ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

そう、ベルギーの終わりに備えねば。

2010-09-18 20:37:57 | 政治
“Oui, il faut se préparer à la fin de la Belgique”・・・5日のル・モンド(電子版)の見出しです。ここ3年ほど、フランス語を話すワロニー地方とオランダ語を話すフランドル地方との間での対立から政治的空白が頻発しているベルギー。ついに、その分裂が確かなものになってきたようです。

以前にもご紹介しましたが、ベルギーは3つの地域に分けられています。工業を中心に新しい産業が発達し、住民の所得も高い北部のフランドル地方と、昔ながらの炭鉱、農業に依存し、経済的に苦しい南部のワロニー地方、そして、オランダ語圏に飛び地のようにある、フランス語話者の多い首都ブリュッセル。

産業構造の転換を行い、経済的豊かさを享受するフランドル地方は、以前から分離独立を主張してきました。6月13日の総選挙(下院定数:150議席)でも、独立を強硬に主張する政党“NV-A”(新フラームス同盟)が第一党になりましたが、獲得議席数はわずか27議席と、小党分立の状態。しかも、ドウェーバー党首は首相の座にはこだわらないと明言。

そこで、26議席を獲得して第2党となったフランス語圏の社会党がオランダ語圏の社会党と手を組めば連立政権が成立するだろうと、ワロン系社会党のエリオ・ディ=ルポ党首を中心に組閣工作に着手しました。しかし、3カ月。ついに断念。国王も、社会党による組閣断念を受け入れました。ベルギー、再び三度、政治空白に突入です。

新フラームス同盟は、各地域がそれぞれの経済力に応じて暮らすべきだと主張し、一方のワロン系社会党は地域格差の拡大を懸念。貧しい地域への手厚い補助金を求めています。国としての将来像を共有できなかったようで、結局、溝を埋めることができませんでした。

国王は経済対策、財政再建策の実施へ向け、政治空白を少しでも短くしたいと、両地域それぞれ一人ずつの調停者を任命し、今回の政治危機を脱するために話し合いを始めるよう命じました。

そして、今回の連立不成立を受けて、今までは分離独立に消極的だったフランス語圏の政治家たちからも、ベルギーの終焉に備えるべきだという声が上がり始めています。例えば・・・

「分離独立となれば、その影響を最も深刻に受けるのは貧しい人々だ。国として存続できることが望ましいのだが、フランドル地方の大部分の人たちが分離を望んでいることは無視できない。従って、貧しい人々が困らないよう、ベルギーの終末に対して準備をすべき時になってきている。さもなければ、いざ独立となった時にあたふたとし、物笑いの種になりかねない。」

「流動的な状況に対応すべく、すべての仮定を考慮に入れておく必要がある。少なくとも、自分たちのことは自分たちでやらなければならないということだけは確かだ。しかし、ワロニー地方とブリュッセルは、今でも自分たちの足で立つことができる。明日まで待つ必要はない。」

「今や分離独立へ向けての漸進的準備の段階に入っている。」

調停作業がどうしてもうまくいかない場合は、再び総選挙を行うことになるそうで、その場合は分離独立を叫ぶフランドル地方の政党の勢いがさらに増すことが予想されています。

5日の日曜日には、フランドル地方に住むオランダ語を話す人たちが、ブリュッセルへ向けて自転車で、あるいは徒歩で大行進を行いました。目的は、ブリュッセルとその郊外に多く住むフランス語話者たちに、フランドル地方に住んでいるなら、オランダ語を話し、フランドル地方の文化風習に従うべきだと訴えるため。毎年恒例の行進なんだそうです。

フランドル地方に続いてワロニー地方でも、分離独立の声が上がり始めた・・・ベルギーの国家としての命運は、風前の灯、なのでしょうか。EU統合の中心地ブリュッセルを首都とするベルギーの分裂。非常に皮肉な状況です。しかし、まとまる人がいれば、分かれて出て行く人もいる。離合集散は人の常。せめて、分離独立が流血の騒ぎにならないことを願っています。

リネール、怒る。コーチ、すべては2年後。

2010-09-17 20:12:58 | スポーツ
テディ・リネール(Teddy Riner)。現代フランスの英雄の一人です。2年前の北京オリンピックでも、最も活躍が期待される選手でした。ご存知ですよね、“judoka”・・・柔道家です。

北京オリンピックの前年、リオデジャネイロでの世界選手権で、100kg超級で優勝。わずか18歳で世界チャンピオンに。柔道の競技人口では日本を上回るフランス。一躍スターに。北京オリンピックでは、惜しくも金メダルを逃し、銅メダルでした。しかし、その雪辱に燃え、その後は一度も負けず、昨年のロッテルダムでの世界選手権でも100kg超級で見事優勝。そして、今月の世界選手権東京大会へ。

その結果は・・・100kg超級では、またしても見事優勝。そして、無差別級へ。危なげなく勝ち進み、決勝へ。上川大樹選手との一戦は、大接戦に。互いにポイントを取れないまま、延長戦へ。そこでも決着はつかず、旗判定に。2対1という僅差で、上川選手の優勝。

この判定に納得できないリネール選手は、試合後の礼も握手も拒み、表彰式でも記念撮影を拒み勝手に降壇。説得されて撮影には何とか応じたものの、怒り収まらず、看板に八つ当たり・・・

