ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

彼も人の親だね、では済まされない話。

2010-09-19 20:25:43 | 政治
日本でいえば警察庁長官に当たる“le directeur général de la police nationale”の職にあるペシュナール氏(Frédéric Péchenard)が、取り調べを受けた息子の件をもみ消した、という話題が、16日のル・モンド(電子版)に出ていました。

事の発端は、1年半も前。2009年2月17日の深夜、シャンゼリゼを走っていた1台のスクーターが停止を命じられました。大声を出していたか、蛇行運転をしていたのでしょう、酔っ払い運転の疑いでした。そして、実際、酔っ払い運転をしていたことが判明。しかも、運転をしていた若者は停車を命じた警察官に悪態をついた。ろくな仕事してないな、お前なんか交通整理の係に異動させてやる!

その若者は、取り調べのために、8区の警察署に連行されました。しかし、すぐに釈放されてしまった。身元引受人が現れたからです。その身元引受人が、ペシュナール氏。留置されそうになった若者は、警察庁長官の16歳の息子でした。

長官は侮辱された警官と一対一で会い、話をつけたようです。そして、息子を留置しないように、検察の当直者にこの件を伝えないように、この件は忘れるように、と命じると、息子を伴って警察署を後にしたそうです。

1年半も前の事件が今頃になって表沙汰になったのは、日刊紙“Le Parisien”(ル・パリジアン)が警察署の内部資料と関係した警官の証言を記事にしたため。警察庁長官の周辺は、もちろん、この件について否定し、提訴を取り下げさせたこともないし、事件を葬り去ったこともない、と言っているそうです。しかし、2通の調書の抜粋と取り調べの際のメモが新聞紙上に公開されてしまっている・・・

飲酒運転と警官侮辱の罪で現行犯逮捕された場合、一般的には、禁固2年半と7,500ユーロ(約82万円)の罰金に処せられるそうです!

明らかに、職権乱用、ですね。しかし、我が子かわいさで、深夜にもかかわらず、自ら身柄を引き受けに来た。警察庁長官といえども、人の親・・・

彼も人の親だね、とかよく言いますが、フランス人も「人の親」では人後に落ちないようですね。警察庁長官しかり、そして、おなじみ、サルコジ大統領しかり。

昨年の秋、サルコジ大統領は、自らの次男を要職につけようとして、すさまじい反対・バッシングに会い、結局撤回しました。次男の名は、ジャン・サルコジ(Jean Sarkozy)。1986年9月1日の生まれですから、今年24歳。父親に似ず、長身のイケメン。すでに、大手家電量販店“DARTY”のオーナー令嬢と結婚しています。しかし、おつむの方は父親似なのか、高校卒業後、グランゼコール入学を目指して、名門校“Henri Ⅳ”(アンリ4世校)の準備学級に入りましたが、途中で断念。パリ第1大学の法学部に入学しましたが、2年から3年への進級に2年連続で失敗。去年の秋、まだ大卒の資格を得ていませんでした。

そんな状態で、サルコジ大統領は、わが子をパリ西郊・デファンス地区の開発を一手に引き受けているEPAD(Etablissement public pour l’aménagement de la région de la Défense)という公社のトップにつけようとしました。この組織、莫大な予算を握っています。なんとなく匂ってきますね。もちろん、マスコミをはじめ世論は大反発。経験も才能もない若造が、どうしてこんな大切な職に就けるんだ!

前任者は65歳の定年で退職しました。経験に裏打ちされたしっかりとした見識が求められる地位のようです。そのポジションに大学を卒業するのにさえ苦労している23歳をつけようとした。誰だった驚き、怒りますよね。“népotisme”・・・縁故主義とか依怙贔屓とかいった意味ですが、まさにその通りですね。

サルコジ2世は、その後、パリ西郊・ヌイイ市を地盤に、Hauts-de-Seine県の県会議員になるとともに、EPADの取締役になっています。どうしても、EPADのトップの座を狙いたいのでしょうか。

日本の政界でも世襲議員が多いですね。実力があればいいのですが、ただ政治家の息子だからというだけで、地盤・看板・かばんを引き継いだとすれば、国にとって、そして私たち国民にとっていい迷惑ですよね。しかし、議員の椅子を譲る親も、やはり「人の親」の気持なのでしょうか・・・

人の親の心は闇にあらねども子を思う道にまどひぬるかな(藤原兼輔:後撰集)