ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

「人権の国」の看板に、偽りあり!

2010-09-10 19:53:01 | 政治
フランスと言えば、人権の国。今から221年も前(1789年8月26日)に『人権宣言』(Déclaration des Droits de l’Homme et du Citoyen)を制定し、連綿とその系譜を引き継いでいます。人権を無視、あるいは蹂躙している外国の政府に対しては、強硬に是正を勧告、あるいは介入。人権外交と言ってもいいような態度で臨んでいますが、そのフランスが人権に関する是正を勧告されています。

数年前から指摘されているのは、囚人の人権問題。刑務所の定員を超えて収容していることも原因し、囚人の人権無視的な状態が続いているとか。そして、最近問題視されているのが、ご存知、ロマの国外追放。

欧州連合(EU、加盟27カ国)の欧州議会(定数736)は9日、フランス東部ストラスブールでの本会議で、フランスなどの加盟国政府に対して、少数民族ロマの「追放」を即時停止するよう求める決議案を賛成337、反対245、棄権51で採択した。決議に法的拘束力はないが、サルコジ仏政権への政治圧力となる。
 決議は、欧州市民であるロマを犯罪対策の一環としてルーマニアなどに送還したフランスの措置に「深い懸念」を表明。さらに加盟国政府がEU法を順守し、欧州市民に保証された「EU域内移動の自由」の原則に沿うよう国内法の不備を改めるよう求めている。
 決議案を提出したクロード・モラエス議員(英国)は毎日新聞の取材に「ロマを集団的に退去させているフランスのEU法違反は明白だ。EUの前身時代からの原加盟国であるフランスの措置が認められれば他国に波及し、追放のドミノ現象が起きかねない」と警鐘を鳴らす。
(9月9日:毎日)

ル・モンド(電子版・8月31日)も、国外追放の命令を受けた7人のロマの弁護を引き受けたクレマン(Norbert Clément)弁護士へのインタビューを通して、実態を紹介しています。

結果から言うと、クレマン弁護士や支援団体の協力で、7人のロマの人たちへ出されていた国外追放の命令はリール(市長は、社会党のオブリー第一書記)の行政裁判所で取り消されました。どうやって、国外退去の命を覆すことができたのでしょうか・・・

7人のロマの人たちが住んでいたのは、フランス北部、ベルギー国境に近いモン・ザン・バルール(Mons-en-Barœul)。彼らは、横断歩道以外のところで道を渡ったこともあったかもしれないし、公共の場でタバコを吸ったこともあったかもしれない。しかし、基本的にはフランスの法律をきちんと遵守し、刑事事件に関係したこともない。地域の決まりにも従ってきた。3カ月以上フランス国内に滞在するには暮らしていけるだけの財産が必要なことも、また県の発行する許可証が必要なことも十分知っている。7人のうちの数人は、低家賃住宅(HLM:Habitation à loyer modéré)への申し込みや子供たちの通う学校への申請を始めたところだし、残りの人たちは決められた期間だけフランスに滞在するつもりでいた。

それがある日の朝6時、警察によって連行され、留置されてしまった。その理由は、他人の土地に勝手に住みついたこと。彼らは子どもも含め、家族全員で警察に留め置かれ、6時間後に解放されたが、住んでいたところに戻って見ると、住んでいた仮設の住まいは、見事に取り払われていた。そして、他人の土地に勝手に住みついていたことを理由に、国外追放の命令を受けた・・・

しかし、他人の土地を違法に占拠しているケースでは、罰金刑が一般的。決して治安を乱すような犯罪ではない。それなのに国外追放に、それも2,000㎞も離れたルーマニアに送還するのは、違法な決定ではないか、とクレマン弁護士ら支援者が行政裁判所に提訴。それも、締め切り8分前という滑り込みセーフの提訴手続き。

国外退去の命が出された場合、48時間以内に異議申し立てをしないと、その命令は確定し、決して覆すことができなくなるそうです。この件の7人は、弁護士や支援団体に恵まれていたので、提訴する事ができましたが、フランス語もよく分からず、まして法的手続きには全く疎い外国人が、こうしたケースで命令を覆すのは至難の業。

そのため、多くのロマの人たちが、通常なら罰金で済むような理由で、国外追放にあっているそうです。結果、政府が自慢げに発表したように、今年7月28日から8月17日までの間に、151人のロマが強制的に祖国のルーマニアやブルガリアに送還され、828人が自主的に出国したそうです。しかし、クレマン弁護士によると、強制追放にあったロマの半分は、違法な命令によるものだろうということです。

国外退去の命令を取り消したリールの行政裁判所の決定で、暫くは当局の対応も穏便になるだろうが、国政のトップからして、ロマの人々を犯罪者とみなすような発言を繰り返すようでは、警察が超法規的な理由で国外退去の命令を出すことは、今後も続くのではないか・・・こう、クレマン弁護士は危惧しています。

退職制度改革(年金受給開始を60歳から62歳へ、など)、失業問題、景気の回復、財政赤字の解消・・・多くの国内問題を抱えたサルコジ政権。支持率も、大統領就任以来最低に落ち込み、なんとか国民の目を外に逸らしたいということでしょうか。2012年の大統領選での再選を目指し、右翼・極右の取り込みを図っているという見方もありますが、いずれにせよ、ロマをはじめ、移民や外国人に対するフランス国民の反感を意図的に煽っているような気がしてなりません。「違い」への不寛容を為政者が煽っている・・・保身のためとはいえ、後世に大きな禍根を残すことになるのではないでしょうか。

どうも、「不寛容」がフランスだけではなく、世界的に広がってきているのではないでしょうか。自分の暮らす社会、あるいは自分の人生への不満が、他者、それも弱者、少数派への攻撃という形を取って弾けつつあるのではないでしょうか。なんとなく危険な煙が漂い始めているようで、不安になります・・・

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。