そんなリネール選手について、ル・モンド(電子版:13日)が伝えています。

試合直後、興奮したままのリネール選手は、金メダルを盗まれた、と言っていました。技をかけていたのは、自分だ。相手の選手は俺の向こうずねを蹴るばかりで、技一つ出さなかった。トウキョウで、こんなアンフェアな判定が行われるなんて考えてみたこともなかった。戦ったのは自分なのに、勝ったのは相手。試合を支配したのは自分、より多く攻撃したのも自分、より多く相手を危険にさらしたのも自分。相手にはもっと指導が出されるべきだった。自分が勝つべきだったんだ。

怒りまくるリネール選手に対し、ル・モンドは、世界選手権で5つ目の金メダルを狙っていたテディ・リネールのフラストレーションは理解できるが、客観的に試合の流れを見れば、旗判定の結果もうなずけるものだ、と述べています。正規の5分間は、テディ・リネールに支配され、様子見に徹していた日本人選手だが、延長になると、より積極的になり、鋭い技を繰り出していた。延長での戦いが判定に影響したのだろう。もちろん、初めの5分間に、日本人選手により多くの指導が出されてしかるべきだったとは思うが。

5分の間に指導2回でリネール選手の有効勝ちでもおかしくはなかった。しかし、ホームタウン・デシジョンがあるのは、スポーツの世界の常。自分の技で有効や技あり、あるいは一本を取れなかったのだから、納得して諦め、次回に雪辱を期すべきだろう。こう言っているようですね。至極まっとうな意見だと思います。

暫くして、少し落ち着いたリネール選手は、ロイターのインタビューに答えて、畳の上で戦った自分が結果も一番よく知っている。ただ反省すべきは、防御に徹する相手を攻め落とす方法を見出せなかったことだ。あれだけ守り一辺倒なら、指導がもっと出てもよさそうなのに、そうはならなかった。自分はまだ21歳で経験も少ない。正攻法過ぎた。もっと狡賢くあるべきだった。自分が試合を支配していたが、決定的ではなかったということだ。まだまだ練習すべきこと、学ぶべきことがある。

一方、コーチのブノワ・カンパルグ(Benoît Campargue)は、取り乱すことなく、しかし旗判定の不公平さをしっかりと指摘しています。大会が始まって以来、判定の不公平さはずっと感じてきた。こうした状況下では、われわれの運命、メダルの色を決めるのは審判ではなく、われわれ自身なのだ。判定に持ち込まれる前に、勝負をつけるべきなのだ。こうした不公平で非難すべき判定によって敗北を喫しても、威厳を保ち続けることが大切。今日の試合を徹底的に総括・分析することが必要であり、その結果は2年後、ロンドン・オリンピックの最終日に明らかになるだろう・・・

ル・モンドはこのように伝えているのですが、スポーツ紙ではないからとはいえ、しごく客観的な記事ですね。あくまで事実、真実を報道する。たとえ発行部数は30万部程度であろうと、クオリティ紙にふさわしい記事を書く。そんなジャーナリズム魂も感じられますね。

日本のメディアなら、「疑惑の判定」とか、「盗まれた金メダル」といった大見出しが躍りそうですね。今の篠原全日本監督がシドニー・オリンピックで敗れた時の報道を思い出します。部数を上げるためなら、少々オーバーな表現であろうが、読者に迎合する書き方だろうが、許されるべき。マスコミだって、商売だ。確かに、大衆へ向けてのスピーカー。ジャーナリズムとはちょっと一線を画しているのかもしれませんね。

マスコミとジャーナリズム。こうした日仏の違いは、実は、読者、視聴者が求めていることによる差なのではないでしょうか。情報を受け取る側が、センセーショナルな話題を期待しているのか、真実を求めているのか・・・いずれにせよ、どちらが良い悪いではなく、社会全体に違いがあるということなのだと思っています。

孤立していく“Yen”、そして・・・

2010-09-16 19:47:42 | 政治
フランスで、民主党代表に菅氏が再選されたことよりも大きく報道されたのが、政府・日銀による市場介入。相変わらず、政治小国、経済大国なんですね。しかし、その経済も、今や先行き不透明・・・

15日のル・モンド(電子版)が、「円高に歯止めをかけるべく、日本が市場介入」(Le Japon intervient pour freiner l'envolée du yen)と伝えています。

それまで、日本政府関係者の発言に対し、市場は「口先介入」と半信半疑だったが、15日10時半、日本は円高阻止のために市場介入を行った。2004年3月以来の市場介入で、菅代表再選の翌日だった。

14日には15年来の高値1ドル82.87円を付けたが、政府・日銀による介入後、一気に円安に動いた。85円台をつけた後、84.85円前後に。野田財務大臣は、日本単独による介入であることを明かすとともに、引き続き市場の動向を注意深く見守り、必要な場合には介入も含め断固たる措置を取ると表明。

介入の背景にあるのは円高で、円がこれ以上伸長すれば、立ち直りかけている経済に悪影響があり、また15年来悩まされているデフレを一層悪化させるのではないかと心配されるからだ。円高はGDPの15%を占める輸出に悪影響を与えると、産業界からも警鐘が鳴らされていた。

しかし、介入の効果については、10年ほど前ならいざしらず、今日ではあまり期待できないという懐疑論が多く出ている。それは、外国為替の市場規模が大きくなってしまい、一国だけの介入では大きな効果が期待できないからだ。1日の取引高は、2001年には1兆5,050億ドルだったものが、今日では4兆ドルに膨らんでいる。

政府・日銀は、アメリカとヨーロッパの中央銀行に協調介入を求めたが、反応はなかった。世界的な経済減速に直面し、競争力低下をもたらす自国通貨高には各国とも神経質になっている。円安は他の国々にとって、良い知らせとはならない。

