

2005年09月02日 | どくしょ。

こうの史代先生の「夕凪の街桜の国」を読みました。
泣きました。号泣です。
人が人として生きていく上での、不条理とか罪とか愛とか美しさみたいなものが恐ろしい密度で凝縮されていて、読み返すごとに涙腺に歯止めがかかりません。
原爆がテーマにはなっていますが、いわゆる反戦や反核といった枠に収まらない、人の生き難さ、生きる価値を描ききった奇跡のような作品です。
講評の「漫画界戦後60年最大の収穫」ってのも決して誇張ではなく、漫画にできること、漫画にしかできない仕事ってのはまだまだあるんだなあなんて。
今この国で生きている全ての方に読んでいただきたい、絶対お奨めの作品です。

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)
こうの史代
双葉社

浅田次郎 輪違屋糸里

2005年08月27日 | どくしょ。
浅田次郎先生の「輪違屋糸里」を読みました。
なんていうか、幕末の世に女として生きるってのもなにやら色々めんどいんだなあなんて思いました。
同じ浅田次郎先生の新撰組物でも、壬生義士伝に比べると観点が散漫で泣き所が少ない感じ。壬生義士伝では命を懸ける理由が家族を養うためというダイレクトに理解しやすいものだったのに対し、輪違屋糸里では惚れた男のためという、消化するのにちょっと時間を要するものだったからかもしれません。
なにやら脳内を矢野顕子の「ラーメン食べたい」のサビが流れたり。
ともあれ、壬生義士伝のサイドストーリーとしての位置づけならこれはこれでありなのかもなあなんて思った淡々とした読書タイムでした!

宮本常一 塩の道

2005年08月19日 | どくしょ。
宮本常一先生の「塩の道」を読みました。
面白かったです。
宮本先生は自分の足で全国を隈なく歩き回り、自分の耳で直接土地土地の人々から話を聞きながら、日本人の暮らしに関する膨大なフィールドワークの業績を残したことで知られる、日本最高の民俗学者の一人です。
本書では、「塩の製造と流通」「日本人の食べてきたもの」「暮らしの中の形と美」といったことをテーマに、庶民の暮らしについて独自の視点を交え掘り下げつつ紹介してくれます。
山間部での塩の入手方法など満載された目鱗情報の秀逸さもさることながら、文体から溢れる「庶民」に対する尊敬と慈愛に満ちた眼差しが素晴らしく、なんていうか読んでいてシアワセに癒されます。
民俗学に興味がある方にはもちろん、良質な読み物を求める方にお奨めの名著です。

桐野夏生 顔に降りかかる雨

2005年08月05日 | どくしょ。
桐野夏生先生の「顔に降りかかる雨」を読みました。
身の丈を越えた野心を持つってのは大変なことだなあと思いました。そのままなら何不自由のない生活を送れるはずの幸せな人たちが、セコい野心とほどほどのお金に目が眩み、あれやこれやと絡み合いつつ泥縄的に策を弄した末に、なにやら次から次へと意味なく崩壊していく、なんだかどうにも切な空しい破滅物語です。
OUT以降の作品に比べると人物描写が薄口でアレですが、アペオス以上に次々どんでん返す仕掛けと展開が秀逸で、端々に潜在能力を感じさせるさすがの本格ミステリー小説となっています。
それにしても桐野夏生先生も昔はこんな推理小説っぽいミステリーも書いてたんだなあなんて、ちょっと意外なドキハラ読書タイムでした!

松井計 ホームレス作家

2005年08月01日 | どくしょ。
松井計先生の「ホームレス作家」を読みました。
自己愛的にプライドが高いってのは、本当に大変なことなんだなあと思いました。
自分以外の人間が愚劣に見えてしょうがない「高尚」な主人公が、周囲の人々を巧妙な自己批判を隠れ蓑にしながら「知的」かつ「理論的」に罵り蔑みながら、それが故なにやら自分にとっても周りにとっても非常に嫌な状況に陥っていく自伝形式の小説です。
やっぱり人って、コミュニティに感謝し周りの人々を尊敬するってことを忘れると、誰にとっても不幸な状況になるんだなあなんて思った、ダウナーな読書タイムでした!

群ようこ 挑む女

2005年06月24日 | どくしょ。
群ようこ先生の「挑む女」を読みました。
面白かったです。いつもながらの群節がびんびんに冴え、大変だーあははなんて軽快に読み飛ばせます。
それにしても群先生の、女の人達がそれぞれに悩ましい状況の中、トホホーなんて言いながら何とかかんとか問題を片付け、エイやソイやに生き抜いていく描写はなにげに見事です。
篠田節子先生と群ようこ先生の短編って、女性の生き方というジャンルで結構主題がかぶる作品が多いのですが、同じような設定とテーマでも、篠田先生の筆ではそれが「怨念」に展開され凄惨なラストに、群先生の筆では「トホホー」に展開されほどほどなラストに帰着します。
人がなにやらそこそこシアワセに生きていくためには、「トホホー」ってのが一つのコツなのかもなあ・・なーんて思ったまったり読書タイムでした!

吾妻ひでお 失踪日記

2005年06月02日 | どくしょ。
吾妻ひでお先生の「失踪日記」を読みました。
面白かったです。世間的感覚で見ても本人にとっても間違いなく悲惨な実体験を、独特のほのぼのコメディタッチで悲壮感を抑えつつ逆に胸にがんと迫る絶妙な間合いで展開させ、漫画としてもルポとしても超一流の上質な作品に仕上げています。やっぱり吾妻先生は天才なんだろうなーなんて。
あとさきレスにとにかく全てを投げ出したいなんて思ったことのある人、酒なしでは生きられないけど酒に殺されそうになっちゃってる人なんかにはもちろん、漫画というメディアの可能性を信じる全ての人にお奨めの作品です。

すえのぶけいこ ライフ

2005年05月25日 | どくしょ。
すえのぶけいこ先生の「ライフ」を読みました。
いやー、なんていうかもう、女の子の世界ってのも大変だなあなんて思いました。。
いじめというよりは、少年法がなければ懲役で2年は固そうな凄惨な犯罪シーンの連続。でありながら首謀者は無傷。漫画として過剰にデフォルメされているにしろ、この作品が一部の読者から「リアル」という評価を得ているってことは、もしかすると女の子のコミュニティって大なり小なりこういう要素があるのかなあ・・なんて。桐野夏生先生の「グロテスク」よりは漫画感があって救われますが、それでも胸のなかををひんやりぶるぶる感が覆います。
ともあれ、女の子にとって「自分の居場所」的なテーマってのはやっぱり不動のツボなのかなあなんてダウナーな漫画タイムでした・・・。

奥田英朗 最悪

2005年05月23日 | どくしょ。
奥田英朗先生の「最悪」を読みました。
なんていうか、中小企業を経営するってのは本当に大変だなあと思いました。
「邪魔」でもそうですが、奥田先生の「普通の人が、ちょっとしたトラブルをきっかけに悪い方悪い方に間違いを上塗りし、終にはなんでそこまでってぐらいのレベルで壊滅してしまう」描写は、本当に見事です。ページをめくるたびに「もうやーめーてー」と脳髄がぐらぐら揺れ瞼の裏がじわりと赤く染まります。
そんな訳で読感はアレですが、犯罪小説としては秀逸ですので、会社を辞めて独立しようと考えてる方、くらーい話が好きな方、いわゆる転落モノが好きな方には、面白く読める作品だと思います。