ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

いつまで続くのか、フランス・テレコム社員の自殺。

2010-09-20 17:48:25 | 社会
ここ数年、フランス・テレコムと言えば自殺、と連想されてしまうほど、社員の自殺が社会問題となっているフランス・テレコム。最近もまた、わずか2週間で5人もの自殺者が出たそうです。10日のル・モンド(電子版)が伝えています。

ちょっと前に日本の自殺についてご紹介しましが、今度はフランスの自殺。続けての話題で恐縮ですが、それだけ生きにくい世界になっているということなのかもしれません。

今回の5人を加えて、今年に入ってからのフランス・テレコム社員の自殺は23人。未遂も16人に上っています。フランス・テレコムが大変だ、危機だ、と大騒ぎされた2008年、2009年ですら、自殺者はそれぞれ17人、18人だったわけですから、今年さらに大幅に増えたことになります。

ここ2週間で自殺した5人には、退社後に橋から身を投げた人が1人いますが、会社内で自殺した人はおらず、仕事と自殺の因果関係はまだ調査中だそうです。しかし、妻を自殺で亡くした男性が会社を糾弾するメールを送付。そのEメールが社内を駆け巡り、同情と動揺をもたらしているそうです。

国営企業として独占的に事業を行ってきたフランス・テレコム。それが、株100%を国家が保有するとはいえ、株式会社化され、規制緩和により厳しい国際競争に巻き込まれた。その競争に打ち勝つには・・・どこでも同じですが、社員数削減と組織改編というリストラ。突然、初めての職種への異動、300㎞も離れた職場への転勤。そこは、見知った人もいない職場。そして、厳しいノルマを課される・・・

以前がぬるま湯過ぎた、過保護だったんだ、と言われれば、それまでなのですが、当事者たちにとっては、想像だにしていなかった激変。大きなストレスを抱え込むことになり、やがてうつ病に。精神安定剤や抗うつ剤のお世話になり、そしてついには・・・

自殺者の多さが社会問題となるにつれ、国も手を拱いているわけにもいかなくなり、経営陣の一部入れ替えを行い、鎮静化を図りました。こうした政府系企業の経営陣の交代、ENARQUE(ENA:国立行政学院の出身者)を中心とした高級官僚の玉突き人事が多いのが特徴ですね。

新たに加わった経営陣の中で、特に大きな役割を果たしているのが、ステファン・リシャール(Stéphane Richard)。昨年9月に国際事業担当役員としてフランス・テレコムに加わり、10月には国内部門の最高責任者となり、今年の5月からは社長。組合側も、リシャール氏がトップに就いて以降、昨年までのような動揺は社内から消えつつあることは認めています。労使の話し合いも再開されたし、強制的な異動は凍結され、組織再編も縮小されている。

しかし、ここにきて、新たな方針が発表されました。“It’s time to move”・・・フランス企業でも、スローガンに英語を使っている。ビジネス上の共通語は、明らかに英語ですね。このプログラムでは、管理職は3年ごとに異なる職種、異なる職場に異動することになります。

組合側も、一般社員の強制的異動は抑えられているが、管理職がストレスを抱え込めば、そのことが職場の雰囲気に何らかの影響を与えるかもしれないと危惧。しかも、経営方針が全く一新されたわけではない。以前のように大っぴらに公表されてはいないが、こっそりと、少しずつリストラが進行している、と警鐘を鳴らしています。

社会党をはじめ、左派がまだそれなりの議席を獲得し、組合が強いフランス。デモやストがいまでも頻繁に行われます。それでも、リストラによる死者が後を絶たない。人生と仕事。国際大競争の時代と言われます。競争で進歩するものもあるでしょう。進化のためには、競争は否定できません。しかし、同時に、人生について、人の心についても考える必要があるのではないでしょうか。大競争の中で、あるいは大競争の後の世界で、人はどう生きて行くべきなのでしょうか。何に価値を見出すべきなのでしょうか。心について考える人、そうした人たちからの声に耳を傾ける機会、そうしたものを失ってはいけないのではないでしょうか。特に、日本において。なにしろ、防衛省・自衛隊で毎年100人前後の自殺者が続いていると報道されているほどの国なのですから。