日本の今回の市場介入に対し、アメリカは歯ぎしりをしている。アメリカにとってプライオリティの高いのは、円を安くすることではなく、人民元を高くすることだからだ。6月中旬、中国はドルにほぼ固定していた人民元の変動幅を大きくすることで、為替介入による人民元安に対する各国からの非難を抑えつけたが、3カ月たち、あまり変わっていないことが明らかになっている。ドルに対して1.3%上昇しただけだ。

アメリカは日本からも中国へ圧力をかけてほしかったに違いない。日本サイドも、第1四半期だけで70億ドルに上る中国による日本の国債購入が円高要因の一つになっているだけに、中国に慎重な対応を求めていた。

しかし、日本政府・日銀による今回の市場介入により、為替介入をしているのは中国だけではない、というエクスキューズを中国政府に与えてしまい、外為市場における戦いを悪化させてしまう恐れがある・・・

というわけで、欧米各国からは、歓迎されざる市場介入になってしまったようです。しかし、どうして円の独歩高になっているのでしょうね。門外漢には不思議でなりません。アメリカ経済の先行きに不透明感があり、ヨーロッパは財政問題を抱え、消去法的に円が買われている、というのが良く聞く理由なのですが、はたして、日本の経済と財政は安心できるレベルにあるのでしょうか。外国に依存していないから大丈夫だとは言うものの、巨額な財政赤字。経済にしても、OECDが「世界経済は減速してはいるものの、先進国は二番底に陥る心配はない、日本を除いては」と述べています。10年以上にわたるデフレとの出口の見えない戦い、円高による輸出競争力の低下、政治の不安定によるFTAなど各国との交渉の停滞・・・どう見ても、円が買われる状況にあるとは見えないのですが・・・

それでも、円が買われる。それも、ドルやユーロに対してだけではなく、韓国・ウォン、中国・人民元に対しても。アメリカは金融立国から産業を振興し輸出による経済立て直しへと方向転換し、ヨーロッパもドイツを中心に輸出中心の経済回復を望んでおり、韓国・中国も輸出により自国産業の発展を狙っている。実際、サムソン、現代、ハイアールなど、海外でのシェアを伸ばしています。こうした国々にとっては、自国の通過が安い方がいい。

それは、日本も同じ。いや日本こそ輸出のためには円安が望ましい。しかし、円高が続く・・・どうしてなのでしょう。門外漢の思い付きですが、G8やG20において、いろいろと秘密会談も行われているのでしょう。しかし、毎回参加者が替わる日本は、挨拶だけで終わり、その輪に加われない。日本のいないところで、円高誘導により日本企業の競争力を弱め、そのすきに各国の輸出力を高めようという相談がなされていたとしたら・・・先進国クラブから除け者にされてしまった日本。政治の不安定、外交音痴。不満がたまると、最後にはついに暴発・・・いつか来た道。素人の思い付きが、大きな間違いであることを願っています。

取れるところから、取れ・・・外国人への増税。

2010-09-15 18:06:37 | 社会
ロマの国外追放で、さまざまな批判にさらされているフランスですが、追放しているのはロマの人々だけではなく、多くの不法滞在外国人も国外に追放しています。追放者の目標数まで決められていて、目標を見事にクリアした部署のトップには昇進の可能性も。まるで、民間企業の営業部門のよう・・・

外国人として異国に暮らすのは、何かと心細いものです。正式にビザを取っての滞在でも、滞在許可証への書き換え、その延長、所得申告、納税、社会保障・・・何か不備があれば、滞在許可も取り消され、国外退去に。どうしても、当局に対して弱腰になってしまいます。そんな外国人の気持ちに付け込むかのような増税がフランスで行われました。

伝えているのは、ル・モンド(2日・電子版)。「正規滞在の外国人が支払う税が大幅アップ」(Forte augmentation des taxes dues par les étrangers en situation régulière)。

まったくと言っていいほど一般フランス人の耳目に触れることはなかったが、6月24日の政令で、正規に滞在する外国人(EU加盟国出身者を除く)が滞在許可証に関して支払うべき税金が大幅に引き上げられた。

滞在許可証を初めて発行してもらう際に支払う税金が、300ユーロから340ユーロ(約37,000円)へ13%の値上げ。滞在許可証の更新時は70ユーロから110ユーロ(約12,000円)へ57%ものアップ。

10年ビザは管轄する知事の判断に委ねられており、結果として毎年更新する一時的ビザで滞在する外国人が多くなっている。従って、毎年110ユーロ支払わざるを得ない外国人が多くなっている。

どれくらいの人数がいるかと言うと、2008年には、81,000の滞在許可証が新たに発行され、更新された滞在許可証はおよそ50万部。従って、滞在許可証関係で2,100万ユーロ(約23億円)ほど多く国庫に入る勘定になる、ということだそうです。

移民に関する支援や情報提供を行っている“le Gisti”(Groupe d’information et de soutien des immigrés)は、経済危機により一層きびしい生活苦に直面している外国人からさらに税金を徴収しようとしているのはけしからん、とこの政令を強く非難しています。

因みに、フランス人が身分証明書を発行してもらうのは無料ですし、10年有効のパスポートは86から89ユーロ(約9,700円)で発行してもらえるそうです。フランスはフランス人のためにある。フランス人に対してより優しい施策を行うのは当たり前だ、ということでしょうか。その分、外国人には厳しい・・・

もうひとつ、因みに、ですが、フランスに1年以上滞在する場合に必要な一時滞在許可証。どのような種類があるかというと・・・

●一時滞在許可証(carte de séjour temporaire)
・就労ビザ(salaire / détaché / travailleur temporaire)
・ビジタービザ(visiteur)
・アーティストビザ(artiste sous contrat)
・自由業ビザ(profession libre ou indépendante)

