ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

テレビ映りが肝心ですね、大統領閣下。

2010-09-21 19:34:32 | 政治
9月14日、サルコジ大統領は、パリの南東15kmのところにあるVilleneuve-le-Roi(ヴィルヌーヴ・ル・ロワ)を訪問。目的は、900戸のアパルトマンという大規模な住宅建設現場を視察することでした。大統領が動けば、メディアが後を追います。夜のニュースでその映像が流される。翌日の新聞には、写真が掲載される。良くある話なのですが、事前にちょっと変わったお願いが大統領府から建設を請け負っているディベロッパーに届いたそうです。そのお願いとは・・・

14日のル・モンド(電子版)が伝えています。

現場で働いている作業員の中から、移民であること、勤務ぶりが模範的であること、いかにも成功した移民といったイメージをもっていること、という条件に合致する社員を選んで、大統領がメディアの取材を受ける際に、大統領から5m以内のところに立たせてほしい!

ディベロッパーの経営陣は、こうした依頼は受けていないと否定していますが、現場の責任者が認めてしまっています。

ロマや不法移民の国外追放などで、一部に大きな反発がある中、国民との関係を修復したい大統領にとっては、いかにも移民といった作業員と和気あいあいとした雰囲気を醸し出すことによって、移民への強硬な政策に対する反感も一時的にせよ和らげ、国民感情を幾分なりとも落ち着かせることができるのではないか。そんな計算があったのではないでしょうか。現代の政治家は、イメージ戦略、メディア戦略をなおざりにはできません。フランスとて、事情は同じようです。

しかし、サルコジ大統領が、視察先に依頼をするのは、実はこれが初めてではないんですね。以前、どんなキャスティング(castings)をしていたかというと・・・


2009年の夏、オバマ大統領がフランスを訪問した際には、与党・UMP(国民運動連合)の支持者の中から人選をし、フランスの庶民代表として二人の大統領の前に立たせたそうです。でも、これくらいはどこの国にもありそうですね。さすがサルコジ大統領、というキャスティングは、この後、出てきます。

2009年9月に自動車部品メーカーの“Faurecia”を訪問した際には、背の低い従業員を大統領に周りに立たせるようにという依頼があったと、従業員が取材したベルギーのテレビ局に語っています。大統領府は、もちろん、そんなばかげたことをするわけがない、と否定をしていました。

今年に入ると6月22日、フランス南西部、ピレネーの麓に近いボルド(Bordes)の町にある、ヘリコプターや飛行機に搭載されるタービンの世界的メーカー・“Turbomeca”を訪問。その際には、大統領府の係員2名が先遣隊としてやってきて、大統領の周囲には身長1m70cm以下の人だけを集めるように指示。一方で、優秀な女性のエンジニアは遠ざけられてしまった。なぜなら、彼女の身長は、1m85cm。会社の経営陣はこの件を否定していますが、従業員が、メディアにしっかり証言しています・・・

良く言えばエネルギッシュ、悪く言えば独断専行、そして身長の低いことから、サルコ・ナポレオンなどと言われていますが、ちょっと調べてみると、この名前、ナポレオンに失礼なようです。ナポレオンの身長は1m67cmだったと言われており、今日のフランス人男性の平均身長=1m75cmから背の低い男だったと思われていますが、ナポレオンが生きた時代のフランス人男性の平均身長は1m60cm以下だったというデータもあり、ナポレオンはむしろ身長が高かった。一方のサルコジ大統領は、160cm台前半と言われていますので、明らかに背が低い!

サルコジ大統領は背の低さがやはり気になるのでしょうね、上げ底靴を履いているとかいろいろ言われていますが、カメラ映りを気にして、周囲を背の低い人たちだけで固めているようです。イメージが大切。気苦労が多いようですね。

しかし、何でもかんでも自分でやろうとし過ぎると言われ、“omnipresent”、神出鬼没な大統領とか言われていますが、各地の現状も自分の目で実際に見ようとしています。現実から遊離してしまわないという意味では、いいことなのだと思いますが、もう少し、じっくりと政策を練ってもいいのではないかとも思えてしまいます。あまりにも現場に行っているのでは、現場第一主義の日本の経営陣と同じです。

日本はボトム・アップの社会ですから、現場の発想が大切で、社長もいかに現場に近いかを競っている。従って現場での改善・改革がうまく、現場のクォリティは非常に高いのですが、大きなビジョン、戦略が弱点になっている。一方フランスなど欧米各国は、トップダウンの社会。しっかりとした戦略をトップが構築し、それを現場に落とす。ただし、現場の質に「?」がついてしまうのが残念。

どうもサルコジ政権、日本型に近いのかもしれません。ENA(Ecole nationale d’administration:国立行政学院)出身でないため、フットワークと現場感覚で勝負しようとしているのでしょうか。しかし、現場にいるのは、国民に近いということを印象づけるイメージ戦略でしかなく、国民との意識の共有はできていないようにも思えます。2005年にパリ郊外などで発生した暴動の際には、参加者を「人間の屑」(la racaille)呼ばわりし、2008年の農業見本市の際には親サルコジではない来場者と言い争いになり、「それなら、お前が失せろ。この野郎」(casse-toi alors pauvre con)と喚きました。

本音丸出しで、ブルドーザーのように猛進するサルコジ政権・・・やはり、ちょっと異質なのかもしれないですね。でも、その馬力と迫力、今日のわが国で求められているような気がしませんか。