ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

自殺も「経済」で考えよう!?

2010-09-14 20:23:44 | 社会
日本は自殺者の多い国として有名ですね。10年以上にわたって、毎年3万人以上の自殺者が出ています。何とか少なくしたいと、官民挙げて取り組んでいますが、なかなか効果が現れない・・・日本の自殺を巡る話題を、ル・モンド(11日・電子版)が伝えています。

うつ病を隠し立てせずきちんと治療できる体制を整備し、自殺者を減らそうと、それなりの取り組みが行われてきていますが、期待していたほどの効果が現れていないのが現状。例えば、2000年には、失業問題を改善するとともに、企業内でのフォロー体制を拡充することによって、2010年までに自殺者数を20%減少したいと述べていましたが、残念ながら効果は出ていない・・・

また「いのちの電話」を2001年に創設しましたが、活動に充てる十分な予算を獲得するのに苦労するありさまで、300名のボランティアが年間27,000件の電話相談に対応せざるを得ない状況になっている・・・

2009年には、2016年までに自殺者を23,000人に減少させることを目標に、1億5,400万ユーロ(およそ160億円)の追加予算を決定したが、はたして、どれほどの効果が期待できるのでしょうか・・・

こうした状況の中、厚生労働省が国立社会保障・人口問題研究所に依頼して、自殺やうつ病が経済に与える影響について算定しました。7日に長妻大臣が公表したところによると、自殺によって失われた生涯所得は1兆9,028億円に達し、うつ病患者への労災補償や休業で失われた賃金などは、7,754億円になるそうです。つまり、自殺もうつ病もなくなれば、2兆6,782億円の経済貢献になる、ということのようですね。

自殺による経済損失を日本政府が計算したのは初めてですが、これはイギリスの例に倣ったことだそうです。イギリスが実施したのは1998年で、うつ病に関連する支出は432億ユーロの経済損失に相当するという結果が出た。そこでイギリス政府は、心理療法が受けやすくなる体制をさっそく整備。その結果、人口10万人当たりの自殺者が1997年には9.2人だったものが10年後には7.8人に減少したそうです。

日本の自殺者は10万人当たり26人。イギリスのおよそ3倍。果たして今回の調査が現状を改善することに役立つのでしょうか。菅首相は、自殺対策は「最小不幸社会」(une société avec moins de souffrance)の実現に役立つと言っているようですが・・・

ところで、なぜ日本社会には自殺が多いのでしょうか。ル・モンドが考えた理由は・・・

日本社会の自殺に対するイメージが、自殺対策を実効あるものとする妨げとなっている。日本では、モラルや宗教が自殺を思いとどまらせることはない。しかも、自殺という行為自体が、幾分かの評価を得さえする。つまり、サムライ精神から引き継がれ、今日でも保守的で伝統を大切にする人々に支持されている価値観だ。サムライ、カミカゼ・・・「自死」は日本的美意識を体現しているということなのでしょうか。

しかも、現実問題としては、心理療法が保険対象外で、自己負担。サイコセラピーを受ける際の費用は、1時間75ユーロ(約8,000円)。うつ病を患っている人は、職業上うまくいっていない人も多く、経済が20年も停滞している日本社会で、この治療費は高すぎる。実際、2008年には世界保健機構(OMS:l’Organisation mondiale de la santé)が日本における精神治療体制の構造的問題を指摘しているほどです。

こうした価値観的背景や現実問題を考慮に入れれば、労災認定を受けるケースが増えてきているとは言うものの、自殺者減少という課題が、そう簡単に解決されるだろうとは思いにくい・・・なるほど、サムライ、美意識などが好きなフランスのメディアらしい分析ですね。

ところで、自殺・うつ病がもたらす経済損失を算出して、どうするつもりなのでしょうか。こんなに経済損失が大きいのだから、自殺者を少しでも減らすように頑張ろう!ということなのでしょうか。でも、こうした意識は、自殺を少なくする仕事に携わっている人たちの尻を叩くには効果があるかもしれませんが、自分の人生の幕を自らの手で引こうとしている人間には、どんな意味があるのでしょうか。あるいは、うつ病に苦しんでいる人たちに、お前たちがうつ病でなければ、これだけの経済損失が無くてすむんだ。甘えるのもいい加減にしろ、ということなのでしょうか・・・せめて、イギリスがやったように、心理療法を受けやすくしてほしいものですが、心理療法とか精神治療への心理的抵抗感を考えると果たしてイギリスと同じような効果が期待できるものかどうか・・・

イギリスがやったから、日本もやってみた・・・自民党はアメリカの後を盲従していた。これから民主党はイギリスを追う、ということなのでしょうか。これでは、いつまでたっても、キャッチ・アップの国。長年中国から学び、維新後は欧米列強に追いつけ、追い越せ。そして、戦後はアメリカに倣う。そろそろ、自分の社会くらい自分の手で変えていってもいいのではないでしょうか。

日本の自殺・うつ病を減らすには、どうしたらいいのか。日本には自ら考える力があるはずです。科学技術力は、非常に高く評価されているのですから、社会の仕組みだって、その気になれば、優れたアイディアが出てくるはずです。日本の社会は、私たちの社会。わたしたちの知恵で良くしたいものです。