フランスに暮らし始めてすぐに取得しなければならない滞在許可証。西も東も分からないうちですから、ものすごく大変ですね。しかも、毎年の更新。要求される書類も多く、面倒ですが、怠ると、国外退去。外国に暮らすのは、何かと大変です。そこへ、外国人だけを狙った増税。

長年の移民受け入れの経験から滞在外国人に対して何かと厳しいのか、サルコジ大統領の保守票欲しさの一時的な措置なのか。でも、一般のフランス人にはほとんど知られていない増税ということは、ロマの追放とは異なり、有権者向けの選挙対策ではないようです。取れるところから取ってしまえ、ということなのでしょうね。それに、フランスに住みたいという外国人は多いですから、嫌なら出て行け、ということなのでしょう。

一方、我らが日本のなんと優しいことか・・・子供手当や生活保護をはじめ、長期滞在外国人にやさしい措置がいろいろありますね。何らかの戦略に基づく措置なのか、制度上の不備が結果として外国人にやさしい施策となっているのか。滞在外国人を増やし、社会の活性化、経済成長の原動力の一つにしたいといった戦略が明確にあるのならいいのですが。単なる不備なら、政治・行政にもっとしっかりしてもらわないと困りますね。

長期滞在外国人とどう付き合うのか・・・隣り近所付き合いだけではなく、さまざまな面から検討することが必要なようですね。

自殺も「経済」で考えよう!?

2010-09-14 20:23:44 | 社会
日本は自殺者の多い国として有名ですね。10年以上にわたって、毎年3万人以上の自殺者が出ています。何とか少なくしたいと、官民挙げて取り組んでいますが、なかなか効果が現れない・・・日本の自殺を巡る話題を、ル・モンド(11日・電子版)が伝えています。

うつ病を隠し立てせずきちんと治療できる体制を整備し、自殺者を減らそうと、それなりの取り組みが行われてきていますが、期待していたほどの効果が現れていないのが現状。例えば、2000年には、失業問題を改善するとともに、企業内でのフォロー体制を拡充することによって、2010年までに自殺者数を20%減少したいと述べていましたが、残念ながら効果は出ていない・・・

また「いのちの電話」を2001年に創設しましたが、活動に充てる十分な予算を獲得するのに苦労するありさまで、300名のボランティアが年間27,000件の電話相談に対応せざるを得ない状況になっている・・・

2009年には、2016年までに自殺者を23,000人に減少させることを目標に、1億5,400万ユーロ(およそ160億円)の追加予算を決定したが、はたして、どれほどの効果が期待できるのでしょうか・・・

こうした状況の中、厚生労働省が国立社会保障・人口問題研究所に依頼して、自殺やうつ病が経済に与える影響について算定しました。7日に長妻大臣が公表したところによると、自殺によって失われた生涯所得は1兆9,028億円に達し、うつ病患者への労災補償や休業で失われた賃金などは、7,754億円になるそうです。つまり、自殺もうつ病もなくなれば、2兆6,782億円の経済貢献になる、ということのようですね。

自殺による経済損失を日本政府が計算したのは初めてですが、これはイギリスの例に倣ったことだそうです。イギリスが実施したのは1998年で、うつ病に関連する支出は432億ユーロの経済損失に相当するという結果が出た。そこでイギリス政府は、心理療法が受けやすくなる体制をさっそく整備。その結果、人口10万人当たりの自殺者が1997年には9.2人だったものが10年後には7.8人に減少したそうです。

日本の自殺者は10万人当たり26人。イギリスのおよそ3倍。果たして今回の調査が現状を改善することに役立つのでしょうか。菅首相は、自殺対策は「最小不幸社会」(une société avec moins de souffrance)の実現に役立つと言っているようですが・・・

ところで、なぜ日本社会には自殺が多いのでしょうか。ル・モンドが考えた理由は・・・

日本社会の自殺に対するイメージが、自殺対策を実効あるものとする妨げとなっている。日本では、モラルや宗教が自殺を思いとどまらせることはない。しかも、自殺という行為自体が、幾分かの評価を得さえする。つまり、サムライ精神から引き継がれ、今日でも保守的で伝統を大切にする人々に支持されている価値観だ。サムライ、カミカゼ・・・「自死」は日本的美意識を体現しているということなのでしょうか。

しかも、現実問題としては、心理療法が保険対象外で、自己負担。サイコセラピーを受ける際の費用は、1時間75ユーロ(約8,000円)。うつ病を患っている人は、職業上うまくいっていない人も多く、経済が20年も停滞している日本社会で、この治療費は高すぎる。実際、2008年には世界保健機構(OMS:l’Organisation mondiale de la santé)が日本における精神治療体制の構造的問題を指摘しているほどです。

こうした価値観的背景や現実問題を考慮に入れれば、労災認定を受けるケースが増えてきているとは言うものの、自殺者減少という課題が、そう簡単に解決されるだろうとは思いにくい・・・なるほど、サムライ、美意識などが好きなフランスのメディアらしい分析ですね。

ところで、自殺・うつ病がもたらす経済損失を算出して、どうするつもりなのでしょうか。こんなに経済損失が大きいのだから、自殺者を少しでも減らすように頑張ろう!ということなのでしょうか。でも、こうした意識は、自殺を少なくする仕事に携わっている人たちの尻を叩くには効果があるかもしれませんが、自分の人生の幕を自らの手で引こうとしている人間には、どんな意味があるのでしょうか。あるいは、うつ病に苦しんでいる人たちに、お前たちがうつ病でなければ、これだけの経済損失が無くてすむんだ。甘えるのもいい加減にしろ、ということなのでしょうか・・・せめて、イギリスがやったように、心理療法を受けやすくしてほしいものですが、心理療法とか精神治療への心理的抵抗感を考えると果たしてイギリスと同じような効果が期待できるものかどうか・・・

イギリスがやったから、日本もやってみた・・・自民党はアメリカの後を盲従していた。これから民主党はイギリスを追う、ということなのでしょうか。これでは、いつまでたっても、キャッチ・アップの国。長年中国から学び、維新後は欧米列強に追いつけ、追い越せ。そして、戦後はアメリカに倣う。そろそろ、自分の社会くらい自分の手で変えていってもいいのではないでしょうか。

日本の自殺・うつ病を減らすには、どうしたらいいのか。日本には自ら考える力があるはずです。科学技術力は、非常に高く評価されているのですから、社会の仕組みだって、その気になれば、優れたアイディアが出てくるはずです。日本の社会は、私たちの社会。わたしたちの知恵で良くしたいものです。

頑張れサルコジ・・・イギリスから皮肉なエール。

2010-09-13 19:10:02 | 政治
調査によっては、2007年の就任以来最低の支持率になっているサルコジ大統領。2012年での再選を目指して、さまざまな手を打っていますが、逆効果になるものもあり、スキャンダルも止む気配がない・・・

こうしたサルコジ大統領の現状を、イギリスの歴史ある週刊誌“The Economist”が風刺漫画、記事、論説で紹介しています。9日のル・モンド(電子版)によると・・・

10日に発売になった『エコノミスト』誌の第一面で読者が目にするのは、優雅なカーラ夫人の脇に、短い脚がちょこんと覗く大きなナポレオン帽子。その大き過ぎる帽子に隠れているのがサルコジ大統領であることは、誰の目にも明らか。

フランス大統領夫人として初めてイギリスを公式訪問した際、その優雅な出で立ち、スマートな身のこなしで、エリザベス女王をはじめとするイギリス王室や皮肉で知られるイギリスのメディアの心をしっかり掴んだカーラ夫人は、『エコノミスト』の風刺漫画でも優雅に描かれています。一方、サルコジ大統領は・・・

背の低さ、何事でも自分で決めようとする態度から、サルコ・ナポレオンとも呼ばれているサルコジ大統領。その特徴を強調されて、なんとナポレオン帽の中。しかもタイトルは、“L'incroyable président qui rétrécit”(縮んでしまった、信じられない大統領)。

背が低いのはもともとですが、縮んでしまったというのは、大統領としての存在感がなくなってしまった、という意味だそうです・・・5年の任期も3年が過ぎ、当初の改革者としてのイメージも今は薄れてしまった。難問や戦略的ミスに直面している。ロマ問題、支持率の低下、スキャンダルの連続・・・12年の大統領選に向けて、与党内からも不安の声が上がっている。

『ル・モンド』によると、『エコノミスト』は単にサルコジ大統領を非難しているのではなく、就任当時の「偉大なサルコジ大統領」に戻ってほしい、とエールを送っているのだということだそうです。どこが偉大だったかというと、フランス国民が聞きたくないことをずけずけと言ったこと。特に、「もっと働け!」という一言。退職年齢を2018年までに60歳から62歳に引き上げるという現在の改革案は、まだまだ遠慮しすぎだ。勇敢な大統領なら、もっと引き上げることができるだろう。臆病で反動的な今日のサルコジ大統領では、大した改革もできないだろう。しかし、自信のあった以前のサルコジ大統領なら、失うものは何もない、やってみようと、思ったに違いない・・・

改革、改革・・・アングロ・サクソン、特にその金融界は「改革」が大好きですね。イギリスでも、アメリカでも行ってきました。一時的には状況が良くなることがあっても、長い目で見た場合には・・・改革には「改正」になる場合もあれば、「改悪」になることもある。改革と叫べばすべてが良くなるのというわけではないと思います。もちろん、悪習、旧弊は取り除く勇気を持つべきなのですが、外からはどう見えようとも、国民にとってプラスであることは維持すべきなのではないでしょうか。アングロ・サクソンの金融界は、改革を日本も含め多くの国々に押し付けようとしますが、それは、その国のためを思ってのことなのか、他国を利用して自らの懐を暖かくしようとする魂胆なのか・・・

ビジネスとは、つまるところ、金儲け、ですよね。社会的貢献とか言いますが、本音では、最終目標は利潤を上げること。であるとすれば、金融の世界においても、改革を日本に押し付けてきたのは自らの利潤の追求であり、日本のためではない。そう思えてきます。

ゴキブリ野郎などとは、もう言わせない!

2010-09-11 19:20:01 | 社会
キッチンの片隅でうごめくゴキブリを見つけるや、大騒ぎ。キャーキャー言いながら、モップを振り回し、バタン、バタン・・・でも、敵もさる者、素早い動きで逃げおおせてしまう。残念!

ごみ箱など不潔そうな場所に生息するためか、その黒褐色の色からか、ゴキブリはまったく良いイメージを持たれていませんね。ゴキブリ野郎なんて言われたら、たまったものではないですね。

その忌み嫌われているゴキブリが、なんと既存の抗生物質に耐性を示す細菌をやっつけてくれそうだという、ありがたくもびっくりな研究結果が発表されました。7日のル・モンド(電子版)が伝えています。

発表したのは、イギリス・ノッティンガム大学のチーム。ゴキブリやバッタの脳や神経線維の中に、既存の抗生物質に耐性を示すバクテリアを殺菌する9種類の分子を発見したそうです。これらの成分は、人間の細胞にダメージを与えることなく、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌や大腸菌の90%以上を死滅させたということで、現在の抗生物質では治療の難しい感染症治療に役立つのではないかと期待されているそうです。

チームの一員で、大学の医学・獣医学部の大学院生、サイモン・リー氏曰くは、今回の発見は、以前から予想されていたことだ。なぜなら、ゴキブリなどの昆虫は、何種類もの細菌がうようよいる不衛生な場所に生息しており、そうした環境で生き抜くためには、微生物に対する抵抗力が発達しているはずだから。

ゴキブリの身を守る成分が抗生物質として人間にも活用できる、というわけなのでしょうね。しかも、現在使用されている抗生物質は、効果的だが副作用のあるものも多い。それに対し、ゴキブリなどから抽出される新しい抗生物質は、副作用の心配がいらない。現状の抗生物質に取って代わる日も近いのかもしれないですね。

これからは、ゴキブリが人類を病気から救ってくれる! 「ゴキブリのような人」のイメージが180度、変わってしまうかもしれませんね。恵まれない環境を生き抜き、やがて人のためになることを成し遂げる、立派な人・・・こんなふうになりますか、どうか?

それにしても、発想を転換すると、面白いことが見えてくるものですね。不潔な場所で有害な細菌に取り囲まれて生きているからには、細菌に対する耐性物質を分泌しているに違いない! その物質を抗生物質として活用しよう!

ということは、あまりに清潔な環境で生きていると、細菌などに対する抵抗力が弱まってしまう・・・過ぎたるは猶及ばざるがごとし。戦後の闇市から出発し、豊かさを求め、豊かな暮らしは衛生的な暮らしだと思い込み、必死で、清潔な暮らし、衛生的な暮らしを求めてきましたが、今、周囲を見回して、どうでしょう、行き過ぎてしまっているのではないか、と思われる点はありませんか。それとも、まだまだ、改善の余地あり、でしょうか。

わたしたちの性向として、目標を定めると、一気呵成、どこまでも突き進んでしまう傾向が無きにしも非ず。時には立ち止まって、この辺で十分なのではないかと考えてみるゆとりがあるといいのではと思うのですが、やはりそれでは甘い、とことん追求しなくては、何事も成就できない、ということなのでしょうか。徹底的にこだわり、つねに完璧を追い求めるべきなのか、中庸を得、足るを知るべきなのか・・・ケース・バイ・ケースなのでしょうが、判断が難しいですね。

「人権の国」の看板に、偽りあり!

2010-09-10 19:53:01 | 政治
フランスと言えば、人権の国。今から221年も前(1789年8月26日)に『人権宣言』(Déclaration des Droits de l’Homme et du Citoyen)を制定し、連綿とその系譜を引き継いでいます。人権を無視、あるいは蹂躙している外国の政府に対しては、強硬に是正を勧告、あるいは介入。人権外交と言ってもいいような態度で臨んでいますが、そのフランスが人権に関する是正を勧告されています。

数年前から指摘されているのは、囚人の人権問題。刑務所の定員を超えて収容していることも原因し、囚人の人権無視的な状態が続いているとか。そして、最近問題視されているのが、ご存知、ロマの国外追放。

欧州連合(EU、加盟27カ国)の欧州議会(定数736)は9日、フランス東部ストラスブールでの本会議で、フランスなどの加盟国政府に対して、少数民族ロマの「追放」を即時停止するよう求める決議案を賛成337、反対245、棄権51で採択した。決議に法的拘束力はないが、サルコジ仏政権への政治圧力となる。
 決議は、欧州市民であるロマを犯罪対策の一環としてルーマニアなどに送還したフランスの措置に「深い懸念」を表明。さらに加盟国政府がEU法を順守し、欧州市民に保証された「EU域内移動の自由」の原則に沿うよう国内法の不備を改めるよう求めている。
 決議案を提出したクロード・モラエス議員(英国)は毎日新聞の取材に「ロマを集団的に退去させているフランスのEU法違反は明白だ。EUの前身時代からの原加盟国であるフランスの措置が認められれば他国に波及し、追放のドミノ現象が起きかねない」と警鐘を鳴らす。
(9月9日:毎日)

ル・モンド(電子版・8月31日)も、国外追放の命令を受けた7人のロマの弁護を引き受けたクレマン(Norbert Clément)弁護士へのインタビューを通して、実態を紹介しています。

結果から言うと、クレマン弁護士や支援団体の協力で、7人のロマの人たちへ出されていた国外追放の命令はリール(市長は、社会党のオブリー第一書記)の行政裁判所で取り消されました。どうやって、国外退去の命を覆すことができたのでしょうか・・・

7人のロマの人たちが住んでいたのは、フランス北部、ベルギー国境に近いモン・ザン・バルール(Mons-en-Barœul)。彼らは、横断歩道以外のところで道を渡ったこともあったかもしれないし、公共の場でタバコを吸ったこともあったかもしれない。しかし、基本的にはフランスの法律をきちんと遵守し、刑事事件に関係したこともない。地域の決まりにも従ってきた。3カ月以上フランス国内に滞在するには暮らしていけるだけの財産が必要なことも、また県の発行する許可証が必要なことも十分知っている。7人のうちの数人は、低家賃住宅(HLM:Habitation à loyer modéré)への申し込みや子供たちの通う学校への申請を始めたところだし、残りの人たちは決められた期間だけフランスに滞在するつもりでいた。

それがある日の朝6時、警察によって連行され、留置されてしまった。その理由は、他人の土地に勝手に住みついたこと。彼らは子どもも含め、家族全員で警察に留め置かれ、6時間後に解放されたが、住んでいたところに戻って見ると、住んでいた仮設の住まいは、見事に取り払われていた。そして、他人の土地に勝手に住みついていたことを理由に、国外追放の命令を受けた・・・

しかし、他人の土地を違法に占拠しているケースでは、罰金刑が一般的。決して治安を乱すような犯罪ではない。それなのに国外追放に、それも2,000㎞も離れたルーマニアに送還するのは、違法な決定ではないか、とクレマン弁護士ら支援者が行政裁判所に提訴。それも、締め切り8分前という滑り込みセーフの提訴手続き。

国外退去の命が出された場合、48時間以内に異議申し立てをしないと、その命令は確定し、決して覆すことができなくなるそうです。この件の7人は、弁護士や支援団体に恵まれていたので、提訴する事ができましたが、フランス語もよく分からず、まして法的手続きには全く疎い外国人が、こうしたケースで命令を覆すのは至難の業。

そのため、多くのロマの人たちが、通常なら罰金で済むような理由で、国外追放にあっているそうです。結果、政府が自慢げに発表したように、今年7月28日から8月17日までの間に、151人のロマが強制的に祖国のルーマニアやブルガリアに送還され、828人が自主的に出国したそうです。しかし、クレマン弁護士によると、強制追放にあったロマの半分は、違法な命令によるものだろうということです。

国外退去の命令を取り消したリールの行政裁判所の決定で、暫くは当局の対応も穏便になるだろうが、国政のトップからして、ロマの人々を犯罪者とみなすような発言を繰り返すようでは、警察が超法規的な理由で国外退去の命令を出すことは、今後も続くのではないか・・・こう、クレマン弁護士は危惧しています。

退職制度改革(年金受給開始を60歳から62歳へ、など)、失業問題、景気の回復、財政赤字の解消・・・多くの国内問題を抱えたサルコジ政権。支持率も、大統領就任以来最低に落ち込み、なんとか国民の目を外に逸らしたいということでしょうか。2012年の大統領選での再選を目指し、右翼・極右の取り込みを図っているという見方もありますが、いずれにせよ、ロマをはじめ、移民や外国人に対するフランス国民の反感を意図的に煽っているような気がしてなりません。「違い」への不寛容を為政者が煽っている・・・保身のためとはいえ、後世に大きな禍根を残すことになるのではないでしょうか。

どうも、「不寛容」がフランスだけではなく、世界的に広がってきているのではないでしょうか。自分の暮らす社会、あるいは自分の人生への不満が、他者、それも弱者、少数派への攻撃という形を取って弾けつつあるのではないでしょうか。なんとなく危険な煙が漂い始めているようで、不安になります・・・

パイロットの履歴書が、安全じゃない!

2010-09-09 19:43:03 | 社会
空の安全は、機体はもちろんですが、パイロットの腕・経験に託されている部分もありますよね。そのパイロットたちの履歴書に、偽りが!

エール・フランスでは、もちろん、ありません。問題を指摘されたのは、中国のパイロットたち。6日のル・モンド(電子版)が伝えています。

ご記憶の方もいらっしゃるかもしれませんが、8月24日、河南航空のエンブラエル機が着陸に失敗。滑走路から1.5㎞先のところで、機体が断裂、炎上。96人の乗客・乗務員のうち42名が死亡という大惨事でした。54人は奇跡的に助かりました。

事故のあったのは黒龍江省・伊春市の空港で、山間部にあるため夜間の離着陸はやめるよう指導されていたそうですが、事故のあったのは、午後10時過ぎ。事故調査委員会が、人的ミスも含めて、調査を開始。

そこで見つかったのが、パイロットたちの履歴書詐称。河南航空にあるということは、ほかの航空会社のパイロットたちの間にも同じ問題があるのではと、さっそく全航空会社のパイロットたちを調査したところ・・・

なんと、200人以上が履歴詐称をしていた! そのうちの半数が、河南航空の親会社である深セン航空のパイロットたち。香港に近く、早くから経済特区として開けた深セン。そのせいかどうか、脱税、密輸など、多くの犯罪が摘発されたりしていますが、パイロットたちも履歴詐称。詳細は紹介されていないのですが、パイロット歴が少々長く記載されていたなどならまだいいとして、民間航空機のパイロット資格(日本の定期運送用操縦士のような資格)がない人が操縦かんを握っていたなどということは、なかったのでしょうか。なんでもありの中国。心配になります。

なんでもありと言えば、中国に駐在していた際、以前国家統計局に勤めていたというある中国人スタッフが言っていました。中国の統計数字は信用できない! 何しろ、政府の上層部が喜ぶように、数字を改ざんするのが当たり前になっているから。10数年前に聞いた話ですが、今日でも、同じような傾向が残っているのではないでしょうか。経済成長を省ごとに、あるいは市ごとに競う。そのため、統計数字を水増しする。ありえそうですね。市や省の水増しが少しでも、それが国の数字として集計されると・・・しかも、国家は国家で、都合のよいように増減することも可能。

もう一つ思い出したのは、経理担当の中国人スタッフの言ったこと。彼女いわく、帳簿は3つある。1部は外国人経営陣に見せるもの。1部は税務当局に提出するもの。もう一部は、自分用。しかも、その3冊、提出先に合わせて、数字がそれぞれ異なっている・・・本当の数字は、どれだ?

インチキ商品が巷にあふれ、インチキ数字が統計上を闊歩し・・・こうした環境で生き抜いているのですから、中国の人たちは、逞しい! 関係ないかもしれませんが、上記の航空機事故でも過半数が生き残った!

しかし、私たちは、そこまで逞しくありません。世界の工場から、世界の消費地へ。ビジネスを求めて、多くの外国人が中国へと向かいます。観光地としても、注目されています。外国からのビジネス・パーソンや観光客の中には、私たちのようにさほど逞しくない人間も含まれているでしょう。どうか、せめて、パイロットや交通に携わる人たちのクオリティには厳重なチェックを!

しかし、履歴詐称のパイロットがたくさんいたにもかかわらず、今年8月の事故は、中国国内の航空事故として6年ぶりのもの。2004年11月21日、内モンゴル発上海行きの飛行機が離陸直後に墜落して55人が死亡して以来、2,012日ぶりの事故だそうです。履歴詐称というちょっと怪しげなパイロットが多いわりには、これはこれで、なかなか立派。中国の人たちの優秀さの一端が表れているのかもしれないと、中国滞在の長かった私は変なところで感心してしまったりするのですが、はたして皆さんの安心材料になるものかどうか・・・

過ぎたるは、停職・・・Shoahの場合。

2010-09-08 20:07:06 | 社会
「過ぎたるは猶及ばざるが如し」と言いますね。個性の国・フランスでも、度を超すといけない場合もあるそうです。8月31日のル・モンド(電子版)が伝えています。

度を超してしまったと非難されているのは、高校教師のペデルゾリさん(Catherine Pederzoli)。ナンシーの高校で歴史を長年教えてきた、58歳のユダヤ人女性です。授業中および強制収容所跡への修学旅行の際に、中立性と政教分離の原則に反した教育を行った、という理由で4カ月の停職を命じられました。

彼女は、ここ15年ほど、教え子の高校生をポーランドやチェコに残る強制収容所跡へ連れて行っています。その中には、もちろんアウシュヴィッツも含まれています。当初は何ら問題はなかったのですが、3年前に校長が替わってからは、彼女は何かと非難の対象となり、いろいろとトラブルに見舞われてきたとか。ユダヤ人に反感を持つ人物が校長になってしまったということなのでしょうか・・・

特に、昨年12月、文相のLuc Chatel(リュック・シャテル)がナンシーを訪れた際、彼女の教え子たちがデモを行った。強制収容所跡を訪問する修学旅行への参加人数を半減されたことに対するデモだったのですが、これが最後のだめ押しとなったようです。生徒たちを焚きつけて、デモを組織した。さらには、生徒たちを洗脳している!

そこで停職4か月の決定がなされたわけですが、この件で取材に訪れたマスコミに対し、ナンシー・メッスを所管する教育委員会は、今回の決定は調査委員会の事前報告書に基づくものだと言っているそうです。その事前報告書を通信社のAFP(Agence France-Presse)が入手。その事前報告書の中で調査委員たちは、彼女の教育が政治的見解の表明を差し控える義務、中立性、政教分離に反していると指摘。さらには生徒たちを洗脳し、自分の言い成りにさせていると非難。また、強制収容所跡への修学旅行の準備に時間をかけ過ぎていると問題視しています。

しかし、問題を大きくしたくはないのでしょう、教育委員会は、今回の停職4か月の決定は、修学旅行に関する一般的な問題から派生していることで、ショアの歴史や記憶を教えることに関係しているものではないと強調しているそうです。ショア(la Shoah)とは、カタストロフといった意味で、フランスではこの語でホロコーストを意味しています。教育委員会は、さらに、停職中も彼女の給与は支払われると、言い訳がましく付け加えているそうです。

ペデルゾリさんは、自らの民族の悲惨な歴史を、次代を担う高校生たちにしっかり伝えていきたいと思っているだけなのかもしれません。しかもその教育の一環としての修学旅行。強制収容所を目の当たりにする教え子たちのために、準備もかなり時間をかけて行ったそうです。そうした熱心さが、周囲の非ユダヤ人教師たちから、白い目で見られることになってしまったのかもしれません。

停職処分を不服とするペデルゾリさんは、行政裁判所に取り消しを求めて提訴。2週間で、判決が出るそうです。彼女の弁護士は取材に応えて述べています。彼女がもしクリスチャンだったら、キリスト教についてどんなに熱心に教えても生徒たちを洗脳したとは言わなかったに違いない・・・

パリ4区に、「ホロコースト記念館」(Memoire de la Shoah)があります。この建物は、第二次大戦中に没収されたユダヤ人の財産を基に建設され、2005年1月から一般に公開されています。悲惨な記憶が風化しないように、多くの資料を蒐集し、整理、公開するとともに、ホロコースト関連のプロジェクトを支援しているそうです。展示されているのは、当時の悲惨さを今に伝える数多くの写真。そして、囚人服のような縞模様のみすぼらしい服や帽子、穴の開いてしまった食事用のボールとスプーンなど、実際に強制収容所で使われていた品々・・・なお、この団体の名誉会長は、アウシュビッツを辛うじて生き延び、戦後フランスで政治家となり、厚生大臣時代には妊娠中絶を合法化したシモーヌ・ヴェーイユ女史(Simone Veil)。その崇高な人格、強靭な精神力、確かな眼力は、今でも多くのフランス人から尊敬されています。

こうした立派な施設までありながら、それでも拭いきれないユダヤ人への差別意識。ペデルゾリさんの勤務する高校の校長だけがユダヤ人への反感が特に強いとは言い切れませんね。程度の差こそあれ、反ユダヤの感情は多くの人々の心に巣食っているのではないでしょうか。しかも、戦後65年の現在、こうした異民族に対する不寛容が燎原の火のごとく、世界のいたるところで広がってきているのではないでしょうか。ユダヤ人、ロマ、移民・・・人間は、少数派を犠牲にすることによってしか自らの不満を解消できない生き物なのでしょうか。